生産資材高騰の折にも、卸売市場は農家収入を考え取引すること

花き業界
 先週、2022年度の主要青果物「食品流通段階別価格形成調査」(農水省調べ)の発表があった。5年に一度行われるものである。それによると、小売価格に占める生産者受取価格の割合は47.5%であった。生産者の取り分以外では、小売経費が19.9%、集出荷団体経費が15%だった。因みに卸売経費は5~7%、仲卸経費は9~16%で、卸売市場全体では平均約15%であった。少子高齢化、そして人手不足の中で、集出荷団体経費の割合が増えてこそ、生産の安定が保たれるのではないかと思う。それと言うのも、生産者は高齢化する中で、出荷調整機能を農協等に任せて生産に専念出来るし、農協も受け入れて、機械化も進んでいるし、保冷庫も完備してきている。

 かつて、卸売市場不要論が沸き上がった時、大田市場の仲卸から衆議院議員になり、自民党の卸売市場議員連盟の事務局長を務められている平将明氏が次のように反論した。これ以前の調査で、アメリカの青果物の小売価格に対する生産者受取価格が殆ど30%程度であるのに対し、日本は低くても35%~40%以上あることから、多段階である日本の方がアメリカより生産者受取価格が多いこと、しかるに今の系統農協、卸売市場流通が合理的であると主張した。アメリカは大規模小売業者による、いわゆる“バイイングパワー”による力が大きい。卸売市場が無いので産地は直接交渉しなければならず、結局、生産者受取価格が低くなってしまうのだ。この訴えにより、市場法は維持された。また、卸売市場の社会的な存在意義と役割の明確化を示す指標とされた。その後、コロナ禍前、EUの生鮮食料品花きの小売価格に対する生産者手取りが3割を切ったというニュースがあった。量販店のバイイングパワーで押し切られた格好だ。これでは生鮮食料品花きの生産が出来ないと、小売価格に対して3割の農家手取りは確保するようにEUは声明を出し、指導がなされた。EUでは、オランダの花市場やフランスのランジス市場等、市場の流通があるものの、日本のように国産の多くが卸売市場流通をしている訳ではないからだ。卸売市場制度が確立していない国では、生鮮食料品花きの品揃えは貧弱で、大規模小売業者が寡占化して販売している。

 花の小売価格に対する生産者受取価格の数値は、直近のものを見られていないが、2008年、ないし2009年だったと思うが、小売価格の(一部の品目を除き)33~35%を確保した数値だった。花の場合は食べるものと違ってロスが出やすいし、大の花好きだとしても、家庭で一週間に一つの花束のサイクルくらいの購入頻度だろう。鉢物だったら、一月に一鉢くらいではないか。商品回転率がゆっくりしているという課題があるので、小売価格をその分、上げざるを得ない。もちろん、小売価格にはアレンジするフラワーデザイナーの技術も載せられる。この食べ物より高くなった花の小売価格に対して、生産者の取り分を最低3割確保することが、我々卸売市場の一つの責任だ。この数値を頭に入れておき、年間を通じ安定した取引価格で生産者の商品を販売しなければならない。

 2022年度、小売価格に対する青果物16品目に対する生産者受取価格の割合は平均で4割を超えており、世界レベルで見ても高いものであると言える。しかし、出荷経費が上がっている中で、小売価格を値上げしても、生産者手取りは下がらないように、この物価高の中でも考え合理化をしなければならない。出荷団体である農協は、今までのように銀行事業、保険事業から得た利益を経済事業である農業そのものの生産・販売の赤字を補填することが難しい。従って、生産・出荷団体、トラック業者、卸売市場、そして卸売市場から小売店・量販店にいく物流のサプライチェーン全体でどのように無駄を排除できるか、早急に見直していく必要がある。少子高齢化・人口減の中、生産者と出荷団体は、同じチームと捉えて役割を明確にすることも、産地の生産維持には必要だ。16品目の農家受取価格は高く、卸売市場流通が効率的であると証明出来ている。しかし、今後も正味の農家手取りが減らないよう今のサプライチェーンの改善が必要だと、今回の価格形成調査を見て思うのである。


投稿者 磯村信夫 14:36