利益の差は、産業界の差ではなくて事業分野の差

花き業界
 先週8/15(木)~8/18(日)まで休市でお休みをいただいたので、例年心がけている勉強に取り組んだ。ライフワークである小林秀雄の研究をすること、本を読むことである。そして今年は初めて、2023年にお亡くなりになった信越化学工業(株)の故金川千尋会長に倣い、日経新聞を徹底的に読み込むことも行った。株式欄をかなりの時間を使って読み込み、いくつかの発見があった。本日は、信越化学工業をここまでバランスの取れた良い会社にした故金川会長の教えに従って三日半行動した結果を報告したい。なお、株式市場は投資家よりも投機家が多く存在する。従って株価がその会社の実態や財務内容、成果、そして今後の期待等を正しく表しているとは限らないことを前提に見たことをお伝えしておく。

 良い会社、成功している会社とは、売上を伸ばしているのではなく「価値創造によって利益を伴う成長」を実現している会社である。このことがよく分かった。また、かつてはタコの足のようにコングロマリットで事業展開を企業は行ってきた。しかし今は整理整頓している印象だ。流行りのM&A1つとっても、強みや戦略に沿ったM&Aを行っており、意図が不明確な買収は、成功企業においては見受けられなかった。

 そして収益性の差の主だった要因は、産業ではなく事業分野にあるのではないだろうか。各産業界の卸売業を見てみた。ここでは生鮮食料品業界の方が分かりやすいので、例えば加工食品の卸売業は、取引先であるメーカーも小売店も大規模化が進んでいるため、薬の卸売会社と同様に、営業利益率1%を何とか確保する水準だ。我々卸売市場は、経常利益率では不動産賃貸業ほか、卸売利益以外のものがあるので1%以上を確保するも、水産・青果・花きの卸売販売だけを見ると、営業利益率1%を達成しているところは多くない。卸売市場という事業分野自体が、収益性が低いということであろう。

 では、その中でも時代に合わせて変化していくためには、何が必要だろうか。無駄な投資は行わず、省力化投資、マテハンの導入、DXやGX、もちろん社員の賃上げ・能力開発、そして鮮度保持のための定温庫整備等、これらの投資が卸売サービス対象である生産者・仲卸・中間流通業者・運送店・小売店の「顧客満足」商売繁盛のために欠かせない。そしてそれが、最低でも1%の営業利益率を確保することに繋がる筈だ(花市場の経営者としては、良い未来を築くためには理想は2%なのだが)。更に鍵となるのは、取引先への価値創造の提案だ。卸売会社の立場で、生産者へ来年の売れる作付けの提案、また、例えば買参人サイドへ「結婚式に予算内でもっと楽しくハッピーな装飾が出来ます。色合いはこういう風で季節の枝物を取り入れましょう」といった価値提案。専門店でもスーパーの花売り場でも、花の取り合わせやポップの内容等、その店の主要顧客へのアピールを行う価値を創造して提案するのだ。その結果、自社の価値が高まるだけではなく、最も大切な生産者、そして花を販売する小売店への価値創造に繋げていく。そして市場を通じて沢山の花が流通し、花き産業のサプライチェーン全体の繁盛に繋がっていく。そしてみんなで利益率を高めていく。こういうことなのだろうと思う。

 様々な会社が様々な業界で活動しているのを見ると、大企業の従業員は日本全体の約30%だが、そこでの人の活動状況が想像出来る。良い企業と言われているところは、同業種でも、他社の良いところをさっそく真似たり、そこから学んでもう一歩顧客満足のいく価値のサービスを提供したりしている。とにかく取引先や生活者に選んでもらうための価値創造を、日々行っているのだ。

 仕事というのは価値創造を行い、その分野、その地域でユニークな存在になるということなのだろう。故金川会長の教えを(短い期間だったが)実行してみて、そう感じた次第である。


投稿者 磯村信夫 15:12