花き業界の夏休み。自然を歩く 。

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 連日の猛暑に加え、地震や豪雨といった自然災害も相次ぎ、もはや「非日常」が日常化しつつある昨今である。そんな中、全国各地の盆商戦は概ね無事に終えることができたようで、まずは胸をなで下ろしているところである。

 お盆は、日本の大切な年中行事のひとつだ。家族や親戚が一堂に会し、ご先祖を敬い、感謝の気落ちを伝える大切な期間である。一部に品不足を感じる品目も見受けられたが、全体としては安定的な入荷が続き、店頭販売もおおむね良好に推移した様子。これを機に、秋に向けての機運も高まってきたのではなかろうか。
 今後の行事も目白押しである。9月9日の重陽の節句、9月15日の敬老の日、9月20日から始まる秋彼岸、10月6日の十五夜、そして10月31日のハロウィン。秋彼岸が明ける頃にはブライダルシーズンにも突入し、我々花き業界にとっては“季節と共に生きる”日々が本格化する。昨年は11月まで残暑が続き、秋を実感する間もなく冬を迎えたが、今年こそは五感で秋を堪能し、過ごしやすい夜長を満喫出来たら良いなと思う。
 一方で、忘れてはならないのが自然災害の影響だ。8月7日の鹿児島豪雨、10〜11日の熊本豪雨など、秋冬期の重要な産地が被災した。今後、現地の実情を丁寧に把握し、継続的な生産が行えるようサポートしていく責務が我々にはある。被災された皆様には心よりお見舞い申し上げる。

 さて、花市場は8月14日から16日まで休市となった。働き方改革の観点からも、市場関係者、生産者、生花店、運送業者を含む業界全体で適切な休暇を取得する必要がある。花は休まず咲き続けるが、対策を講じつつ、今回、業界あげて休日を取得した。筆者はこの休市期間を活用し、市場・生産者・生花店・関連業者で構成されるゴルフコンペに参加した。清々しい汗(と若干の冷や汗)を流しつつ、情報交換と親睦を深めることができたのは意義深い時間であった。

 また、折角の遠出ということで、趣味の写真撮影を兼ねて栃木県へ足を延ばし、渓流沿いを散策しながら自然風景の撮影を楽しんだ。ところが、ここで予想外の“刺客”に遭遇することとなった。散策路には「ヤマヒルに注意!」の看板。林の中を渓流に沿って上流へ進むと、まるで漫画のように木々の上からヤマヒルが降ってくるではないか。なぜ彼らは、無防備な首筋ばかりを狙ってくるのか? 認識できただけでも大小6匹が落下してきた。首筋に違和感を覚える度にヤマヒルが這っているのを確認する羽目となった。
 長靴を履いての撮影で足元は万全のつもりであったが、戻って脱いでみると、なんと長靴の隙間から侵入されており、足からは大量出血。ヒルの唾液には「ヒルジン」という成分が含まれており、血液の凝固を妨げる作用がある。8時間経っても血が止まらず、自宅に戻ってからシャワーで傷口を洗い流し、ヒルジンを絞り出すように強くつねってようやく止血に成功した。渓流散策の際には、体温や振動、二酸化炭素に反応するヤマヒルにはくれぐれもご注意いただきたい。

 悲惨な話はこれぐらいにして、渓流での撮影が実に素晴らしい体験であったことを伝えたい。文末の一枚として紹介したいのは、水温と気温の差によって生まれた霧の中に、樹間から差し込む光が筋となって現れる「光芒(こうぼう)」の風景である。二度寝して現地到着が遅れ、光芒の力強さはやや弱まってしまったが、渓流で初めて光芒に出会えたこと自体が感動的であった。時間と場所、撮影者の技量が高ければ、もっと幻想的な一枚を切り取る事が出来ただろう。至極の一枚とは言えない今回の撮影がまた、これからの撮影ライフを豊かなものにしてくれそうだ。

 渓流は上流から流れる雪解け水や湧き水が一年を通じて冷涼な空気を保ち、岩や苔から蒸発する水分が周囲の熱を奪うことで自然のクーラーのような働きを見せてくれる。木々が作る日陰や、谷間に冷気がたまりやすい地形も相まって、まさに“涼”の宝庫である。撮影に限らず、水に触れるもよし、野鳥や植物を愛でるもよし、自然を愛する全ての人にとってのオアシスである。

 今回の渓流散策を通じて、猛暑や豪雨の現実、そして自然が与えてくれる恵みとの明確な対比を肌で感じた。そして、こうした自然環境を後世に残す取り組みが必要であると再認識することが出来た。生態系を壊すことなく、自然と共生していく姿勢を、これからも持ち続けていきたい。

Canon EOS 6D MarkⅡ/SP AF 28-75mm F/2.8 XR Di LD Aspherical [IF] MACRO (Model A09)/ISO100/75mm/-1.3ev/f11/3.2s

萩原 正臣 9:00