•グループ会社・九州大田花き(KOTA)への出向と全業務への関与
2013年1月から7年3ヵ月(大田花き人生の約1/4)を、社長として福岡で勤務した。土地勘乏しく気質異なる(かどうかはあなた次第/筆者直ぐ順応した)地域で、営業・ロジス・情報・管理の全業務に携わり、経営の経験を積んだ。
•地域特性と流通課題の発見
九州は消費も然る事ながら生産の側面から大変重要な地域だ。しかし農協市場多い地域性から、荷物の流動性が低い。そのため、KOTAは各生花市場や生産地と連携し、飽和地域の荷を購入して、枯渇地域へ供給するなど、需給調整による生産量拡大を念頭に設立された。
•地元市場の役割と遠方市場(その他地域)との関係性
赴任後、現地メンバーから言われたことは、細かい事は我々に任せ、俯瞰して流通実態を観察・把握して欲しい。不足している点、お役立ちできる点を明確化し、良化策を打ち出して成長していきたいというものであった。 秋口から翌年初夏頃までが同地域の生産における主戦場となるが、夏場は地域柄もあり、生産品目や生産量が限定される。また、夏場の主産地は北海道や東北・甲信越地方となるが、距離の関係からふんだんな荷物が九州圏に安定供給される実態は極わずかであった。
第2章:需給調整と地元市場の再構築
•夏場の国産品不足と輸入品依存の現実
前述の国産品流通不足から必然的に輸入品のシェアが高まりを見せる。輸入品も目を見張る高品質な商材も流通しているが、国産品を利用したいニーズは根強く、仕入にお困りの生花店を頻繁に見かけるようになった。 ならば!と考え、KOTAが遠方の全農・経済連や農協と契約を結び、低温で鮮度高い直送商品を供給したら喜ばれるのではないか?と仮説を立て、成立する方策を検討した。
•地元市場の魅力向上による好循環の模索
前述通り九州は生産地としての意味合いを強く持つ地域であり、近隣生花市場で適正に相場が付き、換金できること(地産地消)が最良ではないか?と考え、そのためにできる事を検討した。 各地の生花店は地元に出回っていない商材を関西や関東の市場や仲卸を通じて積極的に仕入れを起こしているケースがある。経済合理性や、生活者のニーズを満たそうと考えれば最良の方法であるが、義理人情に厚い九州の方々は、困った時に助けて頂いた九州圏外の流通業者から冬場になっても購入しようとするのではないか?お互い様の精神である。 九州圏が出荷最盛期を迎えた時に、義理人情で遠方からの荷物を優先購入されてしまっては、地元生産者の生計が立ち辛くなることは明白である。地元での販売が難しければ、九州の生産者は遠方へ出荷しなければならなくなり、物流コストやCO2もその分余計に発生し、営業利益を確保する事が大変になってしまう。そこで、第二章の冒頭に記した通り、契約した遠方産地の荷物を、九州圏の生花市場へKOTAが出荷し、夏場の荷揃え強化のお手伝いをさせて頂く形を取った。 出来る限りバッティングしない品目・産地を選択しながら慎重に進めてきたつもりであり、地域市場の活性化は、生産者にとっても、また生花店にとっても価値のある取組みではないか?と考え推進して来た。
•B2B2Bから問屋業務への拡張と生活者ニーズの把握
前述までのマクロな取り組みで一定の価値を提供する事は出来ているが、日々変化するニーズをリアルタイムに把握し、次の一手を検討する時間が欲しいと考えた。地元市場に仁義を切り、若干の生花店直接販売を容認して頂き今日に至る。 マクロな取り組みを【農協機能】と位置付けるならば、生花店へニーズの把握を主眼とする直接販売を【問屋機能】と説明する事が適切であろうか? 大田花き本社で長らく産地営業に携わって来た筆者は、次第にKOTA重点顧客への対応をすることとなった。本日の本題はここからである。
第3章:誠実さを問われた一件の電話
•花屋とのやり取りにおける価格対応の失敗
大田花きに入荷した出始めの産地・品目の見積もりを依頼され、納品可能な単価や数量をお伝えした。
花屋「高か~!もうちょっとコギッテ何とかならんですか?」
筆者「すんません!出始めで品質も良かし、何とかこれでお願いします!」
花屋「しゃーない。必要やし、品質も良いんやろから、3ケース入れとって」
筆者「有難うございます。またよろしくです♪」と円満なやり取りで終えた。
夕方になり再度大田花きの担当から一本の電話が鳴る。「想定以上に動き悪く、他市場も踏ん張って販売しているので、単価押さえるからもう少し販促して欲しい!」と連絡を頂き、再販促に取り掛かる。 『昼過ぎに欲しいと言われたから、価格抑えて追加販促したら喜ばれるかな?』と、自己都合を正当化して再チャレンジする事にした。
•顧客の怒りと「誠実さ」の本質
「お電話宜しいですか?昼過ぎ購入いただいた商品で新価格が出ました!お好きな産地の商品をリーズナブルに提案できるのですが、如何でしょうか?」と提案した。 すると
「…。九州大田花きさんは人の足元見て仕事されるんですか?!必要だと言ったら高く売りつけ、売れ行き悪ければ安く押し売りする。商売は一発勝負や!値段下げて売るんやったら、初めからその価格で提案してこんね!客を選んで値段変えるような不誠実な取引先とは、もう二度と取引せん!明日あんたが10円で提案してきて、同じ商品を別の業者が100円で提案してきたら、気持ち良く俺は100円の商品を買う。そういう不誠実な奴が大っ嫌いや!」
と逆鱗に触れ、Sクラスの顧客を激怒させてしまった。
•原点回帰と再チャレンジの決意
調子に乗っていたわけではない。それなりに誠実に対応してきたつもりであった。しかし、落ち着いてやり取りを振り返った時に、そう取られても仕方ないとも感じることが出来た。約20年の経験と時間が一気に振出しに戻る感覚を覚え、正に原点回帰を強制的に味わうこととなった。失敗は地道な行動で埋めるしかない。来る日も来る日も、今まで以上に誠実に明るく、対応させて頂き、いつしか認めて頂き、今では公私問わず、僭越ではあるが最高のパートナーとして相思相愛となっている。
第4章:信頼される花屋の哲学
•地域一番店の仕入れ・販売哲学
では、その方や店はどんなだろう?エピソード交えて少し触れたいと思う。 実に豪快で親父ギャグを連発するメリハリの利いたデジタルとアナログの融合する頭の回転数が非常に速い御仁である。 仕事に関しては大変厳しい方で、来店する生活者をもちろん第一に考え、そこには一切私情をはさむ事は無い。 「お客さんは他店を見て回り、心が動いたとき(感動したとき)に初めて購入して頂ける。品揃えでも他店にあってうちに無いのは好かん!」と、バリエーションや品質・値頃感を大切にされ、仕入れや販売に尽力されている。
•誠実な営業姿勢と生活者への真摯な対応
今でも忘れないエピソードの一つは、カスミ草が少なくて高騰していた時があった。品揃えに高いプライドを堅持していた同店は、勿論仕入れて販売するが、手書きのPOPに「品薄で品質あまり良くないのに高いから買わない方が良い!」と、来店客に向けてデカデカとPRしているではないか!?色んな営業の仕方があるわけだが、後にも先にもこんな衝撃的な営業方法は見たことが無い。
大変失礼な話だが、店舗の立地は博多の中心部から大きく外れ、周りには畑が広がり、商店もまばらな地域である。ポツンとコンビニがあり、ポツンと生協があり、ポツンとうどん屋がある町で、お世辞にも賑わっている地域とは言い難い。 しかし広告を打つことなく、人づてに評判が広がり、福岡市内は勿論のこと、わざわざ160km離れた大分県や、これまた160km離れた長崎県から、畑の中のポツンと一軒家ならぬポツンと花屋に、自宅用であったり、お世話になっている方へ贈る花を買いに来たりする。8月盆ともなれば100台近く収容できる駐車場が満車となり、ガードマンを雇って交通誘導しないと警察に苦情が直ぐ入る地域一番店である。 業態は小売と量販店の中間のようなスタイルで、単品束がところせましと並べられている。品目による店頭売価設定が決められており、相場の加減で束の本数が増減するスタイルである。5本束で売っていたかと思えば、10本束で同じ値段で陳列する時もあるような調子だ。一般の生活者に対して箱売りしている時もあった。仕入れ担当曰く、今日明日で裁かないと明後日にはまた仕入する事となり、仕入れて捌くのが我々の責務だから頑張っています!と仰っていた。 一方、東京銀座にわざわざ福岡から胡蝶蘭を送る準備がなされていたところも見かけている。芸能人への発送もあった。東京銀座なら近場に幾らでも花屋があるにも拘わらず、送主が同店に依頼する信頼度の高さは並大抵ではないと感じた次第である。
第5章:生活者の心を動かす花の力
•花を買う理由と感動の演出
•顧客層の多様性と購買行動の変化
地域性や人口動態。業態や地価・人件費や仕入先他、様々な要素が絡み合い、多様性の時代を迎えているだけに何が正解で不正解か?は筆者も分からない。しかしこの事例でいえる事は、生活者に感動を与えない限りは、売上もたたない。誠実に立ち振る舞わない限りは、成果が出ないということではないか。 レジに並ぶ身長150cm程の初老のマダムが、180cm程のドウダンツツジを3本抱えて並んでいた。どこに飾るのだろう? 違う日には20代半ばで、店内でもサングラスをかけた若夫婦が洒落た観葉の尺鉢を抱えてレジに並んでいた。
老若男女の幅広いニーズにマッチする品揃えを実現し、回転率高く商品を流通させてゆく。一部卸売りもしており、生け花の先生が同店の品揃えに引き寄せられて、バックヤードで注文をしている。
•店舗運営における細やかな工夫と従業員の感性
開店前には恒例となるレジ担当従業員(花の知識は乏しい)が店内くまなくチェックして、「自分が生活者だったらこの商品は買わない」というものをバックヤードに戻して価格を変更し、「お勤め品コーナー」で安価に販売する事を徹底している。生活者に近い感覚を大切にして、顧客満足度に繋げている。中には「クラシカルな色やん!」というものも含まれており、泣く泣くお勤め品コーナーに並べている(客注でも入らない限り注文は来なくなった)。
第6章:生産者・流通・販売の三位一体で目指す未来
•顔の見える取引の重要性
生産者自身が丹精込めて育てた花々はどのように消費されて行くのだろうか?普段使いでカウンターキッチンに、つつましやかに飾られるだろうか?人生の門出にふさわしいウェディングブーケに生まれ変わるのだろうか?偲ぶ会に欠かせない荘厳な存在なのだろうか?ニーズに応じた必要不可欠な条件を満たすように努める事が欠かせない。
•ニーズに応じた生産と提案型営業の必要性
先週は安定した流通を目指そうと、流通業者視点で広い話をさせて頂いた。 今週のポイントは顔の見える取引で、ニーズにマッチした生産~流通~購入~販売を行う事が何よりも欠かせない!という話で締め括りたい。
独りよがりでは経済行為は完結しない。パートナーのニーズをキャッチして、求められるものを生産供給する事が肝要だ。 ニーズは、利用される場面により重視されるポイントが異なってくる。日持ちや輪の大きさ、花色・発色、花の数、枝数、ステムの硬さ、出荷時期や期間、流通ロット他、様々な要因が重なり合い、条件を市場や生花店が吟味し、生活者の手元に届く事となる。
時として最前線でもニーズが見えない時がある。そんな時は生産者から店舗に合ったお勧め商品を自信もって売り込もう。失敗したくない時代になって来た。昔は相場が半分なら倍買ってくれる方が大勢いた。今は値段の高い低いに関わらず必要量で充分といった仕入マインドが膨らんでいる。 ならばお得意先様を見定め、密なるコミュニケーションを図り、求められている流通を実現する事が最短となる。
まとめ:
「誠実さ」と「信頼」が、流通の本質である。
筆者の経験をもとに今回昔話を書かせて頂いた。単なる物流や販売テクニックの話ではなく、人と人との信頼関係が経済活動の根幹を支えているという普遍的な真理である。変化の激しい時代においても、顧客の心を動かす誠実な姿勢と、現場に根ざした柔軟な対応力が、持続的な繁栄を導く鍵であることがお分かりいただけるだろう。 このように記しながら弊社に置き換えれば、まだまだ改善の余地があり、よって更に成長し、お取引先様や生活者を花で幸せに出来る伸びしろがあると、勝手な解釈であるが感じている。 主語は自分ではなく相手である。相手が求めているものを洞察し、スピード感をもって提案する事が肝要であり、熱意や配慮を携えながら、幸せの条件を満たすよう邁進していく。

Canon EOS 6D MarkⅡ/EF75-300mm f4-5.6 USM/ISO2500/125mm/-1ev/f4.5/1/125s
萩原 正臣 9:00