11月25日まで渋谷ストリーム4階~6階の各フロアで開催されている、いけばな龍生派の展覧会「植物の貌二〇二四」を観に行った。展覧会のパンフレットには龍生派の家元・吉村華洲先生のご挨拶が載っており、「(前略)私ども龍生派の作家一人一人は、日頃から真摯に花と向き合い、花の力を借りて作者の個性を表現するいけばなを目指しております(後略)」とある。会場では様々なテーマに沿った作品展示と、小さないけばな(生花(しょうか)/自由花)のワークショップが行われていた。コーヒーやティーを飲みながら見ることが出来るルームがあり、前の方に行って真剣に見て学ぶことも出来るしつらえであった。
龍生派の家元・吉村先生には、2020東京オリンピック・パラリンピック競技大会で花のおもてなしをするために設立された全国団体「日本花き振興協議会(現在、全国花みどり協会に名称を変更)」の活動で大変お世話になった。特に、聖火リレーのスタート出発式が行われる福島県のJヴィレッジをいけばなで装飾する際、吉村先生が中心になって、いけばなの各流派の家元の先生方とワンチームになり、大きないけばなオブジェを作られた。実は、材料を持って行って「これから飾り付けをしよう」という時に、1年延期となるニュースが流れたのである。その中でも先生方は腐ることなく、翌日、観客の来ない会場でオブジェを作り上げられた。1年延期となってしまったが、誰もいない会場でも力強く応援する花々の美しさに、いけばなの先生方は勇気を貰ったという。1年後、無事に開催された聖火リレーグランドスタートでは、(吉村先生は出席できなかったが)いけばなの先生方によって会場は素晴らしいいけばなオブジェで彩られ、聖火リレーの始まりを祝福することが出来た。
このような深いご縁もあって、龍生派・吉村先生の心意気、あるいは、様々なものを企画するディレクターとしての才能が感じられる龍生派の渋谷での展示を、毎年楽しみにしている。今年は吉村先生いわく、「磯村さん、ようやく自分の思っている展示会が出来ました。ゆっくりご覧ください」とのことであった。使われている花材は、普段、我々が市場で見ている花も多い。大田花きでは事務所にも新品種のサンプルが飾ってあったり、花もちテストをする場所があったり、切花・鉢物とも絶えず花を見て、しかもそれを「さあ、いくら」と値決めをして販売している訳だから、品評会の審査員のような厳しい目線で毎日花を見ている。見ている筈なのだが、普段、市場で見ている花々が、龍生派の先生方の作品ではこんなにも生き生きとしているのかと、言葉に出せないくらい美しく輝いていて、ビックリさせられた。龍生派の先生方だけではないと思うが、いけばなの先生方の、花の力を引き出すこの凄さというのは、どこから来るのだろうか。何か観ている自分の方が「自分はまだまだだな」と思ってしまう。先生方の花に対する向き合い方が優れているのか、人格の問題か、愛情の問題か。思案しながら展示会を後にした。
最後に、今回の展覧会のテーマの1つにもあったが、龍生派では、近年の住環境に適合した、飾る場所を選ばない新しいスタイルの極小いけばなを広めようとされている。ちょうど、今では多くの生花店でも販売している、コップに飾るくらいの極小ブーケと同じサイズ感だ。私が知るところでは小原流の小原宏貴家元も、このサイズ感のいけばなを広められている。住環境の変化で、玄関やダイニングなどにそっと置けるサイズの花瓶やコップに合わせた生花(しょうか)・自由花が、今後必要になる。ぜひとも、各流派でも生活者のライフスタイルに合った、あるいは、住空間にあったいけばなを提唱し欲しい。また、日本はもちろんのこと、海外でお教室を開いていらっしゃる先生方は、どこの国でも都市部はアパートメントの住居が多いだろうから、外国の方にも教授し広めていってもらいたい。
投稿者 磯村信夫 11:29