日本だけでない、海外の歴史や情勢を把握して、仕事をする

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 静岡大学で名誉教授である岩井淳氏の『ヨーロッパ近世史(筑摩書房/2024年8月)』を、時間をかけて読んだ。本書は、15~16世紀の大航海時代や宗教改革に始まり、18世紀後半のイギリス産業革命やフランス革命までの時期に、近代でも中世でもない時代として「近世」が存在したという歴史的認識の立場にある。その「近世ヨーロッパ」での宗教改革や複合国家設立などが、詳細に記されている。(これは本書に記述はないが、私の記憶では)ヨーロッパで花き関係でいえば、フランスからユグノーたちが、オランダはじめ、ドイツ、イギリス等に亡命した。ユグノーたちはガーデニングを嗜む趣味があったので、後の産業革命ではイギリス他の花形産業になった織物産業だけでなく、花、ガーデニングの文化がその地で花開いた。これがオランダやイギリスでガーデニングが今でも生活の一部になっている歴史的背景だ。プロテスタントの国々では、ルター派やカルヴァン派を問わず、基本的には音楽、花、絵画を牧師さまの教会に飾ることを許されていた。現代でもイギリスが植物収集やガーデニング、そして特にナルシス(ラッパ水仙)の生産が一番なのは、ユグノーたちの趣向の上、ルネッサンス後、ギリシャ・ローマの伝統を受け継ぐのはイギリスだという自負心がそうさせているのだろう。

 人間が救われるか否かは神によって予定されているという救済予定説を主張したジャン・カルヴァンを心棒するカルヴァン派は、フランスで「ユグノー」、オランダでは「ゴイセン」、イングランドで「ピューリタン」、スコットランドでは「プレスビデリアン」と呼ばれた。この各地でのカルヴァン派の影響は非常に大きい。例えばイギリスのピューリタン革命では、オリバー・クロムウェルが国王を有罪にして処刑、その後共和制を実現した。プロテスタントであれば宗派を認め、人種を認め、オランダに見習って国際貿易を行い、あたかも近代ヨーロッパ、あるいは大英帝国のような形を形作った。ピューリタン革命では独裁ではなく議会があり、今のイギリスの二大政党の大元が確立され、そこでの意思決定が、国王が有罪とし共和制を実現させたのだ。戦争の際に戦費を賄うために徴税をしたりするなども、この時に行われていた。身分制度や奴隷制度を是認する等の、近代的ではない部分があろうとも、独裁ではなく議会で議論され、プロテスタンティズムの価値観で物事が行われていた。その後の名誉革命によって、議会の多数派が内閣を組織する政党政治も徐々に浸透し、君主政と議会政が組み合わされて機能した。イングランドは名誉革命でオランダと協力したので、オランダからイングランドの新国王が就任し、オランダの仕事の仕方、意思決定の仕方、議会の在り様を取り入れて今のような形になっている。このようなことが近代以前の「近世」に起こっている。オランダやイギリスは、ユグノーなどの宗教的亡命者をも取り込み、一定期間、君主国とは異なる道を歩むことが出来たのである。

 近世以降、20世紀の戦争の時代と後半の冷戦と平和がある。そして21世紀の人口爆発、地球温暖化、エネルギー革命、生成AI、生化学、そして民主主義国家が過半数を割る現在の世界になっている。このような歴史を紐解くにつれ、議論を行い、そこで結論を出し、それに従って行動する議会の重要性が、一般の日本人には欠けているように思う。日本ではどうも、政治を軽いと思っている人が多い。国会、あるいは都議会、私の場合は住んでいる大田区の区議会。ここへの関心が、ヨーロッパ人、アメリカ人と比べて、歴史的な背景もあろうが、薄い。みんなでもう一度、日本が良くなるために関心を寄せる必要があるし、会社経営の場合、日本国内のみならず、海外で起こっていることを把握し、出来ることを行い、日本が信ずる良い方向に持っていくことが必要だ。大田花きも、日本の消費者に花で幸せになってもらおうと思って、国内ばかりに目を向けがちだが、海外の歴史や情勢にも、目を向けなければならない。タイにはバンコク大田花きという関係会社があり、また、シンガポールにも事業を展開している。国内だけを見ては日本を取り巻く世界の影響にも対処出来ないし、アジアに関係会社があるというのに、まるっきり会社のビジョンを描くことが出来ない。その国の進むべきものや各産業に対する政策、国民の所得等を把握していかなければ、結局はその会社が成長出来ないということであろう。

 農林水産省が発表した試算によると、2030年には、東北地方と同じだけの耕地面積がなくなる恐れがあり、また、農業の経営体数は2020年から半減する予測になっている。高齢化もあるが、生産資材の価格が上がったことや天候異変もあり、特に若い人たち中心に「農業は儲からない」と思われているのだ。これをどうにかしていかなければならない。国も農業を推していく政策を取っているが、日本で最大のお取引をいただいている花市場・大田花きとしても、供給側の生産者、そして販売側の花き販売店に、儲かってもらえるように考えて実行していかなければならない。花作りを、花き販売を「やっていてよかった」と思ってもらうようにしなければならない。これを大田花きの責任と捉えている。そのために、国内のみならず海外をも歴史的な時間の物差しで捉え、そして現在を見て、短期・中期計画を作成していく。これが必要だと思っている。


投稿者 磯村信夫 16:28