産地ウンチク探検隊 生産者が語る花に対する熱き思いをご紹介します。

2022年03月16日

vol.136 フラワーファームつかさ様:静岡県 カーネーション


早春の美しい伊豆稲取をいつかは訪れたいと思い早うん十年。
2022年にしてついにその願いが叶いました。JR品川駅から電車に乗ること約2時間10分。
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降り立ったのは伊豆稲取駅。
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駅構内のこんな絵画に度肝を抜かれましたが、
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伊豆稲取の名物といえばカワヅサクラ、つるし雛、キンメダイ
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いやいや、実は知られざる伊豆稲取の名物があるんです!
伊豆稲取に降り立ち、JR伊豆稲取駅から東方内陸に向かって直線距離で約2km。車のナビにもなかなか表示されない急坂の山道を登ったところで生産しているのは、カーネーション!
太平洋を臨む東伊豆の小高いところでカーネーションを生産されるフラワーファームつかささんを訪問いたしました。
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こちらがフラワーファームつかさの山田和司(やまだ・かずし)さん。カーネーション生産を始めて25年ほど。
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◆基本情報◆
生産品目:カーネーション
生産面積:1,400坪(約4,600平米)
この広さをイメージしにくい場合(かくいうアダジも)、例えばだいたいラグビーのグランドと同じくらい、サッカーのグランドの約65%、テニスコート20面分、バレーボール30面分、バドミントン約56面分、卓球台約1,100面分な感じです。
生産施設:16棟
労働力:パートさんを含め総勢7人
標高:300メートル

【一般論】高度が100メートル上がるごとに気温は約0.6度がると言われているので1.8度から2度くらい涼しい?
生産品種数:スタンダード約30品種
つかささんは、伊豆半島の東海岸のほぼ中央に位置しています。ここは温泉郷のひとつとして栄え、日照量にも恵まれ、平均気温も17℃と過ごしやすいエリアにある生産圃場です。
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うんにゃー、これはもう地図を見るからにめちゃくちゃいいとことわかりますな~。

◆柑橘メジャーの大産地でなぜカーネーション生産?◆

いやでもそんなにいいところで、農業生産品目は柑橘類の方がメジャー品目。
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山田さんはなぜカーネーションを生産されているのでしょうか。

答え:チコちゃん風にいえば「お祖父さまが三男だったから~!」
農業生産といえば柑橘類がエースのこの東伊豆で、山田さんの曾祖父さまも実は柑橘を生産していました。そしてこの続きはウンチク探検隊が思う「多分こうだったんじゃないか?」劇場をご覧ください。

山田さんの曾祖父さま:わたしもそろそろ引退の年齢(ころ)じゃ。息子たちのうちだれか柑橘の生産を引き継いでくれないかのぉ??
曾祖父のご長男(一郎さん:仮名):じゃあ、わたしは長男だし、柑橘生産を引き継ぎますよ、お父さま。
曾祖父:そうか、ありがとうよ、一郎。じゃあいま植わっている柑橘の樹木とともに木が植わっている土地も引き継いでくれるか。
一郎:そうします、お父さま。
曾祖父:それではほかの息子たちよ、そのほかの土地を引き継ぐから自らが良いと思う自由なものを作って土を有効活用してほしい。
曾祖父の三男、三郎さん:わかりました、お父さま。それでは、わたしはこのあたりで同世代の友人たちが、すでに生産を始めているカーネーションを生産したいと思います。相談できる仲間もいますし、柑橘ほどの面積もいらず、施設園芸で効率良く収益の高い生産を試みようと思います。
※当時、下田の伊豆白浜で温泉熱を使って、河津ザクラで有名な河津でもカーネーションを生産していたといいます。

曾祖父:そうだな、三郎よ。それは良いアイデアだ。一郎と競合することもないし、カーネーションはこれからアメリカに倣って経済発展していく日本にとって、必ず必要とされる品目だろう。精を出して、頑張ってほしい。

この三郎さんが山田和司さんのお祖父さまというわけです
多分、こんな感じだったんじゃないかなと、色付けしながら勝手に想像しました。山田さんのお祖父さまは三男だったため柑橘を引き継がず、限られた面積で効率良く生産できる施設園芸の道で、お仲間がすでに生産を始めていたカーネーションを選びました。そのころは戦前の昭和初期。すでにこの伊豆地区ではカーネーションが始まっていました。
お祖父さまがカーネーションを始めて以来3代継続するには、それぞれの代でご苦労とご尽力があったことと思います。継続の理由はたった一言では完結できません。しかし、ここでは「きっかけは」お祖父さまが三男だったからとご紹介させていただこうと思います。


◆マイブームはカルシウム?◆

大田花きには、スタンダードタイプのカーネーションだけでも年間約2,400万本が入荷します。うち約6割がコロンビアを中心とした輸入品。大田花きの営業担当は、日本全国、いやむしろ世界中から集まるカーネーションと向き合っています。

anonymous 営業担当曰く、「山田さんちのカーネーションは本当にいい!う~ん!いいんだよ」

山田さんちのカーネーション、だいぶうならせますね(笑)!何がいいんですか?

営業担当「全体のバランスとか枝のしなやかさとか、山田さんならでは品質の良さがある。この理由を突き止めてほしいな」

ラジャ(^^ゞ

ということで山田さんに早速切り込んでみますと、うならせるカーネーションを作るにあたりどうやらマイブームがあるようです。
「品質の追求では、いまはカルシウムにハマっているんだ。」
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カッ、カルシウム?
花の生産でカルシウムにハマっていうのは初めて伺いますが・・・

「カルシウムをいかにうまく効かせるかで、花の生育がガラリと変わるんだよ」

よく言われる土壌中の三大要素のNPK(窒素・リン酸・カリウム)ではなく、カルシウムにコダワリですか?
どう変わるのですか?

「品質も上がるし、収穫量もアップするよ。
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カルシウムは信号役。土壌から吸い上げた三大要素を、窒素さんはこちらに行ってくださいよ、おリン酸はあちらへ、カリちゃんはそっちへ行きなさいよ~と案内する役なんだ。
カルシウムがないとこれらの要素を植物がうまく利用できないんだよ。土壌診断してEC伝導率を確認しながら、カルシウムをバランス良く入れていくようにしているんだ。」

しかも!カルシウムにもいろいろ種類があるみたいです。

酢酸カルシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウムなどがあるんだけどね。
どうやら分子量や性質を考えると、カーネーションは酢酸カルシウムを最も吸収しやすいみたいなんだよね。つまり、カーネーションは酢酸カルシウムが一番好きっぽいんだよ。だから酢酸カルシウムを与えればそれだけカルシウムが植物体内に入りやすく、細胞の中で肥料分の信号役を十二分に果たしてくれるというわけなんだ」

なるほど、懐かしのコーヒー牛乳とイチゴ牛乳とフルーツ牛乳があるとしたら・・・、
milksss

カーネーションちゃま的には、
「アタシ、イチゴ牛乳が一番好きだから、イチゴ牛乳ならたくさん飲めるわよんෆ.̮ෆ♪
イチゴ牛乳をくださるなら、たくさんカルシウムを吸収してパフォーマンス上がりますけど?」

・・・的な対話が山田さんとカーネーションちゃまの間にあったかどうかはわかりませんが、酢酸カルシウムにされたようです。


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品質がいいとは具体的何が違いますか?
「まず、今までにないくらいハリがいい☆☆☆」

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ハリ??
「ハサミで切ったときの植物の水分量が違うんだよ。」

そのハリ、アダジモ欲し~(´;ω;`)

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「それだけじゃない。
花を切ったときにその水分が飛ぶときがあるんだけど、その水が手に付いて手がべたべたするんだよ。つまり、それだけ植物が糖(栄養)を蓄えているとういこと。昨年まではあまり感じなかったんだけど、今年からそれをすごく感じるようになった。
酢酸カルシウムを入れたことによっていろんな肥料分が利用されるようになって、その結果、品質と製品率、収穫率が上がったというわけなんだ。」

なるほど~!
酢酸カルシウムが道路整備と交通整理をして、渋滞が解消されて栄養がスムーズに植物体内に届くようになったというわけですね。しかも、土壌内の要素がバランス良く、かつ効率良く使われることで、土壌内に要素が偏って残ることもなく、一石二鳥も三鳥も。

「カルシウム、かなりマイブームなんです。」

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山田さん、そんな研究し尽くして得た結果を、うんちく探検隊が公表してまっていいのですか?企業秘密ではないのですか?(。◔‸◔。)ʃ…?

「いいよ。むしろ、“本当はこうなんだよ”とか“もっとこういう方法”があるよとか、情報があったら教えてほしい!」
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うぉ~!どこまでも謙虚で勉強家の山田さん!ʓ৸ʓ৸♪(❛ᴗ❛ و(و˚˙
土壌の要素はカルシウムで吸収、情報は山田さんが吸収ということですね(๑•᎑<๑)ー☆

ということで、山田さんのマイブームカルシウムとこの記事に関する感想はこちらまで。
hanaken★otalab.co.jp
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感想をお寄せくださった方の中から抽選で・・・プレゼントは特にありません。
感想をお寄せくださった方全員に、ウン探より感謝申し上げたいと思います(*ᴗ͈ˬᴗ͈)ꕤ*.゚



はい、では続き、行きます。


◆生産品種30種!その選択は?◆
スタンダードカーネーション30種ほど作付けていらっしゃるようですが、30品種もどのように選ぶのですか?
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「基本は色目で選ぶよ。でも色目が良くても生産性がイマイチだったりするよね。」

悩ましいですよね。どうするのですか?

「そういう時は、その分、生産性の良いカーネーションも選んで、全体バランスを取って、最終的に採算が取れるように選ぶんだよ。」

例えばバイパーワインやレディシーンなどのような色目を追いかけた選択。
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一方で、こちらのピンクは生産性を追いかけた選択。でもこのピンクも安定して需要はありそうですね。
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色目追求が成長型とすれば、生産性追求は苗への投資が担保された安定型というわけですね。その二つを組み合わせたバランス型というわけですね。

「だいたいだけど色目追及と生産性追求のバランスを、今年は6:4で導入したんだ。」
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“今年は”ということは、毎年違いますか?

「収穫量の目標と現実というものがあるよね。その年によって、より目標に近づけるために色目と生産性のバランスを5:5にしたりね。
コロナなどの影響や社会情勢、相場を読みながら4:6に調整したりすることもあるよ」

山田さんの品種導入は、安定型と成長型を組み合わせたバランス型投資なのでした。


◆カルシウムを追及するにはワケがある!「生産コスト」◆
山田さん、イマドキ燃料高くてなかなか大変なのではとお察しします。温泉引いて、地熱で燃料代をセーブしたりできないのですか?
↓自噴する源泉の湯気。源泉摂氏100度だそう。(伊豆高原辺りの駅で車窓から撮影)
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「温泉は引いていないよ。利権もあるし、ハウスは暖房を焚いているよ。
燃料も高いけど、コストで最もウェイトを占めているのはね、実は・・・




苗代なんだよ」

え!?苗代??燃料かと思いきや??(´,,•﹏•,,`)💭

「そ。
カーネーションの苗代は約50円。9万苗定植すれば消費税を入れて年間500万円前後になるでしょ。燃料代ももちろん高いけど、生産コストの中ではこれが一番大きいよ。

安定した経営をするためには、今の販売単価から計算すると1つの苗から7.5回切る必要がある。
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ところが実際は今のところ1苗からの収穫は6.5-7回。1苗につき収穫量を0.5-0.7回を伸ばさないといけないんだ。この0.5~0.7の攻防戦のために今カルシウムを追及しているというわけなんだよ。」

今年はカルシウムでこの攻防戦を制して目標出荷数をクリアできそうでしょうか。

「それがね、なかなかそうもいかなくて・・・今年は1-2月が寒かったでしょ。伊豆名物河津ザクラも約1か月開花が遅れたんだよ」

そんなにですか!! (‘O’*)!!
「この寒さが出荷量に大きく影響していてね、地温が上がらないと根が動かないから、土壌の栄養を吸ってくれないんだ。」

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寒いと根っこもやる気が起こらないわけですね。
「植物の昼間の主な仕事は光合成。
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光合成は11時ころにピークを迎えるんだけど、例えばピークの11時に向けて8時から光合成をスタートできれば3時間光合成ができるけど、寒くて根が動かなければ9時スタート。根の活動開始が遅れれば、その分光合成活動にも影響が出る。光合成のピークの11時までにできるだけ良いコンディションを作っておかないといけない。寒くて地温が低いと光合成スタートが遅くなって大きな差が出るんだ。」

光合成ピークは11時!
ふと時計を見れば、時計を見ると、まさに11時ころではないか!(´👁ω👁`)!!
じっとしておとなしそうに見えますが、植物はめちゃくちゃ絶賛光合成中なんですね!

「それが見えるんだよ。」
とおもむろにスマホを取り出す山田さん。
光合成が、み、見えるΣ(ОД○*)??ドーユーコト??

「照度計で光の強さを測っているんだ。
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ハウスの環境をモニタリングしていてね、スマホで離れた圃場の環境がわかるんだよ。例えばここじゃなくて、別のハウスの二酸化炭素濃度は358PPM。 湿度は75.9%、さらにチェックしたいのは飽差(ほうさ)。」

ほうさ?(ㆆ ㆆ ).。oஇ??
「1立方メートルの中に、あとどのくらいの水分量を含むかということを示すものだよ。」
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植物は光合成に必要な二酸化炭素を取り込むために気孔を開きますが、例えば気温が高く空気中にもっと水蒸気を含むことができるのに、実際には水分量が少ないと植物体内の水分の蒸散を防ぐために気孔を閉じます。自己防衛のためですね。しかし、そうなりますと二酸化炭素を取り込めず、水分も蒸散しなくなるので根から水を吸い上げなくなります。これが飽差レベルが高い場合です。

一方、飽差レベルが低いのはもうこれ以上は空気中に水蒸気を含むことができないぎりぎりのところまで水分を含んでいるとき。植物は気孔を開きますが蒸散ができず、土壌中の水分を吸い上げなくなるので、これまた養分を吸上げることができず、生長にはよろしくありません。

「理想的な飽差レベルは3から6グラム/立方メートルと言われているんだよ。最も気孔が開きやすい環境で、二酸化炭素を取り込んで光合成を活発に行って、土壌の水分も吸い上げる最適な環境といえる。収量アップにもつながるんだよ。
このスマホで環境を見ると、二酸化炭素濃度356ppm、飽差3グラム/立方メートル、温度は18度(カーネーションの光合成のための理想温度は17度以上25度未満)。照度は180,000ルクス(光合成のためには最低4,000ルクス)なので光合成のためにはパーフェクトな環境になっていることがわかる。」


見えちゃうのね~!!( ఠ ఠ )!!
こちらがそのセンサー「はかる蔵」。
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「これでモニタリングして、データは手元で確認できるんだ。しかも、クラウドで管理していて、ほかのカーネーション生産者3人でこのデータを共有しているんだよ。今誰の圃場が何の温度で天窓は開けていないのかとか、異常があったときにも気づいてあげられるしね。農業は一人ではできない。」

↓折れ線グラフが3本あるの、写真から見えますか?これは山田さんとお仲間のデータが共有されています。
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天災とも向き合わないといけない農業生産には、相談して助け合える仲間が必要。クラウド管理はその仲間同士の助け合いにも一役買っているようです。

さて、こうして山田さんのカーネーションは、とても快適な環境で、昼は光合成を一生懸命やって糖(栄養)を作ります。
そして夜にその糖を植物の体内に運ばれ、夜に生長するのですが、この栄養が体内に運ばれることを「転流(てんりゅう)」といいます。←ウン探のなかでは久々のニューワードです☆

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「クロネコヤ●トさんとか佐●急便さんとか、はたまた飲食店のお料理を届けてくる●ーバーイーツの宅配チャリのような役目だよね。」

さすが、山田さんの説明、わかりやすい(*゚∀゚)*。_。)ウンウン!!
この転流の役割を促進するのがカルシウムというわけです。
ここで一旦まとめ。
カルシウムは、三大要素を有効活用するために植物体内で重要な物流を担う交通係。モノがあっても必要なところに届かなければ成り立たないのは私たちの生活と同じ。
カルシウムは植物の生活を担うエッセンシャルワーカーなのでした!


◆「ていうかさ、愛でしょ、愛!(ˊ˘ˋ* )♡」◆
って山田さんに言われたら、はるな愛さんばりに喜んでピョンピョンはねちゃいます⌒v⌒v⌒v⌒!!⌒v⌒v⌒v⌒!!
なぜそんな話になったかというと、実は山田さんのカーネーションはカルシウムブーム到来の前からかんなり高評価(♡>艸<♡)

じゃあ、カルシウム以外にも何か品質の理由があるのではないかと思い、お伺いしたわけです。
そしたら愛だっておっしゃるんですよ。

ではその愛は具体的にどのような形で表現されるのですかってお伺いしたところ、山田さんのお答えは・・・



「め・か・き★」



芽かきですか!
「見て見て。カーネーションの“ひざ下”、すごくすっきりしていると思いませんか。」
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どれどれ??(ꙭ̱৭)ꁖʓ
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ホントダ!
思います!思いました!!ひざ下すっきり☆向こうが見える!

「実はこの部分、本来なら芽がモシャモシャ茂っているんだよ。そこでその不要な芽をマメに取り除くんだ。」

余分な芽を取って、すっきりさせることで・・・?
風の流れをよくする。そうすれば病気にもなりにくい。病害虫もつきにくい。そして、より花や生長点に養分を集中していきわたらせるようにすることができる。
圃場にいて座り込んで芽かきをすること、怠らずに手を入れていくことが私にとっての愛かな。

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“芽かきに勝る管理ナシ”っていってね。特にひざ下をすっきりさせることがポイントだよ。
来る日も来る日もハウスにこもってひたすら芽かきをする。収穫日以外はね。」

芽かきをすると病害虫が付きにくいというのは、どういうプロセスで?
「気温が上がって生長旺盛になってもモシャモシャ葉を放置しておくと、風通しも悪くなって空気も動かず湿度が上がるよね。
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そうすると病害虫 ダニ、スリップスが付いて、巣をつくるんだ。
その時にきちんと風通し良くして虫が巣を作らないようにしておくこと。そしてここでもカルシウムの働きが大きいんだ。カルシウムは植物の細胞壁を強くする役割がある。細胞壁の中にタンパク源があるでしょ。虫は細胞壁に口を挿してそのタンパク源を吸いに来る。
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細胞壁が強ければ虫の口が刺さらないからタンパク源を吸いだせないでしょ。芽かきをして風通しを良くしておくこととカルシウムで細胞壁を強くしておくことが病害虫の蔓延を防ぐことになるんだよ。」

芽かきを重視する理由はそれだけではありません。
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スタンダードカーネーションの栽培では、開花する1輪にその植物体すべてのエネルギーを注ぎ込みます。ぴよろろ~んと伸びた脇芽は速やかに整理することで、開花輪に栄養を集中させるのです。

「特に3月になると日が強くなって、脇芽の勢いが一気に増して芽かき作業が忙しくなるんだよ。
するとカーネーションの生長スピードと自分たちの暮らしのリズムとが合わなくなって“やっばッ、忙しくなってきた~”となっちゃうんだよね」

太陽の力が強くなってくる3月から出荷収量の6月くらいまでは、怒涛の4か月が続くのですね。
「母の日前には5時前には圃場に来て、13時くらいまでずーーーーっと収穫をするんだよ。
ちょっと休憩とって、午後は水揚げ、収穫が終わっても母の日前くらいは夜中の12時くらいまで、段ボールを組み立てたりすることも」

ご飯も食べずに?
「そう。これは花農家の宿命ですよ。出荷ピークになれば、どの花農家さんでも同じだと思いますよ」

日中はしっかりと光合成をして栄養を溜める。夜はその栄養が植物体内に運ばれ、ぐいぐいと生長する時間となる。
まるで成長期のこどもが寝ている間に成長して、膝が伸びる音がミシミシ聞こえるような感じですね。
夜の時間をきちんと生長に充てられるようにする。夜に伸びた脇芽を昼のうちに整理して、栄養ができるだけ開花輪に集中するよう整える。これが芽かきの理由。
芽かき最強!

それではここで、山田さんの華麗なる芽かきさばきをご覧くださいませ!↓(8秒)
※注意!この動画は早送りではありません。


手さばき早ッ!


◆ヨガで健康管理◆ 山田さん、そんなにお忙しくていらっしゃるのに、お疲れの様子もおくびにも出さず、それどころかお話をしていてとても姿勢も良くて、何かスポーツとかされていらっしゃるのですか?

「ヨガをしていてね。
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昔からしているんだけど、今はコロナもあるしちょっと回数が減って週2回くらい、最低30分くらいはやっているよ。日頃している呼吸はみんな浅いと思うんだけど、腹式呼吸で深い呼吸を意識する。 すると姿勢も良くなるし、気持ちもとても前向きになるんだよ」

事業経営でどうしても自分でコントロールできないこともあってうまく進まないこともある中、ヨガを行うことでお身体だけでなく精神的にも常にポジティブなマインドを保っていられると言います。
お仕事は大変ですが、ヨガで体と心を整えていらっしゃるわけですね。

カーネーションの健康管理は芽かきとカルシウム。
ご自身の健康管理はヨガ。
山田さんは日本の花き生産をリードされる令和の篤農家さんの印象でした。



◆「つかさ」の名前はどこから?◆
最後にどんでん返しのトリビアをご紹介いたします。
「フラワーファームつかさ」さんの「つかさ」は、山田和司さんの最後の「司」の字からつかさんと思っていらっしゃる方が多いと思います。

でも実は違うんです!


つかささんの名前の由来は、カーネーション生産三代続く山田家のお名前の頭文字に由来しています。

つ:つねおさん・・・お父さまのお名前
か:かずしさん・・・現在の代表和司さんのお名前
さ:さぶろうさん・・・お祖父さまのお名前。「多分こうだったんじゃないか」劇場の三郎さんのお名前は仮名ではなく本名だったのです!

だから「フラワーファームつかさ」。漢字表記ではなくひらがな表記なのです。

ハウスも「つ」「か」「さ」が共存しています。
こちらは、46年前にお祖父さま「さ:三郎さん」が建てたガラス温室。
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幾度となく台風襲来もありましたが、45年間、全然無事。ガラスも張り替えずそのままなのだとか。
えー、信じられないくらいスゴシ=͟͟͞͞(・∇・ ‧̣̥̇)ほぼ半世紀ですよ。

そしてこちらが山田さんのお父さま「つ:つねおさん」が建てた温室。
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そしてこちらが山田さんがご自身「か:和司さん」が建てられた温室。三代合計16棟あります。
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しかも、どの温室も外見も内側も本当きれいなことに驚かされます。
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山田さんのカーネーションが大田花きの営業担当をうならせるほどのハイクオリティであるのは、山田さんの飽くなき生産技術研究の粋の集積があるからなのでした━٩(*´ᗜ`)ㅅ(ˊᗜˋ*)و━
ウン探なりに思うことは、今回教えていただいたことは山田さんが日々研究、ご努力されていることのうちほんの一部で、本当は今回フォーカスしたことのほかにたくさんのノウハウがあるのだろうということです。そしてきっとそちらの方が圧倒的に多いのだろうと。

産地ウンチク探検隊は2005年から始まり書き続けること135回(以上です。実は)。長い間、多くの方にお世話になって、みなさまには根気強くいろいろなことを教えていただきました。
それでも尚、毎回生産者さまによって新しい用語や考え方、農業技術が次々と紹介されます。農業生産はそれだけ奥深く、壁は高く、どれだけ勉強しても生産しても終わりがなく、いかに大変なことであるかを思い知らされます。

フラワーファームつかささんのところでもニューワードがたくさん出てきてきました。塩化・硝酸・酢酸カルシウム、転流、飽差、モニタリング、バランス型品種選択・・・などなど。
中でも初めてのキーワードは「ヨガ」。もうこのキーワードは、ウン探史上初であることに間違いないでしょう。
植物の健康管理のためには自分の健康管理もしないといけないということですね。植物の環境を整え、自分の呼吸と体調を整えることで健全な精神が宿り、植物に愛を注ぎ込むことができ、山田さんのスピリットが宿ったカーネーションが収穫されるということなのだと理解いたしました。




★フラワーファームつかさ山田和司さんの格言★
・導入品種は成長型(色目重視)と安定型(生産性重視)を組み合わせ、バランス型でいこう。

・芽かき最強、カルシウム最高!
 “芽かきに勝る管理ナシ”、特にひざ下スッキリがポイントです。
 カルシウムは植物体内のエッセンシャルワーカー!カルシウムの中でも一番好きな酢酸カルシウムを与えるべし!

・ICTを活用して栽培環境をモニタリングせよ。
 動かない植物が今どのくらい光合成をしているのか、数字で把握。
 クラウド管理で仲間同士で情報を共有しあおう。

・ヨガで自分自身の健康管理も怠りなく。
 良い花は心身整った生産者さまから生まれるのであった~!


このたびも最後までご覧いただきありがとうございました。
ここまでたどり着いた読者さまにおかれましては、既に「フラワーファームつかさ」さんのカーネーションを買いたくなっているに違いありません!
フラワーファームつかささんの指名買いを心よりお待ち申し上げております♪
※指名買いの際は、お近くの生花店様へお問い合わせください。
生花店様におかれましては、仲卸様か大田花き営業担当へご注文くださいませ。

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文責:ないとういくこ@大田花き花の生活研究所