主権“在現場”に成功あり

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 18日、今年の冬はラニーニャ現象の影響で雪がしっかりありそうなので、スキーシーズンを前にトレーニング目的で伊勢原の大山に登った。阿夫利神社の下社に行く途中に、大山寺があるのだが、そこでは彼岸花が満開だった。しかしこれは、標高が高いからだ。昨日のお中日、品川区にある養玉院如来寺に行ったが、彼岸花はまだ蕾の状態だった。大田区大森にある自宅の周りでも、同じく蕾のままだった。

 こんな気象状況が原因で、お彼岸の菊類は遅れてしまい、今日のお中日後の最初のセリでは、一輪菊・小菊・スプレー菊の一部の相場が低迷した。しかし、ディスバッド菊の相場は固かった。菊の中でもディスバッド菊を好む人が増えているし、仏花需要の後、ディスバッド菊は他と取り合わせてアレンジにしても、残り物感がなく、消費者が買ってくれる菊なのだろう。ディスバッド菊の生産量はまだ少なく、オランダと同様、今後ともスプレー菊とディスバッド菊がかなりのシェアを高めていくものと思われる。

 大田区大森や、私の実家がある大田区池上では、生花店が新しく出来ている。新しい店はとにかく素敵で綺麗だ。店主と話したが「楽しい店」にしたいと仰っていた。楽しい店と言えば、みんなが知っている「ドン・キホーテ」もそうだろう。ドン・キホーテは総合スーパーを主力にするユニーを買収し、様々な専門店、あるいは業態の店を国内外で展開している。ドン・キホーテの基本は便利さと安さ、楽しさ、そしてトレンドで、うず高く積み上げたレイアウトと、的確な“刺さる”ポップが特徴的だ。ドン・キホーテの場合、仕入れから販売まで全てを、家電や食品等の各カテゴリーの担当社員やアルバイトが一切の権限を持っている。徹底した現場主義で、パーフェクト権限移譲をしている。これは凄いことだ。ハーバード大学教授クリス・アージリスの思想が思い出される。50年前、私がまだ大学生だった時に(殆ど授業には顔を出さなかったが、その時、どうしても出たいと思って)勉強したのが、経営学のクリス・アージリスの講義だった。当時、アージリスはドラッカーと双璧をなす経営学者だった。権限移譲を積極的にして「考える社員」を作ることで、一人ひとりが失敗しながらも立ち上がって能力を身に着け、企業に大きな利益をもたらすとした。

 現場の権限移譲で成功した例として、スカンジナビア航空のヤンカールソン氏も挙げられるだろう。私もオランダの花市場・アールスメールの故ミューダー社長と一緒に何度かお会いしたが、彼は社員とお客様が接するその瞬間を「真実の瞬間」と呼び、その瞬間が会社の成功を左右すると考えた。そして現場に権限移譲を行うことで、若くしてスカンジナビア航空を立て直したのだ。

 私の住む大田区大森にも、駅から7、8分のところにドン・キホーテがある。生鮮食料品も販売している大型店舗だ。私の家とは線路の反対側にあるが、ドン・キホーテはとにかく面白いのでつい行ってしまい、そして時間が経つのを忘れてしまう。便利さと安さ・楽しさ、そしてトレンドを意識した品ぞろえ。主権在民ならぬ主権“在現場”だ。これはドン・キホーテのような店舗のみならず、小さなお店の発展でも同じだろう。生花店でも、便利さと安さ(これは店によって違って良い。高級なものを扱う店でも良い)、そして楽しさが必要だ。更にトレンド、絶えず新しい価値を加味することが欠かせない。羊羹の虎屋だって、時代に合わせて塩梅を変えているそうだ。花き業界も、新しい価値を絶えず模索して生産、流通、そして販売していくことが必要だと思う次第である。

 
投稿者 磯村信夫 11:05