産地ウンチク探検隊 生産者が語る花に対する熱き思いをご紹介します。

2019年01月23日

vol.125 JA信州諏訪様:長野県 アネモネ・アルストロメリア


さっっぶッ!!{{{{ヾ(。*д*´)ノ゙}}}}

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高く晴れた青空の下、風もなく穏やかな気候ではありますが、気温は低くウンチク探検隊の血管は寒くて凍りつくかと思ったほど。
今回は、日本列島のほぼ中央に位置する長野県のJA信州諏訪さまにお邪魔いたしました!
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JA信州諏訪さまは、昭和初期に花き生産を始めた歴史のある生産地です。
現在は、7つの花き部会(カーネーション、キク、トルコギキョウ、スターチス、リンドウ、宿根カスミソウ、アスルトロメリア)、360軒の生産者さまを擁した大産地。

【JA信州諏訪さまと地域の基本情報】
・諏訪湖周辺から八ヶ岳西麓地帯にかけ諏訪市、諏訪郡、茅野市、岡谷市などに360軒の生産者
・標高760-1,200m
・冬場の最低気温マイナス15度程度、夏場の最高気温33度(昨年の猛暑で、この地域で観測史上最高気温)
・太平洋型で日照量が多く、夏場は冷涼なのが特徴
・土壌は火山灰土
・八ヶ岳、蓼科山、霧ケ峰などの山々に囲まれ、諏訪湖を擁する自然豊かな観光地域でもある。
・東京、および中京、大阪地区と、どのマーケットにもアクセスが良い立地を生かし、生産地としての発展を遂げる。
・品質保持への意識が高く、夏場の出荷トラックには全車両冷蔵車を使用。


多品目を出荷するJA信州諏訪さまですが、今回はアスルトロメリアとアネモネをご紹介いたします!

まずは、この時期に旬を迎えるアネモネから。
アネモネは、2005年に当コーナーが始まって以来、初めてのご紹介です。

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【アネモネの基本情報】
学名:Anemone coronaria
(coronariaは「花弁のような」の意味)
分類:キンポウゲ科イチリンソウ属アネモネ種
原産地:ヨーロッパ南部から地中海沿岸地域。(原産地からの伝播には、十字軍や巡礼者によるところが大きい)
パレスチナ地域にも群生し、「新約聖書」に記された「野のユリ」とは、このアネモネとされている。
「アネモネ」とは、ギリシャ語のアネモス(「風」の意味)に由来。心地よい風がよくあたる所を好むことから。
日本への渡来は明治5年。

アネモネをJA信州諏訪で生産されるのは全部で9人。
今回は、諏訪郡原村(はらむら)で生産される、アネモネ生産25年の伊藤佐九次(いとう・さくじ)さんを訪れました。
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ハウスの中にお邪魔してみますと、一面に広がるアネモネ畑。なるほど地植えなのですね。
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花に焦点を当てれば、レース模様の豪華な襟に囲まれたお顔が、エレガントでかわいらしい限り。
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って、花ばかりに目を奪われていましたが、ふと顔を上げると・・・!

ンうわッΣ(ОД○*)!!


天井、ヒクッ!(正しくは「天井が低いですね」)

伊藤さんの頭のすぐ上が天井・・・というか、もうぶつかってしまっているではありませんか。
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伊藤さん、いいのですか??首、痛くなりそーですが?

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「これがいいんだよ。
寒い時期は暖房を焚くから、効率良くハウスの中を温度調整するために、あえて天井を低くしているんだよ」

海外から種苗会社を経由して取り寄せた実生苗を6月下旬に定植、8月下旬にはもう花芽が上がってきて、9月の彼岸からちょっとずつ出荷スタート。

「出荷期間のイメージは、ざっくりいえば“彼岸から彼岸まで”だよ」

最盛期は1-3月ですが、意外と出荷している期間は長いのですね。寒い半年間に出荷されるわけですから、それは暖房費もかさみます。
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ハウスの天井が低いのは、暖房費を節約するためだったのですね。


導入品種はミストラルプラスとモナリザ、合計で10色くらい。苗はフランス、アメリカ、チリなどから種を輸入し、種苗会社で育苗されたものを導入しています。

ミストラルプラスとモナリザは、見た目は似ていますが、性質としては、それぞれ次のような特徴があります。
ミストラルプラスは花色が豊富、茎も太く、発色が良い、花径がモナリザより一回り大きく、生産の事情を言えば病気に強いという長所があります。
一方、モナリザは草丈を取りやすい、立ち本数が多い、茎割れ(後述)しにくいというメリットがあります。

一見、見分けがつきにくいのですが、同じ白い品種なら、決定的に見分ける方法があります(・ω・)b
芯が黒いのがミストラル!
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芯が白いのがモナリザです。これだけはわかりやすい違いですね!
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【生産について】
アネモネの原産地は太陽の光が降り注ぐ地中海沿岸であることを考えれば、日がよく当たり、乾燥している場所を好みます。先述の通り、アネモネの名前は「風」に由来しています。それだけにアネモネの生産に最も必要なのは光と風。アネモネは、春の風と光を運ぶ花。

ハウス内の換気扇は、とりわけ夏場に、ビカビカ太陽が当たるハウスの南側に、熱気が溜まらないようにするため。
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ひとつの扇風機はあっちをむき、もう一つはこっちを向いて、ハウス内を空気が循環するように設置しています。換気を万全にしつつ、日照率の高いこの諏訪の地で最大限に光を取り込む、その上でできるだけ効率良く暖房をかけるようにして、アネモネに最適な環境を作っているのです。

ところが・・・!

地上は乾燥していた方がいいのですが、地中は十分な湿度がないといけないのです。
ここが難しいところ。灌水は、このチューブから。
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でも、ウン探が拝見してきたこれまでの灌水チューブとは大きく異なる点があります。それは・・・

チューブの穴が下を向いていること!

アネモネは地上の株が多湿になるのは厳禁。灌水口を下に向け、ハウス内の湿度を上げないよう工夫しています。

「湿度が上がって、カビの原因になるからね。このように工夫しても尚、雨の日が続くと花傷みの原因にもなりやすい。」

さらに、マルチングとして活用しているこちら(ケイントップ;サトウキビの葉)も地中の湿度が地上に影響するのを極力おさえるためのもの。
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またケイントップを施さないと、ゼニゴケなどのコケ類が生えてしまうので、コケや雑草が生えるのを防ぐものでもあります。

あら?゚◇゚)?
ハウス内に時々見受けられるこの裂けるチーズのような現象はなんでしょうか・・・?
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しかも、かなり豪快にべろ~んといっちゃっていますが・・・?

「グロテスクでしょー」と伊藤さん。

はい、言ってみればそんな感じ^ ^;

っていうか、えええーーーーー!Σ(゚□゚(゚□゚*)!!!

こ、これ、とりわけひどくありませんか?
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誰かいたずらかと思ってしまうくらいひどく裂けているこの現象は??

「これは“茎割れ”といって、アネモネに起こる一種の生理障害だよ。誰かのいたずらなら“やめてくれ”ってお願いするんだけど、これは肥料バランスとか、土壌の湿度、その他の環境などでどうしても起きてしまうものなんだ。もうひどいのは”アネモネ自滅!“と表現したいくらいだよ。自動的に割れていっちゃうんだから。

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全体で3割くらいこの現象が出るかな。

成長旺盛だからといって、肥料を減らせば茎が細くなったり、葉が黄色くなってしまうしね、その加減が難しいんだ」

製品率は7割( ̄□ ̄;)!!・・・歩留まりがイマイチのために生産を止めていく人もいるくらいなのだとか。それでも客観的に見ると、伊藤さんのところは製品率が高い方と太鼓判を押すJA信州諏訪農協の職員の方。
(↓写真はJA信州諏訪の明石さん)
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では、ハウスの外にあるこれは?
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「防風・防寒対策だよ。
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こちら側は北風が当たるんだ。すると、灌水パイプが凍ってしまうこともある。そこで、この稲わらを置いておくと、凍結防止になるんだよ」

なるほど、寒冷地ならではの工夫。ハウス内外に施してあるひとつひとつに意味があるのですね。

冒頭で、低いと驚いたビニールハウスも、冬場に取り外しできることに大きなメリットがあります。それは・・・

「連作障害回避に一役買うんだよ。
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私のところではトルコギキョウも生産しているんだけど、何年かおきにトルコギキョウとハウスを入れ替えるんだ。トルコギキョウに入れ替えて出荷が終わったときに、冬場ビニールを外しておくと、土が凍ったり、雪が積もったりする。

それが溶けたときに土壌を洗い流してくれるんだ。もうこれだけで、肥料や養分をある程度ニュートラルにできるから連作障害を回避に繋がるんだ。
これはなかなかガラスの立派なハウスでは、外すことはできないでしょ」

まさに地域の自然環境を生かした農業ですね。


【切り前】※「切り前」とは、採花のタイミングのことです。

ハウスを拝見していると、すぐに花瓶に挿せそうなくらい充分に開花したモノから、ツボミの固いものまでありますが、切り前の判断はどのようにされるのでしょうか。
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「アネモネはキンポウゲ科の植物だから、昼間開花していても、夜に花が閉じるんだ。一度開花して、夜閉じたら、その次の朝に採花する

えー!!( ̄◇ ̄;)エッ
毎晩開閉するアネモネのうち、最初に開花した翌朝に切るのですか?開花したかどうかって、どのように見定めるのですか?

「見たらわかるものだよ。
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ツボミが緩くなっているし、2度開いたものは咲き過ぎ感があるし、日々見ていると、わかるんだ」

すごい!これこそ25年間アネモネと向き合ってきた生産者さんならではの眼識でしょうか。初めてお邪魔した限りでは、なかなか見分けは付かないものです。

「軸(茎)が太い場合は、今の時期なら1度開いたものを採花するのがベスト。
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それ以上時間が経つと、花が大きくなるというのはあるけど、首が伸びてくるんだ」

ここでいう「首」とは、(通称)天葉(テンパ;花のすぐ下に付く葉のこと)と花との間のことを指しています。
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ココがあまり伸びていると、開花してから時間が経過したサイン。(品種の差があります。)
2日目に開花する前に切らないといけないので、採花作業は早朝に行われます。

「今の時期だと、朝9時までくらいかな。
今は日の出が6時50分くらいだから、それから9時くらいまでの間に一気に切り上げるんだよ」

膝と腰を曲げて、地際から1本1本ハサミで切っていくのです。これはなかなか大変な作業です。

品質の良いアネモネの見分け方はどのようにすればいいでしょうか?

「アネモネを選ぶときは、茎が太くしてしっかりしたもの、花首(天葉から花の間の茎)が間延びしていないものを選ぶといいよ。しっかり開くし、日持ちもするからね。
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茎が細いと、花弁も薄いし、花首もすぐ伸びてしまう印象だし、日持ちも良くないと思う」

ご自宅で楽しむうちに、どうしてもこの花首は伸びてきます。
こんな感じ↓にょろ~ん
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これはアネモネの性質ですが、生花店でお買い求めの際は、花首が間延びしていないものを選ぶのがGOOD!
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これはアネモネを選ぶときの大きなポイントです。


【輸送】
出荷の際は、このように乾式(足元が水に浸かっていないこと)であるにもかかわらず、箱を縦にしたまま農協の冷蔵庫で一時保管、輸送も縦のまま・・・どうしてですか?
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「横にすると、重力に反発して花首が横に曲がってしまう。体が寝ているのに、首が起きてきてしまうから、市場に着いたときに首が曲がってしまうんだよ。

さらに、この新聞紙は凍結防止と花の保護のため」
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↑サンプル写真はアルストロメリアですが、アネモネ、他の品目にも凍結防止の新聞紙を使用します。
確かに、小さい頃「新聞紙は暖かい」と教わったことがあります。1枚敷くと随分と効果が違うのでしょう。新聞紙1枚の配慮からJA信州諏訪さまの品質保持への取り組みを見て取ることができます。

伊藤さん、今年のアネモネの出来はいかがでしょうか。

「6月に定植したんだけど、その頃から猛暑に悩まされてね。病気なども心配したけど、補植(ほしょく;苗がダメになったところに、再び新しい苗を植え直すこと)などもして、何とかいつも通りに出荷できているよ」
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それはよかったー!(*’v`♡)。+*♬
品薄を心配せずにいられるのも、伊藤さん、生産者のみなさまのご尽力のお陰ですね。


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 次にお邪魔したのは、JA信州諏訪さまが全国に誇る品目、アルストロメリアの生産者さまです。

【アスルトロメリアの基本情報】
・分類 アスルトロメリア属
・学名 Alstroemeria L.
・原産地:チリ、ペルー、ブラジルのアンデス高地一帯
・水はけが良く、日当たりの良い斜面を好む
・別名「インカのユリ」「ユリズイセン」
・1926年(大正15年)に日本に渡来
・日持ちが良さと多彩な色バリエーションがと特長


訪問したのはアルストロメリアを生産される篠原万郎(しのはら・まんろう)さんです。
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うンわぁー!!(゜ロ゜) (゜ロ゜) (゜ロ゜)!!
今度はアネモネと逆で、かなり軒高のハウスです!

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しかも、えーーーー!ヾ(;☆ω☆)

アルストロメリアって、こんなに株高なのですね~。
(株取引をやっている人に販売したら、縁起物として人気が出そうなくらい、樹高があります・・・独り言)

「株の高さは品種によるよ。
これはブライズメイドという品種で、樹高が伸びる性質がある。アルストロメリアの中では高い方なんだ。これで、導入してから丸2年経過した株。

このブライズメイドを生産するために、この軒高ハウスを建てたんだよ。
軒高のハウスを持っている人じゃないと、この品種を作るのは難しい。通常のビニールハウスでは、すぐに天井を突いてしまうからね。ピンク色でかわいいし、写真映りがいいでしょ。(ウン探に)撮影してもらうにはちょうどいいかなと思ったんだけど」

写真映りGOODです!!!
・・・なはずですが、ハウスに入った途端に、カメラが曇る曇る・・・(╭ರ_⊙)ヾ(●ε●)ノ(╭ರ_⊙)

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レンズをふきふきして、改めて拝見いたしました!これが噂のブライズメイド!!
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いや~、しかしオドロキです。ピンク色でかわいらしい花姿からは想像できないほどに、株はニョキニョキと伸びていくのですね。
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その株1つも大きく、これでひと株!
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「1年で1株から100本採花できると理想的」とおっしゃる篠原さん。
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ブライズメイドといえば、近年アルストロメリアの中ではヒット品種。ピンク色の花が段咲きになっていくつも付き、ただでさえ日持ちが良いアルストロメリアの中でも、驚異的な日持ちの良さを誇る人気品種です。各新聞や雑誌などでもたびたび取り上げられ、フラワー・オブ・ザ・イヤーOTA2013で新商品奨励賞にも選出された実力派です。

ブライズメイドならとりわけ軒を高く、地中は深く耕運するのが◎。ハウスの中にバックホーを入れて、深さ60cmほどまで耕します。深耕するには理由があります。

「“ライゾーム”と呼ばれるアルストロメリアの根茎が、地中深くまで大きくなり、それが養分を吸うんだ」

アルストロメリアの”ライゾーム“はこんなサツマイモのような形をした根茎です。
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↑ウン探作(イメージ)下手ですみません^ ^;

このライゾームは地中30-40cmくらいはフツーに伸びていきます。
また、最大で4年間と長い間その株(ライゾーム)を使うこと(種苗提供側との契約で4年としている)、生育が旺盛で多収性であることなどを鑑みて、地力を維持するために、深く耕す必要があるのです。
畝をこうして少し高くするのも、少しでも地中深く耕すため。水はけもよくなります。排水が良い分、アルストロメリアのような乾燥を好む作物の栽培には適しています。
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「でも、こうすると地表の面積が大きくなるため、夏の暑さが厳しい生産地では、地温が上がってしまうから、畝高を回避するところもあるんだ」

同じアルストロメリアでも、生産地域によって圃場の作り方が異なるものなのですね(*゚.゚)いかに地場の環境、気象条件を生かし、いかに弱点を克服するかという観点が農業では欠かせないポイントなのですね。

原産地であるペルーやアルゼンチンなど、「冷涼な乾燥地帯」を思えば、アルストロメリアは本来比較的寒さには強く、高温多湿な条件は苦手。生産する場合は、なにより夏場のカビ、腐敗、品質劣化をいかにコントロールするかが大変。それを思えば、JA信州諏訪様の環境は、冷涼で年間を通して湿度の低く、比較的原産地に近い環境を作れるこができる大きなアドバンテージがあるのです。

通常、多くのアルストロメリアの国内生産者さんは、きっと夏場の管理に心を砕いていらっしゃることと存じます。地中にパイプを通し、そこに冷却水を流して地温を下げるなどの工夫をされている生産地も多いのです。地温は17度以下、気温は25度くらいまでが理想的。篠原さんの圃場がある原村の標高1,100メートルのこの地であれば、地中冷却をするまでもありません。(※JA信州諏訪の生産者さんの中で、冷却パイプを通している方もいらっしゃいます)

JA信州諏訪さまについて語るなら、ここは日本アルプスならぬ、日本アンデスとも言うべくアルストロメリアにとって快適な場所なのです。
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【切り前】
アルストロメリアは驚くほど長持ちする花ですが、何か切り前のコツなどあるのでしょうか。

「通常のアルストロメリア(段咲きのブライズメイドではなく)は、1輪大きく開花すれば、切り時だよ」
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他の花が開花するのを待っていると、1輪目が散ってしまうので、1輪がほぼ100%に開花しタイミングが切りドキ。でもブライズメイドだけは違うといいます。

「ブライズメイドはチョット特別。花4段のうち、下から2段が開花して、3段目に色が付いたくらいのタイミングで採花する。後から花が開いても、最初の花が散らないんだ。つまり長持ちする品種ということ」

篠原さん、とはいえ、こちら↓を拝見すると、段咲きになっていないように思いますが。
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本当のことを申しますと、最初に拝見したときはブライズメイドと思わなかったくらいです・・・

「最初はこうなの。
一輪目が開花しているうちに次の花芽が伸びて、2番目の花が咲いているうちに次の花が伸びて・・・と順々に開花して最終的に段咲きになるというわけ。

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最高で5段くらいまで咲くよ。それは見事だよ。ここでしか見ることができないけどね(^_-)★!」

初年度の栽培試験の時に採花せずに圃場で観察していたのだそうです。
通常は4段で出荷されますので、幻の5段!
見たかった~!( ̄▽ ̄*)。o0○

【品種選定と苗導入の秘密
大田花きには年間で300品種ほどのアルストロメリアが流通します。篠原さんをはじめ、JA信州諏訪の生産者さんは、どのように品種選定をされているのでしょうか。

「農協の方々と相談するよ。
また、種苗会社の展示会、説明会が開催されるから、そこでの情報を大いに参考にするんだ」

更には、JA信州諏訪の方に伺うと、方向性の共有をするために「個人面談を行う」のだとか。

って、えっーーーーー!こ、個人面談!?
アルストロメリアの部会員全12名一人一人と行います。もちろん最終的な選択は生産者さんご自身にお任せ。とはいえ、「JA信州諏訪」という一つのブランド名で出荷するので、大きなブレがないよう方向性共有のために、面談を行うのです。

篠原さん曰く、
「株代が高いので、(種苗選択において)失敗できない。検討に検討を重ね、よく吟味して導入するんだ」

アルストロメリアの株代(苗代)って、どのくらい高いのですか?

「そうだなー、1苗が3.5寸くらいの鉢で納品されるんだけど、1年分の苗代だけで軽自動車は余裕で買える。
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普通自動車でもコンパクトカーなら買えてしまうくらいの費用を毎年かけるよ。株は契約で4年使うけど、圃場内の4分の1ずつを新しい株に入れ替えるから、結局毎年株代が発生する」

つまり、篠原さんの圃場で軽自動車を4台管理していて、毎年1台ずつ買い替えるイメージ。
しかも、株代ONLYでそれだけ費用がかかるのです。アルストロメリア生産も先行投資型なのですね。


【Why アスルトロメリア?】
篠原さんに、なぜ生産品目としてアルストロメリアを選択されたのかを伺いました。

「アメリカに農業研修に行ったときに、ある日系人の方と知り合いになったんだけど、その方がアルストロメリアを作っていたんだ。その時に、地温が17度を越えたら、(暑すぎて)花芽にならずに全て葉芽になるよという話を聞いてね。
アルストロメリアを作るなら、温かいところより涼しいところの方が有利だっていうから、それなら標高1,100メートルのうちのところでできると目を付けたというのがひとつのきっかけ。

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1984年に帰ってきてみたら、この近くの地域や同じ県内の伊那地区、愛知県の渥美でもすでに作っているというから、色々圃場を見させてもらって、バブル経済で取引単価もいいようだ・・・ “こりゃ、やるしかない(•̀ᴗ•́)و9!”と1985-6年くらいから生産を始めたんだよ」

全国でも早い方だったのでしょうか?

「この近所と伊那地区に、日本で初めてアルストロメリアの商業生産を始めた人がいるんだけど、それが1977年くらいと聞いているよ」
そして、全国に先駆けアルストロメリア生産を始めたこの長野の地で、98年に開催された冬季オリンピック。この時のビクトリーブーケのメイン花材として採用されたのは、


もうお気づきですね。この流れからいけば・・・・



そう!



アルストロメリアです◎



こちらの写真は、実際のビクトリーブーケのデザイン。
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デザインを担当されたフラワーデザイナー村松文彦さんにご提供いただきました。トーチをイメージしてデザインされたブーケです。この時のオリンピックのテーマは「地球環境」。このテーマに則り、花ばかりでなく資材においてもすべて土に還る素材を使い、ブーケを作りました。輪ゴムやセロテープなどを使わず、麻紐などを活用したのです。

アルストロメリアは全て長野県産が使われましたから、きっと篠原さんのメリアも使われていることでしょう!


【生産の課題】
こちらは、1995年に書かれた「農業技術体系」。
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当時の長野県諏訪農業改良普及センターの職員さんによって、ちょうど現在のJA信州諏訪管内のアスルトロメリア生産者さんのことが記録されています。
それによると「現在の課題は、9-12月の出荷量を15%増やすこと」とあります。つまり、今から24年ほど前、夏の暑い時期に、十分な品質と量を出荷できなかった。それを需要期にいかに出荷ピークをシフトして、照準を合わせるかが大きな課題だったのです。

発行されてから24年、四半世紀近く経過した今、この課題はクリアされたのでしょうか。

「その時は、需要期である秋に咲かせて出荷するのが、アスルトロメリア生産の歴史の中で難しい時期でもあった。
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ところが、現在は技術的にも品種改良の点からしても十分に秋にも採花できるようになり、秋の品薄は解消できたよ。むしろ、現在は需要期の秋が出荷のメインだよ」

篠原さんは、技術と品種とおっしゃいましたが、そのためにはなんとか需要期に供給を合わせようという生産のみなさまのマーケットへの思いとご努力があったものと思います。まさに、私たちが欲しい時にいつでもアルストロメリアを楽しめるのは、「技術と品種とご努力のお陰」といえるでしょう。

では、現在の課題は何でしょうか。

「燃料などの生産コスト、あるいは運搬してくれる人を確保できるかという物流の問題、それと気候変動などかな。予期しえない気象変動や災害レベルの気温上昇、大雨などには頭が痛い。なかなか自分でコントロールできる範囲ではない問題が増えてきているように思うよ」


例えば、この原村でこれまで夏場に30度を超える日は数えるくらいしかなかったところ、昨年の猛暑の時は1か月のうち半分くらい30度を超えたといいます。ある夏、突然訪れる例外的な暑さに、数カ月で対応する術はありません。
いずれも個人レベルでは解決はし難い難題ばかりが残っています。
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(毎日午後3時に二重カーテンを閉める篠原さん。二重にして冷え込む夜間の保温効果を高めます)


【番外編】
アルストロメリアの花粉の色、実は、花弁の色と関連性が見られることをご存知ですか?
様々な色のアルストロメリアの葯を取り、色を比べていました。こうして並べるとなんだか漢方薬みたいです^ ^;
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白いアルストロメリアは葯も白グリーンですし、黄色は確かに黄色が強くなります。濃い紫の葯は紫色ですし、濃いピンク色の葯は赤味が強いですね。
花弁と葯の色には花の構造上の理由がありそう。農研機構花き品質解析研究チームの資料(2008年)よると、ガク、花弁、雄しべ、雌しべの構造は、A・B・Cという3種類の遺伝子によって決められているのだそうです。

・A遺伝子が働く場所=ガク
・AとB遺伝子が働く場所=花弁
・BとC遺伝子が働く場所=雄しべ
・C遺伝子が働く場所=雌しべ

※実際、育種された品種はこのABCモデルだけでは説明できない構造のものも多数あります。
つまり、この理論からいけば、花弁と雄しべには共通してB遺伝子が影響しているため、花弁と葯との間にも色の相関関係があるということでしょうか?このような観察も面白いものです。


★アスルトロメリアとアネモネのトレンド分析
こちらのバブルチャートは大田花きにおける過去5年間の取引実績を示しています。


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バブルの大きさは取引量を示しています。
アルストロメリアとアネモネはいずれも、数量・金額ともに伸び筋のエリアにプロットされていて、今後さらに期待できる品目です。マーケットが必要としていますので、ぜひこれからも日本のアンデスからご出荷をお願いしたいと思います。生産、出荷をお願いしたいと思います。

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【JA信州諏訪さまの格言】 アネモネ・アルストロメリア編

<アネモネ>
・ハウス内の環境を効率良く最適化するために、天井を低くし、できるだけコンパクトなハウスを構えよ!
・アネモネを選ぶときは、茎が太くて、花首が間延びしていないものを選ぶべし!日持ちが違います。
・生産に最も重要な要素は光と風。
・JA信州諏訪様のアネモネ出荷は彼岸から彼岸まで。
・まさに、アネモネは私たちに春の風と光を運ぶ花なのです!


<アルストロメリア>

・草丈の長い品種に合わせ、ハウスは軒高に構えよ!
・大きめのライゾーム(地下茎)を考慮し、深耕せよ!
・品種選定は個人面談を行い、ブランドを統一せよ!
・技術と品種と努力で供給を需要期に合わせ、国民に広く愛される品目に成長させよ。
・原産地に近い環境の日本アンデスともいうべき信州諏訪の地の利を生かし、高品質のアルストロメリアをどしどしご出荷ください!(by大田花き)
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写真・文責:ikuko naito@大田花き花の生活研究所