夏の一つのスタイルとなったクルクマ

花き業界
 パリオリンピックが始まった。東京オリンピック・パラリンピック競技大会から早3年だ。花の思い出を言えば、東京五輪では国産の花を使ったビクトリーブーケがメダリストに贈られた。このブーケに使われたヒマワリが、現在では夏の大品目になっている。色も形も、芯と花弁の取り合わせも、そしてこの頃は出荷するときの切前も様々なものが出荷されている。特に今年から、地方のお花屋さんからも「ヒマワリが良く売れている」と聞き、思わず嬉しくなった。地方では、3年前は畑や庭に咲いているヒマワリだったのが、切り花としても売れるようになってきたのだ。勿論、ビクトリーブーケでヒマワリの他に使用されたトルコギキョウやバラも、暑い中でも売れている。日本農業新聞の市況を見ていただければ、絶えず前年の単価を上回っているのが分かる。

 オリンピックでは、得点したり、勝ったりすることは本当に難しいが、仕事の場合、一生懸命やれば得点することが出来る。サッカーで言えばゴールの幅がもっと広く、不足しているものや好まれるもの、あるいは、お取引先が困っていることを見つけて注力すれば、得点に繋がる。甘いかもしれないが、どんな仕事でも一生懸命相手のことを考えて、物を作ったりサービスすれば、得点出来る筈だ。オリンピックの各競技で日夜奮闘している選手たちは、なんと難しいことをやっているのだろうか。それに比べれば、仕事は相手のことを考えて努力すれば良い。仕事も大変だが、選手に比べれば点が取りやすく、自分の存在意義も感じることが出来る。頑張っていこうではないか。

 今、大田市場ではクルクマの各産地が展示会を行っている※。クルクマはタイの前国王(現在はラーマ10世だが、その前のラーマ9世・故プミポン国王)の時代、王室が農村部を支援するために始めた「ロイヤル・プロジェクト」の一環で生産が拡大した。大田花きも縁あって協力し、球根生産と品種改良、球根の輸出等を現地の生産者と行った。クルクマの鑑賞部分は“がく”が花びら化したものなので、クリスマスローズやアジサイのように花もちする。また、品種によっては、蓮の花のような姿のタイプもある。夏の商材として売り込み、現在の市場規模までに成長した。
 ついでにここで、タイにある大田花きのグループ会社・バンコク大田花きにも触れておきたい。平成末期、バンコクの郊外にタラートタイという市場があり、その中に日本流の卸売市場を作る機運があった。当社は、現地の実業家(洋ラン大規模生産者)他、数社の協力を得ながら卸売事業展開をこころみた。この日本流の委託出荷や差別的取り扱いの禁止、そして速やかな支払いのためには、政府のお墨付きが必要不可欠だった。しかしながら、政変によってそれが得られず、結局、事業計画は頓挫してしまった。それでも、ASEANにおいて花き園芸振興のお手伝いをしたいという想いからバンコク大田花きを設立し、当初の計画よりも事業規模を縮小しつつ、農業資材や園芸植物の売買等を進めている。

 さて、クルクマは日本市場で大きく成長しているが、まだまだASEAN(東南アジア諸国連合)と取り組むべき品目は多い。例えば葉物が良い例だろう。インドネシアで開催されたG20の会合をニュースで見た方も多いと思うが、葉物を沢山使った素晴らしい装飾が施されていた。その中には既に商品化して世界に出荷されているもの、また、大変珍しく、これからメリクロンにかけて増産されるのではないかといったものがいくつも見受けられた。SDGsへの関心が大きい中で、立地条件からしても、ASEANはこの素晴らしい葉物を世界に供給する基地となる筈だ。商品を輸入するも良し、あるいは苗を輸入して国内生産者が育てて出荷するも良し。そのような生産出荷体制で、日本の花き業界はこの暑い夏を乗り切っていきたいと考えている。

※大田市場のセリ場前 中央通路では、毎週フェアや展示が行われ、買参人へ各産地の商材の魅力をPRしている。


投稿者 磯村信夫 13:11