産地ウンチク探検隊 生産者が語る花に対する熱き思いをご紹介します。

2019年08月29日

vol.128 JAながの みゆき花き共撰部会様:長野県 草花・枝物類


あっつあつの東京を逃れて避暑のつもりで訪れた長野県の飯山駅。
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のつもりでしたが、まあまあ暑い・・・^ ^;
東京よりも幾分過ごしやすいかもしれませんが、飯山駅を降りた途端にポチポチと天から落ちてくるものが。

この雨が直後に大雨警報となりました。そんな天気も気にせず取材させていただいたのは、長野県最北のこの地で花き生産をされるJAながの みゆき花き共撰部会さま。



読者のみなさまはもしかしたら“大雨警報が出るほどの雨で、なんてアンラッキーなウンチク探検隊か!”と思っていらっしゃることでしょう。
いえいえ、露地の生産農家さまは基本的には晴耕雨読。晴れの時こそ効率良く仕事しないといけないので、雨天の時に取材させていただく方がお仕事の邪魔をしなくて済むのです(多分)。また大雨が降っていた方が虫に刺されるリスクも低くなりますので、雨が降っているくらいがちょうどいい。
な~んて、都合のいい解釈をしてしまいましたが、つまり雨が降っていたということで、今回は写真にところどころ雨の雫が付いていますが、何卒ご了承ください。

本邦初公開の・・・世界でも目にすることが少ない)・・大変貴重な花き生産に関する画像を掲載していますので、何卒最後までご覧くださいますようお願い申し上げます♪


■【基本情報】JAながの みゆき花き共撰部会様
(以下、「みゆき」様と呼ばせていただくことがあります)

・位置:長野県北部、新潟県との県境付近
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(許可をいただき、JAながの様のサイトより引用)

・標高300メートルから高いところで800メートル近く
・地形特性:四方を山に囲まれた盆地形状。夏は暑く、冬寒い。
夏場でも35度以上、冬場はマイナス10度の朝を迎えることがよくある豪雪地帯。
冬期は標高300メートルくらいのところで1.5メートルくらい常に積もっている。
よって、主な出荷期間は6月から12月ころまで。
豪雪地帯の車道には、消雪(しょうせつ)パイプという特殊な仕掛けが。水が噴水式に出たり、井戸水がパイプを流れて雪を解かすしくみです。
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雪が降るとこんな感じ。
みゆき野菜花き集荷所前に積もった、入口を覆い尽くすほどの雪。(写真ご提供:藤巻さん↓)
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みゆき営農センターの藤巻さん(のちほどご紹介)。人の身長と比較してもこんなにもりもりの雪!(写真ご提供:藤巻さん↓)
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「みゆき」は「深雪」とも「美雪」とも書くといわれます。その地域名からだけでもいかに雪国である様子が伝わります。

・部会員数 約100軒
・主な生産品目
売上高順に、ソリダゴ、シャクヤク、ヒペリカム(実もの&紅葉)、そのほかにキク、リンドウ、ワレモコウ、スズラン、シンフォリカルポス、ナルコラン、オミナエシの研究会・青年部会があり(つまり生産金額が高いということなのですが)、さらにそれ以外の品目が大変多く、全体的には推定品目数70-80、品種数1,000ほど。

若手も多く、様々な品目を栽培し、売上が伸びている品目も多数あり、長い花き生産の歴史がありながら現在においても大変活気のある花き部会です。
雪深いことと、多様な花き品目を生産していることで、ユニフォームのポロシャツにはこのようなデザインが施されています。あらゆる花のモチーフで象った雪の結晶をデザインしたものです。
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このたびの水先案内人は、JAながの・みゆき営農センターの藤巻浩之(ふじまき・ひろゆき)さん。みゆきの花のことなら、何でも藤巻さんにお任せです。

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藤巻さんは農協のご担当者さまとして、市場やマーケットに「いつ、どのような花が欲しいか」を聞いて生産者様にフィードバックするパイプ役。

最近のみゆきさまの売れ行きはどうですか?
「誠に具合いいです」

GOOD!!!
(後述にて「誠に具合いい」理由をウン探なりに分析しております)

素晴らしいではありませんか。マーケットで草花や枝物の人気が上昇中の今、みゆき様こそまさに旬を行く産地の一つ。 宿根草や枝物を中心に何十品目にもわたり栽培をしているみゆき様ですが、そのうち冬期品目のエース級筆頭はスズラン。雪国で花き生産にハンディキャップがありそうなのに、それでも尚、冬季の品目で全国の供給を支えるみゆきさま。何か秘密がありそうです。

みゆき様を訪問したら、誰が何を言おうとスズランを外すわけにはいきません!

っていうか、え?スズランて今出荷あるの?

と思われた皆様へ。


ありません。
すみませんm(*- -*)mスミマセーン

しかし、ぜひ今だからこそご覧いただきたい現場があるのです。

ご案内くださったのはみゆき花き生産部会の部会長梨元茂(なしもと・しげる)さん。

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素朴でお優しそうな雰囲気です。この柔和な雰囲気で部会のみなさまを取りまとめていらっしゃることと拝察いたしました。

●部会長 梨元茂さん

みゆきさまの中でも数少ない花き専業農家のお一人。オランダの球根の試験場で研修後、お父上の代から始めた花き生産事業に携わり25年。しかも、この雪深い地域で周年花き栽培をされているという大変奇特なお方です。冬場の主な栽培品目はスズラン。

「仲間がいるからそれほど苦労とは思っていないよ。とはいえ冬の花き生産は大変。
ココは盆地の底なので、標高はそんなに高くなくても冷え込みが厳しい。マイナス10度になることが1シーズンで20回くらいあるんだ。
冬場の主な生産品目はスズランだから、もちろん暖房は焚くけど、寒い日が続くと片時も気を抜けないよ」


●初公開!スズランの球根養成畑!

こうして紹介しておきながら実はココ、スズランの生産圃場ではありません。
スズランの球根の養成圃場です。なんとスズランの養成畑は本邦初公開です。
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本邦どころか、おそらく世界的にも拝見する機会は大変珍しいと思われるスズランの球根養成現場です。

あら、遠目に見るとなんだか花のようなものが付いていますが??まさか、花があのような色にはならないと思いますが・・・

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って、えーーーーー!

ご覧ください!こちらはスズランの「実」です!
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産地うんちく探検隊はスズランの圃場を拝見するのが初めてなら、スズランの実を拝見したのも初めてです。だいたいこんなにきゃわいいスズランに実ができることすら知りませんでした(“▽”*)恥

【注意!】コロンとしたスズランの実がたくさんがたわわになっていますが、食べられません。たまに学校の庭などでスズランの実がなっているのを見かけるかもしれませんが、健康に害をもたらしますので絶対に食べないでくださいね。

「この圃場のスズランは2年目のもの。来年の秋に掘り上げて定植、再来年の早春に向けて出荷するものだよ。 スズランの球根養成には3-4年かかるんです」

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え??(゜ロ゜)ギョェ!!
3-4年?そんなに?どうしてですか?

「こちらはスズランの根。この小さな球根の中には花を付ける芽が入っています。

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しかし小さいできたての芽には花芽がなく葉が出てくるのみなんだよ。
“葉芽(はめ)“と言ったりするのですが、それが2年かけて花を付ける芽に成長するんです。

生長しながら花芽を作り増えていくというしくみなんだ。
根と根が絡み合いながら生長してカーペットのようになるんだ。だからほかの一つ一つ孤立している球根のように機械的に選別ができない。」

では、どうされるのですか?

「手作業で選別するんだよ。
2年間畑で養成した後、葉しか出ない葉芽のものと花芽をつけるものとを花芽が付いた球根とを分けるんだけど、葉芽がおよそ7-8割なので葉芽は掘り上げた後に別の畑に植え戻し、もう一度養成する。そしてそれをまた2-3年養成して花芽に生長させるんだ」

これは想像するだけで相当大変な作業です。
葉芽と花芽はどのように見分けるのでしょうか。

「見た目が明らかに違うんだよ。
葉芽はこんな感じで細いんだけど、花芽が付いたものはぷっくらとしている」

↓現物はないので、梨元さんにわかりやすく描いていただきました。左が葉芽で右が花芽付き。
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左の細いのが葉芽の球根で、更に養成が必要。右は花芽を含んでいるので、定植可能。

このように掘り上げた球根を選別していくのですが、梨元さんのところでは11月になると10人がかり1か月、ずーっとこの作業にかかりきりになるのだとか。

ウンチク探検隊の計算によると・・・
10人×6時間(パートタイム計算)/日×22日/月=ざっと1,300-1,400時間はこの作業にかけることになります。
もし一人でやったとしたら、1日8時間労働だとして175日(5.8カ月)、つまり半年近くずーーーーーっとこれをやっていなくてはならないくらいの仕事量です。うンわ。気が遠くなるー(;°Д。)

「花芽は掘り上げてからマイナス2度で冷蔵処理を2か月間、さらに温室の中で1か月の促成栽培、その後定植を行い冬期~5月に出荷する。球根の養成は結果的に3-4年かかるんですよ。」

定植後の栽培の様子↓(梨元さんより写真ご提供)
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なるほどー、なんだか単純にすぐ伸びてパッと出荷できるのかと思いきや、そのような年月と作業が必要な手のかかる品目だったのですね。

しかーし!実際にはこの選別と植え戻し作業以上に大変な仕事があるのだそう。
えーヽ(´Д`; )ノ

これ以上大変な作業があったら、1年間がもうその2つの仕事だけで終わってしまうではありませんか。
で、これ以上に大変な仕事ってなんですか?
「球根の養成期間中の草取りだよ」

今年は長雨の後にピーカン晴れしたので、雑草の生長がとりわけ旺盛なのだとか。畑に我が物顔でじゃかじゃかと生えてくる草を1面分手で取り除く作業を想像しただけで気絶しそうです。

「暑い中除草するからね、健康上の懸念からパートさんにもそれほど長い間かかりっきりもお願いできないし」
あの中央辺りに咲いている幅を利かせている草は?
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「こちらは悪名高きワルナスビ。つまり、悪いナスです」

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ワルナスビってそのまま?

「これが大きな問題なんだよ。普通のナスと違って出根するだ。
ロータリーなどで取り除こうとすると、根が途中で裁断される。裁断されるとそれぞれから根が出てどんどん広がる。除草剤はなかなか利かないし、手で抜こうとすると鋭い棘は刺さるし、手も痛ければ頭も痛いんだよ。
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露地栽培の生産者を困らせる悪い奴なんだ。」

除草するにもこのような手ごわい相手もいるのです。
露地栽培の大変さを一瞬にして思い知らされます。梨元さんの圃場のようにこんなにきれいに管理されているのは、本当に大変なことですし、なかなかできることではありません。
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土は基本的に火山灰土。以下のようなメリットがあります。
1. 水はけが良い
2. とりわけスズランの時は、根を掘るときに土離れが良い
3. スズランは酸性の土を好むのでちょうど適している


梨元さんのところで生産をしながら種苗も管理しています。また、スズランの栽培をしているのはみゆき様の中でも梨元さんを含め3軒。

定植後のスズランの栽培はおがくずを培地としているのだとか。(写真ご提供:梨元さん)

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え?!ヽ(゚ロ゚;)
おがくずonly?

「スズランの栽培は水のみで肥料は必要ないので、おがくずで栽培するんだよ」



根の中に必要な養分が蓄えられているのだそうです。

(写真ご提供:梨元さん)
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日本のスズランの切り花流通はみゆき様にかかっている!と言っても過言ではないのです。私たちが切花スズランに出合えるかどうかも、梨元さんの球根養成とみゆきの生産者さまにかかっているのです!

モナコのグレイス・ケリー公妃や英国王室のケイト妃がウェディングブーケで使ったスズラン。
日本でもウェディングブーケに限らず、大変人気のアイテムです。
スズランの出荷期は4月をピークに2-5月です。ぜひご利用ください。

【みゆき様のスズラン 月別出荷数推移】
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(2018年大田花きへのご出荷を基に作成)
※スズランの根付きは、その名の通り根が付いたまま出荷されるものです。根っこの先端を少しずつ切りながら管理すると1か月ほど日持ちし、スズランの素敵な香りも長く楽しめます。


さて、ほかにこれからのシーズン商材をダイジェストでご紹介してまいりたいと思います。


●ワレモコウ
ワレモコウでもなんでも、標高が100-200メートル上がると雪解けも2週間くらい遅くなります。そこで、管内の500メートル近い標高差を生かしてあちこちで栽培しています。標高差のあるところあちこちで栽培することで、同一の品目品種でも出荷期間を長くとることができるのです。

今回は少しでも標高の高い場所にある圃場を拝見するために、関係者の方でないとなかなか入らないような山道をぐらぐらと車を揺らしながら分け入ってきます。
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東京コンクリート砂漠とは真逆である里山のこのような所に分け入ることができるのがウン探の醍醐味のような気がしています。
到着したこちらがまず梨元さんのワレモコウの圃場。
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「ワレモコウって生産者にとってすっごく大変な品目なんです

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と穏やかな口調の梨元さんが珍しく力を込めておっしゃいます(それでも尚、穏やかな口調ですが)。

「ワレモコウはバラ科の植物。
ウドンコ病にかかりやすく、多くの生産者さんはウドンコ病のためにワレモコウの生産を断念されています」

色々と知識とノウハウをお持ちで長年ワレモコウを生産されている方でさえも尚、ついぞ断念されることがあるそうです。梨元さまも随分骨を折っていらっしゃると。ウドンコ病が少しでも出てしまうと、夏場でも暗いうちから起きて数時間かけて週何回も消毒を繰り返す必要があるのです。

「なかには病気に強い品種もありますが、あまり見た目がきれいでなかったりするんです。逆に見た目がきれいでも病気に弱かったり。
しかし、こちらの品種(IKBという品種)は病気にも比較的強く、樹形もきれいな優良品種。開花期もマーケットのニーズとマッチしているので部会の中でよく取り入れている品種です。」

それがこちら。比較的病気への耐性、樹形、花の形、育てやすさなどのバランスが取れている品種です。
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「ワレモコウの品種改良は部会のみなが自分たちでやってきたという経緯があり、品種はそれぞれにオリジナルなんです」
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とおっしゃる梨元さん。難しい品目だけに、良い性質を持つ品種同志を掛け合わせて、少しでもキレイで作りやすい品種を生み出そうという生産者さまのそれぞれのご努力があるのですね。
梨元さんご自身も十数系統のワレモコウをお持ちです。

「手間はかかりますが、楽しいですよ。
生産にひときわ苦労の多い品目ですが、その分きれいにできたときはすごく嬉しくてやめられないんだよ」

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と、多くの生産者さまが手を焼かされるあまり諦めるワレモコウに、やりがいを感じていらっしゃる様子が伝わりますね。植物愛にあふれた梨元さんらしいお言葉です^^



【みゆき様ワレモコウ 月別出荷数推移】
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(2018年大田花きへのご出荷を基に作成)


スズランの作業量を考えただけでも梨元さんはなんと働き者なのかと思ってしまいますが、そのほかに何十品目も栽培しているのですから、もうその働きぶりに頭が下がります。


●シンフォリカルポス

みゆきさまのシンフォリカルポスは、梨元さんのお父様がイギリスの試験場の庭に生えているものを、きれいだからと国内の代理店さんを通して導入したものなのだとか。
これが国内初かどうかは定かではありませんが、そのように導入したみゆきのシンフォリカルポスがいまでもマーケットで息づいています。

こちらは梨元さんの圃場のシンフォリカルポス。マジカルアバランチェという品種です。

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シンフォリカルポスはだいぶ気難し屋なのだとか。
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ミツバチによって受粉して実がなるのですが、開花期にあまりの暑さに当たると受粉せず実付きがすこぶる悪かったり、かと思えば暑い年でも良くできたりすることもあるのだとか。
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気候に関係するのか、何なのかその因果関係を体系的に捉えることが難しく、心を砕いていらっしゃいます。
おまけに除草剤にも弱いそうで。
う~ん、シンフォリカルポスって20年前はもう少し今より出荷量があったように思うのですが、やはり生産の難しさで、生産者さんは減少しているようです。

「この一面のシンフォリ畑は、10日間から2週間くらいのうちに全て収穫します」
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え? 出荷期間が2週間くらいということですか?だとすると、ちょっと短すぎるようなー・・・( ;´∀`)

「だから標高差を使って出荷期間をリレーしていくんだよ」
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と藤巻さん。
一つの圃場だけでなく、標高の異なる様々な圃場を活用し、みゆき様の中で出荷リレーをしていくことで出荷期間を長くしているのです。

藤巻さん
「あちこちにある圃場を一つにまとめれば作業効率もいい。
だけど、使っていただく方のことを考えたら、出荷期間が長い方がいいでしょ」

【みゆき様シンフォリカルポス マジカルアバランチェ 月別出荷数推移】
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(2018年大田花きへのご出荷を基に作成)


●里山に突如として現る不思議樹木!

飯山の辺りを拝見していますと、なかなか日頃とは異なる光景で出くわします。
例えばこちらの看板。
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ここで地元美人が突如として現れたら、確かにドライバーの藤巻さんは事故を起こして、ウン探はみゆき様の記事を皆様にお届けすることができないかもしれないという不安に駆られ、藤巻さんには安全運転をお願いしつつ思わずキョロキョロしてしまいましたキョロ(・_・。)(。・_・)キョロ
しかし、幸いにも人は一人として通らなかったので、藤巻さんは一切脇見をせず運転に集中できたはず。無事にこの記事も公開されました。

日頃とは異なる光景・・・あるいはこちら。
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むむ?これは何でしょうか。
遠くから拝見したところ、巨大で異様なほどの光景です。

近くで拝見しますと、鉄柱に木の幹がぐるぐると巻きついているではありませんか。

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ギュルンギュルンに巻き付いていますが、こ、ここれは??

藤巻さん
「ツルウメモドキを作っているんだよ」

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お、ほんとだ!近くで見るとツルウメモドキということがわかります。
しかし、近づきすぎると、なんだかギリシャ神話に出てくるメデューサを想起させるほど。夜見たら怖そうです^^;
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「蔦がモノを伝って伸びていく植物の習性を使ってこのような栽培方法にしているんだよ。
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出荷の時はこうやって葉を取り除くんだよ。
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この圃場は酒井さんという生産者さんでね、このような栽培方法をしているのか管内でも酒井さんだけ。
地中に2メートル、地上3メートルの支柱を立てているんだよ。
ここでも雪国ならではの工夫があってね、この枝も雪の重みで傷んでしまうので、雪が積もる前にある程度枝を間引いておく必要があるんだ。
でも切りすぎると株自体が弱くなってしまうし、切らないと雪で潰されてしまう。そのさじ加減が大切。
梯子を立てて高枝切ばさみでチョキチョキ・・・一度昇ったらまた降りて、1株のうちでもまた梯子をかける場所を変えてチョキチョキ・・・と1株につき何度も上ったり下りたりして、枝を剪定していくんだ」

雪国でなければ省ける手間でしょうに、豪雪地帯ならでは手間と苦労があるのですね。お怪我のないようにしていただきたいと思います。
それにしても、この光景は花き業界に身を置く方にとっても、初めての場合は結構な衝撃でございました。

「うちのツルウメモドキは実が大きいのが特長なんです」という藤巻さん。
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どれどれ。

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ボールペンの先と比べると、実の大きさがわかりやすいかと存じます。山採りはもう少し実が小さいのですが、系統選抜をして実が大きいものを栽培しているのです。

その名も「ツルウメジャイアント」

うん、わかりやすい!



●その他の品目
みゆき様からはそのほかの様々な品目が出荷されていますが、デビュー前に梨元さんの秘密の圃場でお試し栽培をして、合格した品目が部会のみなさまによって生産されるというパターンが多いです。
こちらが秘密のお試し圃場。
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普及員さんがお試しで持っていらした苗と試しに植えてみたり、よしこれはどうかと目を付けた植物の栽培が地域の気候に合うかどうか、試作しているのです。
例えばこちらのエリンジウム。
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こちらの試作でうまくいったあと、部会のみなさまでたくさん定植しました。 来年からみゆきさまのエリンジウムが本格出荷されますので、ご期待ください!

そのほかオカトラノオ、モナルダ・・・
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セファランサスのムーンライトファンタジー
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シキミア
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シャクヤクの品種
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バプティシア
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などなど、まあこのような感じで植物好きなら試作圃場からなかなか出て来られなくなるほどのバラエティを色々と栽培していらっしゃるのです。
梨元さんはどのように新しいアイテムの導入を決めていらっしゃるのですか?
「勘です!(笑)
当たるも八卦当たらぬも八卦だよ」

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藤巻さん
「梨元さんはなんだかもう植物に取りつかれるギャンブラーのような感覚なのでしょうかね??(笑)
よく当たりますが外れたものもありますし、その時にヒットしなくても、少し時代が流れてからよく売れるようになることもあるんですよ。時代が追い付いてくる感じ。」

ご本人は「勘」とおっしゃっていても、やはりその裏には経験やマーケットの深い洞察による裏付けがあるのではないでしょうか。梨元さんも藤巻さんもマーケットの声によく耳を傾けていらっしゃるように思いますし、定期的に東京の生花店さまを見て回っていらっしゃいます。だからこそ潜在的な情報が繋がって勘や直感が働くのでしょう。


そんな中、みゆきさんの昨今デビューした新品種をご紹介いただきました。
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こちら、何だと思いますか??

正解はフロックスです◎
へー、花がなくモコモコしたフロックスなんですね。花が退化してガクが発達したもの。

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これはヒットの予感です!

さて、最後にみゆき様で生産されるあらゆる宿根草や枝物の栽培の様子をダイジェストでご覧ください。
こちらはヒペリカム
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こちらは斑入りのヒペリカム。
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●こちらはベニスモモ。秋色の赤が映えてキレイですね。
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メガネヤナギ
カールグラス”という名前で出荷されています。
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ヤナギの栽培で乾燥は大敵。とはいえ灌水は雨水だけ。地表が乾かないように藁を敷いています。
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そのほかホトトギス
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ルリタマアザミ
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開花するとこんな感じ↓

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シュウメイギク
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こちらはサンゴミズキ
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葉はグリーンですが、軸が赤いことがわかると思います。サンゴミズキは市場へはこの赤い枝の部分だけで出荷されます。従って葉が落ちたら出荷です。

「霜が3回下りると葉が落ちます。
その前に出荷の場合は手で葉を取り除いて出荷します」

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こちらはフサスグリ。
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支柱は雪害を防ぐためのもの。
冬期は雪で潰れてしまうので、降雪の前に枝を支柱に結わき付けるのです。
春が来たら、またその紐を取るという作業があるのですが、これもまた雪国ならではの手間です。

アメリカテマリシモツケのマゼルトブラウン
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などなどれらの品目が、これからの季節に出荷ピークを迎えます。


●山間部ならではの選択「宿根草と豪雪地帯の密接な関係?」
はい、このように秋の商材をいろいろご覧いただいたところで、皆様お気づきでしょうか。みゆきのみなさまは、草花品目といっても一年草ではないのです。全て宿根草、もしくは枝物
雪に埋もれるだけに宿根草や枝物は支柱に巻きつけたり、間引き剪定が必要だったりと手間がかかるのではないかと思われるかもしれませんが、その選択には豪雪地域で継続的に農業生産を行うための確固とした理由があるのです。

1つは、「一つはリスク分散」という藤巻さん。
先ほどの作りにくいワレモコウやシンフォリカルポスなど、一つの品目に絞るとうまくいかなかったときにダメージが大きいので、多品目作ることでリスク分散しているのです。

2つめ。
部会員さま100軒中ほとんどは兼業農家さん。米や野菜と冬場はスキーリゾート地のお仕事をされたり、キノコを作ったりされているのです。
↓圃場から臨むスキー場
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この豪雪の中、冬場もハウスを維持するというのは大変なコストと労力がかかりますから、冬場に雪に埋もれてOKなもの

そして3つ目。(実はこの理由が大きいのですが)
一年草は雪解けから改めて播種をする必要があります。 雪が解けてから「よっこらせ」と腰を持ち上げて毎年ゼロからでは、年齢を重ねるごとに生産が大変になっていきます。しかし、宿根草や枝物なら雪が解けると自然に根が動き始め芽吹いてきます。二十四節気の一つに啓蟄(冬眠していた虫たちがもごもごと動き始めるころ)がありますが、このように動き始めた大地に呼応するように、体も自然に動く。無理なくその時の農業生産を始められるのです。だからこそ季節になれば自ら芽吹く宿根草や枝物という選択。

自然の動きにシンクロしながら、 暖かくなったら芽吹きの枝物を出荷して雪解けから春の目覚めを演出、夏には涼しそうな青葉の枝物、秋になったら実物や紅葉モノを出荷、季節の推移と同じスピード感で大地からの恵み消費地に届けする。これがみゆき様の農業ビジネスモデルと思いました。
生活者視点で見ても、消費の現場と共鳴した形で花きを供給していらっしゃる。このあたりがみゆき様の成功理由でもあり、冒頭でご紹介したように、藤巻さんが「誠に具合いいです」とおっしゃった真意のように思います。


【JAながの みゆき花き共撰部会さまの格言】

●露地栽培の仕事の半分は除草作業!
除草作業との格闘が大きな業務ウェイトを占める。草に負けると、花も負ける!
つまり除草は大変重要な作業で時間もかかりますが、そこに手間を取られ過ぎると花きの栽培自体に手をかけられなくなるということ。このバランスが露地栽培のジレンマです。


●切花スズランの市場流通はみゆき様の腕にかかっている!
切花スズランの生産地は全国でも限られています。おまけに球根を養成して、根付きでご出荷されるのはみゆき様まくらい。今後、切花スズランが安定的に供給されるかどうかもみゆき様の球根養成と生産者さまの腕にかかっているのです。


●作業効率ばかりを優先するのではなく実需者視点で供給体制を整えよう
効率主義でいくなら、1品目をひとつの圃場で生産し、出荷期に一気に収穫するのがベスト。
しかし、みゆきさまでは管内全体で500メートル近くある標高差を生かして、それぞれの品目の出荷期間が長くなるようを労力を惜しむことなく生産地づくり行っていらっしゃいます。


●【これ重要】宿根草や枝物を栽培するのは、自然と息吹とシンクロしてサステイナブルな農業生産を行うためであった!
冬期は花生産から離れつつも、雪が解け、大地の目覚めとともに花き生産に戻る。
自然の動きに共鳴した花き生産は、古いようで新しい。この方法でみゆきさまの商材は花きマーケットで大変人気なのでした。

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写真が上手な梨元さんの撮影による美しい数々の花をご覧になれますよ~。

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写真・文責:ikuko naito@大田花き花の生活研究所
※取材に撮影できなかった積雪やスズラン栽培の様子など、一部の写真は藤巻様、及び梨元様にご提供賜りました。