フラワー・オブ・ザ・イヤー・OTA FLOWER Of THE YEAR OTA

大田花きでは、優れた花きの出荷を奨励し、一層の品質向上を促すと共に、流行の指標づくりを行うことを目的とし、魅力ある花を作出された生産者の方へ、その功積を称え「FLOWER OF THE YEAR OTA」として表彰しています。同時にこの賞は、流行を定点観測の上、データベースとして蓄積し、今後の人気潮流を占うものでもあります。


2021年度


(株)大田花き花の生活研究所が持つ各種データを元に、産地別品種をノミネートした上で花業界でご活躍されている方々を審査員としてお迎えし、より客観的な選考を行っております。また、(株)大田花き花の生活研究所では、この結果を元に、花の流行分析を行っています。



●FLOWER OF THE YEAR OTA2021 最優秀賞


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品目: シャクヤク  品種: かぐや姫
産地名: 津南町農協様(新潟県)


■生産者様のコメント

この度は大変名誉ある賞をいただき、ありがとうございます。私たちの住む津南町は日本有数の豪雪地帯で出荷できるのは春から秋の半年足らずとなっています。その短い期間の中で栽培しています。その中で、シャクヤクは5月下旬から6月下旬の1か月ほど(かぐや姫は6月中下旬)の出荷になっています。シャクヤクは今回受賞のかぐや姫のほかに35品種ほど栽培しています。みなさまに改めて津南産の切花「雪美人」を知っていただく機会を得られ、大変嬉しく思います。今後も「雪美人」ブランドに恥じぬよう、また、みなさまに喜ばれる草花をお届けできるよう精進したいと覆いますので、津南町切花組合をよろしくお願い致します。
※「雪美人」とは津南町から出荷される切花ブランドです。

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(写真:津南町農協 村山雅美様 かぐや姫生産 半戸敬二様)

【所感】

津南町様のかぐや姫は標高500メートル前後の地で露地栽培されています。近隣から仕入れる堆肥を使用、針葉樹(すぎや松)のかんなくずなどを入れることで害虫除けとし、石油由来の化成肥料は一切使用せず、環境配慮型、かつ持続可能な生産農業を実現しています。生産者のおひとり関谷様曰く、「(化成肥料を使っていないのに)大輪の花が咲くことに自分でも大変驚いている」と。
花きは自宅需要が盛んになってきたことに伴い、一輪でその場の空気感を変える力のある華やかなシャクヤクはコロナ禍以降、販売が伸びてきた品目の一つです。かぐや姫の明るい表情、津南町農協様の品質の高さでこの度の受賞につながりました。流通は通常 6 月中旬ころから 7 月下旬まで。(その年の気候によってこの限りではありません。)




●FLOWER OF THE YEAR OTA2021 優秀賞


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品目: ヒメヒマワリ  品種: 旭
産地名: 中島博英様(長野県)


■生産者様のコメント

この度は思いがけず大変名誉ある賞をいただき、ありがとうございます。私はヒメヒマワリなどの宿根草、シンフォリカルポスぽすなどの枝物を数種類出荷しております。どちらかというと、昨今のはやりの花ではなく、地味な脇役の花ばかり生産しておりますので、このような賞とは無縁と思っておりました。ですから選んでいただいた大田花き関係者の皆様、バイヤーの皆様には本当に感謝しております。
私は二十代に約6年間東京の花業界で勉強させていただき、その後父の後を継ぎ、就農し約28年切花の生産をしております。標高1,000メートルの好立地での露地栽培は花の発色や茎の堅さなど、とてもメリットがあります。しかしながらマイナス面も多く、その年の気象条件に大きく影響を受けます。実際、本年9月には雹の被害もありました。
いずれにしても、現在の厳しい状況の中で生産者として生き残っていくためには、いかに品質の良いものを出し続けられるかだと思っています。これからもこの賞を励みに良い品物を見極める目を養いつつ、バイヤーの皆様に評価していただけるよう精進してまいります。ありがとうございました。

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(写真:中島博英様と奥様)

【所感】

生花店ご勤務経験のある中島様はどのようなものが売れるのかよく理解されていましたが、トレンド品目ではなく「低価格でも安定取引ができるものを」とあえて脇役とされる品目を手がけてきました。「ほかの人が作らないような地味な花が好き」という中島様は、「経費をかけずに生活に足る量を出荷できる花」を模索しながら、28年にわたり様々な草花を生産してきました。中島様の信念とお取組みに社会のマインドが合ってきたのかもしれません。コロナ禍で在宅時間を明るく過ごそうというニーズが拡大し、未来を照らす明るい黄色で自然の雰囲気を再現したヒメヒマワリ旭が高く評価されました。花き生産に向き合うそのひたむきなお姿と実直な人となりは誰もが共感するところであり、この度の中島さまの受賞の一報を受けて大田花きの担当者が男泣きして喜んだほどです。
生産地の標高は1,000メートル前後。露地栽培で冷涼な気候を生かして、しまりのある堅い茎のヒメヒマワリを出荷されることでマーケットからは信頼の品質と定評があります。過剰なエネルギーを使わずに持続可能な生産を実現されています。流通期は7月から9月が目安です。(その年の気候によってこの限りではありません)




●FLOWER OF THE YEAR OTA2021 特別賞


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品目: ユリアジアティック  品種: タイニーダブルユー
産地名: 今井ゆり園 今井利昌様(千葉県)


■産地様のコメント

佐倉市花卉園芸組合今井ゆり園です。この度は、名誉ある、素晴らしい賞をいただきありがとうございます。
日頃からアドバイスをいただいている市場関係者や買参人の方々、関係機関に感謝申し上げます。
タイニーダブルユーは約15年前にオランダで有名な育種業者「マック社」によって作出されました。八重系のスカシユリは何種類かありますが、タイニーダブルユーのように花びらが多く矮性(丈の短いもの)の品種は珍しいです。花弁は透明なオレンジ色をしており、ミニブーケなどテーブルに置くだけでかわいらしく、お部屋の雰囲気を明るくしてくれます。また、私たち組合ではクリザール前処理をしているので、お花がとても長持ちします。今後もタイニーダブルユーをよろしくお願い致します。

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(写真:佐倉市花卉園芸組合組合長の山崎俊作様、今井利昌様、印旛農業事務所の榎本美菜子様)

【所感】

ユリといえばカサブランカに象徴されるような豪華なオリエンタルユリが想起されますが、今井様は「ほかの人が作らないものを」という視点から、あえて直径10cmほどの小輪タイプ、茎丈30cmのタイニーダブルユーを導入(2019年)。もともとは鉢物として出荷されていた品種に目を付け、切花用に生産するという発想の転換から生まれました。マーケットに小輪ブームが到来していたところに、コロナ禍で花の需要は法人から自宅で楽しむ用途に大きくシフトしていき、小さなサイズながら1本に5-6輪の八重の花が付く明るく華やかなタイニーダブルユーが大変重宝されました。
今井様はオリエンタルユリの圃場の一部にタイニーダブルユーを定植。オリエンタルユリとは生育環境が異なるものの、家庭用ならそれほど大きく仕立てる必要はないことから、あえて環境を変えずに栽培、短茎で出荷。さらには千葉県職員たちと共同研究を重ね、収穫後の品質、100%開花するツボミ、生活者の環境における日持ちや散り方なども改良しました。生産に注力するばかりでなく、買参人の目に留まるようにできるだけ展示を行い、効果的に認知を広めていったことも奏功しました。
在宅フラワーのニーズアップで、当初圃場全体の3%ほどで栽培を始めたタイニーダブルユーは、現在3割にまで増産。ホームユースのために開発されたユリの成功例といえます。タイニーダブルユーは春と秋シーズンにそれぞれ2か月ほど出荷されます。




●FLOWER OF THE YEAR OTA2021 新商品奨励賞


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品目: スイートピー  品種: アッシュブルー
産地名: JA晴れの国岡山 船穂花き部会様(岡山県)


■産地様のコメント

この度は大変栄誉な賞をいただき、本当にありがとうございます。
ここ数年はニュアンスカラー染めのスイートピーが人気となり、それぞれの部会員がオリジナルレシピを持つようになりました。パンデミックの影響から、業務需要が減り、逆にホームユースが増えたことで個性的な花色を展開している船穂スイートピーを楽しんでくださる方が増えたと聞いています。これからも、飾る方の心に寄り添うスイートピーをお届けしていきたいです。
今回賞をいただいた「アッシュブルー」は、まだニュアンスカラーが一般的ではなかった2016年にリリースした花色です。以来、お花屋さんと意見交換をしながら色味の調整、出荷時の色止めなどの研究を重ねてきました。

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(写真:アッシュブルー生産者 高尾亜由美様 船穂フルーツフラワーセンター センター長 片岡剛志様)

【所感】

アッシュブルーは農薬を使わずに栽培されたスイートピーに、染液を吸わせて出荷されています。染めの切り花が入賞したのは史上初で、マーケットの意識変化が見られると同時に、スイートピー流通史、ひいては切花流通史において金字塔を打ち立てたといっても過言ではないでしょう。
アッシュブルーは農薬を使わない分、花自体が持つ力(糖分)が強く、日持ちは染めない場合と同じです。植物が持つ本来の力を引き出し、サステイナブル(持続可能な)でリジェネラティヴ(再生式の)な栽培技術が、アッシュブルーの品質を高く維持しています。また、形のバリエーションに限りがあるスイートピーにおいて、色についての潜在ニーズを探るため、生産者さまによる丹念で綿密なマーケット調査、実需者の声にひたむきに耳を傾け続ける粘り強さがこのアッシュブルー誕生の背景にあります。アッシュブルーは新しい水を吸い上げると同時に染め色も少しずつ褪色しますが、その変化もまたお楽しみいただけるよう染めています。
このような高い生産技術、サステイナブルな農業の実践、マーケットの声への傾聴、生活者視点の楽しみの提供がこの度の受賞につながったと言えるでしょう。流通期は12月から3月ころ。
尚、岡山県の生産者さまの受賞は今回が初めてです。




【トレンド分析】キーワードは「在宅フラワー」と「SDGs」


大田花き花の生活研究所の分析によると、2021年は引き続き新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けましたが、とりわけ安定していたのは自宅需要です。住環境・在宅勤務環境を整えるニーズの高まり、また花きがもたらすストレス低減効果の認知普及も影響し、花や緑への渇望が上昇しました。このことにより自宅用に1本で空間を明るくするような存在感のある花き、また季節感のある花きに注目が集まりました。
本来の開花時期を迎え出荷される花きは、生産地の気候や地の利を生かし、過剰な肥料やエネルギーコストをかけることなく、環境負荷を低く抑えて多くの花を出荷できるのが特徴です。言い換えれば環境配慮型の生産を実現した生産者さまがSDGsの観点からも評価されたといえます。
総括して、コロナ禍を経て花の消費構造が大きく変わったことで、評価基準の潮目の到来を感じさせる結果となりました。商品そのものの色や形がニーズとマッチしていることに加え、生産者さんの社会的な取り組みが評価され受賞につながったものが多かったようです。自宅需要はとりわけ若い世代において伸びているため、今後SDGsの観点をもとにした評価は加速していくものと思われます。


<文責>株式会社 大田花き花の生活研究所


2021年12月04日