産地ウンチク探検隊 生産者が語る花に対する熱き思いをご紹介します。

2018年03月23日

vol.122 ㈱中庄農園様:福井県 いろいろ数百種


パぉ~ん!!
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と雄叫びが聞こえてきそうなほどリアルな恐竜が、駅前のロータリー中央を陣取って幅を利かせている。

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しかも首が動いて、まるでホンモノ。なんだか映画のジュラシックパークを再現したかのような力の入れようだ・・・ここは?
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なんとウンチク探検隊13年目にして初上陸の・・・・!


福井県です。
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福井県は国内随一の恐竜の化石産出地であることから、恐竜王国として知られています。
フクイサウルスやフクイラプトルなど、福井の名前が付けられた品種もあるほど。
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駅前にあった天を突くような恐竜や、人間社会とは共存は想像できないほどの獰猛な生き物が、1-2億年前にこの福井県の地を闊歩していたかと思うと、なんだか優しい印象の福井県(個人的感想です)も力強く活発なイメージに変わるというものです。
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駅周辺で様々な恐竜たちが出迎えてくれます。
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なんとポストまで恐竜。
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むしろ日常生活に同化。
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ジュラシックパークに降り立ったようなわくわく感を抱きながら歩みを進め訪れた先は、福井駅からおよそ10キロ弱北上したところに位置する坂井市春江。


ウン探にとって初めての福井で、訪れた花き生産者様こそ、


中庄(なかのしょう)農園株式会社さま。

こちらが代表取締役の佐藤豊治さん。
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4枚以上佐藤さんのお写真を使うと肖像権の点から有料になるそうでございまして、この度は佐藤さんのお顔の写真使用は3枚までとさせていただきました(笑)!

もちろん、佐藤さんのお写真であれば、有料でも尚使用させていただきたいと思っていますが、事前に社内稟議を通してこなかったので、今回は無料の範囲で対応させていただきたいと思います。

☆キャプテン・サトウと600種
中庄農園さまが生産されている品目は、枝垂れ柳、タンチョウアリアム、アリアムのムラサメ、マルバユーカリ、レモンユーカリ、ユーカリニコリー、ユーカリポリアンセモス、クリスマスローズ、ノバラ、アジサイ、スノーボール、ジューンベリー、八重バイカウツギ、オリーブ、サンゴミズキ、アロニア、シャクヤク、ガマズミ、黄金ミズキ、グリーンアマリリス、シュベルティ、アナベル、シモツケ、フロックス、エリンジウム、穂先ナナカマド、カワラナデシコ、スカビオサ、ドウダンツツジ、台湾チゴユリ、アーティチョーク、ギョリュウ、レンゲショウマ、ブルーセージ、アナベルスモークツリーロウヤガキウバプルピスフロックスシクラムソバナキキョウカラスモクレン※▽◎И☆Дβ×ш※Θ?・・・・・


って、えーーーーーー(◎_◎;)!!!

リストアップしきれない・・・。

「以前、うちに来た研修生が数えたら600品種くらいあったみたい」

600品種・・・

なぜ故にそのように多品種を栽培されていらっしゃるのでしょうか。

「例えば、キク、ユリ、バラ、カーネーション、トルコギキョウ、カスミソウのような大品目は既に大きな生産地が確立されていて、栽培も販売も確立されている。私のような新参者の出る幕はないんだよ」

新参者って・・・?
佐藤さん、かなりの熟練生産者さんのようにお見受けいたしましたが。

「なーに言っとんじゃよ。
私はね、航海士だったんだ。
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子どもの頃は田んぼがイヤで逃げ回って神戸商船大学に入学。卒業後は川崎汽船株式会社に就職したんだよ」

ぬぁ、ぬぁんと、船乗りさんでしたか! しかも、勤務先のオフィスは霞が関や日比谷公園などが集中する東京のど真ん中「内幸町」。ここを拠点に海外航路の船長として世界を股にかけご活躍されていました。

Captain Satoに敬礼!
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「ところが、福井県庁が“港を作る!”からと、誰か紹介してほしいと川崎汽船に相談があって、私が38歳で福井県に出向したんだよ」

なるほど、38歳で転機到来。

「出向して、福井県庁航空拡張対策室に勤務しているときに、“フライト農業”を発案して、地元に提案したんだよ」

フ、フライト農業?・・・・ってなんですか?

「自分で調べるように」

かしこまりましたCaptain Sato!
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フライト農業とは簡単に申し上げますと“航空輸送に適した農産物を生産すること”。軽量なもので、単価の高いものがおトクなわけですね。

「そう。
そこで福井県としては飛行機で商品を運ぶ農業を推進していた。そこで花きの生産だ!となったんだけど、誰もやらないからじゃあモデルとして私がやろうと30年ほど前に自ら花き生産を開始したわけ。それが発端で大田花きに出荷を始めたんだ」

佐藤さん、小さい頃は田んぼで働くのがいやで逃げ回っていたのに、結局戻っていらしたのですね。
多品種を栽培されているのは何か理由があるのですか?

「農学部を出たわけでもないし、よくわからないから人がやらないようなことをやろうとしているだけ。
素人がやると自然にこうなってしまうんだよ」

どこまでも謙虚な佐藤さん。
ところが従業員さんが教えてくれました。
「あんなこと言っているけど、とんでもなく分厚い本を読んでひとつひとつスンゴイ勉強しているんだよ。 めちゃくちゃ勉強した上で、じゃあこうしようって決めているんですよ」

なんと。

「そんなかっこいいこと言うなよ~」
IMG_0052(佐藤さんの写真2枚目)

恐らく従業員さんのおっしゃっていることが本当でしょう。
外国航路のキャプテンまでお務めになった方は、やはり勉強家でなんでも突き詰めてしまう方でしたか。これでナットクです。

品目のチョイスは地域性が反映されているようです。
福井という土地柄、金沢と京都が近いだけに茶花として活用される品目が多いのが、特徴です。

例えばウバプルピス。フリチラリアの一種。
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ピンクシャンデリア
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シマフトイ
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フリチラリア。
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そのほかにもちろん洋花もたくさん。
オリーブ。まだ若木なのでこれからの出荷ですが。
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フェチダスやクリスマスローズ。
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雲竜柳
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サンゴミズキ
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雨天につき水滴がレンズに・・・↑

ユーカリ
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コウテングワ(香篆桑)
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空に切り込むジグザグ模様がカッコイイですね。

それだけではありません。

農業を始める前、船長時代に入手したアイテムも大切に育てて出荷しています。
例えば、こちらはグリーンアマリリス。ブラジル航路で球根を入手しました。
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こちらはベラドンナリリー。アフリカ航路ケープタウンで入手したもの。
(写真 桜庭さんにもらう)


ちょっと拝見しただけでも、その属性にそれぞれ関連性のないありとあらゆる品目を栽培されていらっしゃいますが、何を作って何を作らないか、どのように決めるのですか。

「お客様の声を聞くということだけど、流通でいけば仲卸さんからさらに先の人のご意見を聞くということが重要。販売している人ではなく、最終的に使う人の声を集めるんだ」

佐藤さんのマーケットをより深く、正確に知ろうとするお考えと行動が窺えます。

中庄農園様の特徴は、実生で育てているということです。
↑この一行に驚かれた方も多いと思います。

生産者さんは種苗会社から苗を購入して栽培するのが定石ですが、佐藤さんにとってはどのようなものでも自家採種したタネから栽培してしまうのがスタンダード。あるいは挿し木。

ユーカリですらも然り。
こちらはユーカリ・ニコリー。播種から1年目の苗。
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きゃわいー*+。:.゚ヵワヽ(´∀`。)ノエェェ゚.:。+゚*

種苗を購入した方が収穫までが早いし、生産も安定し企画も揃いやすいのですが、佐藤さんはあくまでも実生(みしょう)に拘ります。 600種あって実生ですか?と伺いたくなりますが、それは佐藤さん流にいえば600種あるから実生なのです。

実生で育てて、それぞれに生育状況をご自身で観察しているからこそ、植物の性質をまるごと知ることができる。佐藤さんの努力家で勉強家気質があるからこそ、600種を作り上げてしまうのではないでしょうか。

学ぶためには、効率を優先するよりも、まずタネから育てその植物をよく観察するということ。

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物事を本質から知ろうとする姿勢は、きっと佐藤さんの中でキャプテン時代、学生時代からずっと変わらないものなのかもしれません。

佐藤さん、航海士という全く別の畑(・・・というか海ですが)、全く異なるキャリアでご活躍されていましたが、現在農業生産に生かされている点はあるのでしょうか。

「外国航路のキャプテンまでやったから、植物の原産地が分かれば我が中庄で育つかどうか、ある程度判断できるんだ。

商船大で学んだ気象学もよく役立っている」

やはり一つの分野を極めた方は、他の分野でもその経験や知識を生かすことができるものなのですね。

従業員さん曰く、
「ウチの社長の天気予報は、テレビの天気予報よりよくあたります。
“あと1時間くらいで大雨が降ってくるから、今のうち帰れ”と言われると、本当に1時間後に大雨が降ってくる。 明日、明後日は天気が崩れるから、今日のうちに〇〇しておけって言われてやっておくと、本当にひどく天気が崩れる」

きちんと学問を修めて社会で実践活用されていらしたことは、農業にも生活にも多いに応用できるのですね。これも物事を本質から究めようという佐藤さんの気質が表れた結果なのでしょう。


☆土地と気候
実際にここ春江での花き生産はいかがでしょうか。この辺りで花きを生産されていらっしゃるのは、現在中庄農園さんくらいかと思いますが・・・

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「ここ中庄地域は福井平野のほぼ中央に位置していて、昔から稲作が盛んなんだよ。
気候は暖地でもなく高冷地(寒冷地)でもない。まさに中間地だから、気候もマイルドで水稲ばかりでなく大概の植物はよく育つ。

土壌は弱酸性で肥沃。ここ中庄地域はなぜか地盤が高く、排水路の深さは1.5mと、地下水位が低い。だから水はけもいい。
夏は日本海からの涼しい西風、田んぼの水張りでさらにその風は心地良くなる。
冬は福井の中でも雪が少ないんだよ」

この2月の大雪の影響はいかがでしたでしょうか。心配しておりましたが。

「私が生きてきた中であれほどの大雪をこの地で経験したことはないな。
例年でいけばマイナス1度が最低気温、積雪はせいぜい20cm程度。3日で融ける。

その場所でこの2月にはマイナス6.8度、積雪1メートル以上だなんて生まれて初めてだよ」

その時の様子はこんな感じ。2月2日積雪150cm。
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ずっぽりと埋まってしまったハウス・・・
身長150cm程度の人だったら、頭まですっぽり埋まってしまうくらいだったとか。

「この周りのハウスは大概被害を受けたよ」
この通り。↓ビニールハウスの天辺がべこっとへこんでいるのがわかるでしょうか。
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原形をとどめていないほどに大破してしまっているのを見るのは心が痛みます。ここに掲載するのも心苦しいほどですが、被害を皆様に知っていただくために掲載させていただきます。
そのような状況でも尚、中庄農園さまのハウスはすべて、ほぼ無傷の状態で大雪を凌ぎました。よく拝見いたしますと、鉄骨が所々に入っているのですね。
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「ハウスは壊れなくても、ハウスの中のものは凍傷にかかちゃってね。雪が降った後は放射冷却で柳に樹氷ができたほど冷えたよ。
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露地のユーカリや花木類は雪の重みに耐えられなくて、ぐにゃっとひしゃげちゃったからね、すべてそれは引っこ抜いて定植し直しだよ。」

↓雪の重みで幹がひしゃげた露地のユーカリ。
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中庄農園さまのところでも雪害は大きい。ハウスが壊れなかったのは不幸中の幸い。
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まだこれから春に芽が出てくるはずものがどうなるか、これからになってみないとわからない品目もあるのです。

おまけにこの大雪は10月の台風21号でもたくさんのユーカリがなぎ倒された後のこと。
↓ユーカリの並びの間隔が空いているところが、なぎユーカリを引き抜いた跡。実生からせっかく育てたユーカリの大木も、台風でこのように処分を余儀なくされました。
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今年は災害に悩まされた年でした。


☆圃場拝見
600種をどのように作っていらっしゃるのか、まずはハウスから拝見したいと思います。
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現在は、バイモユリやユーカリ、クリスマスローズ、サンゴミズキ、ピンクシャンデリアなどが出荷されています。
特徴的なのはずらりと並んだこのバケツ。

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ラベルを見ると浅葱とか牡丹とか書いてありますが、その植物が植わっている様子もありません・・・σ(゚・゚*)

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そもそも浅葱(あさつき)の出荷とかなかったような。
う~ん、何でしょうか。このラベルに意味はあるのでしょうか。

「印刷会社が使っているインクのバケツだよ」

イ、 インクの??
あ、ほんと。水性インクだから水で洗えばきれいになりますが、時折インクらしきものを見てとることができます。
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そうか、浅葱って色で「あさぎ」と読むのか。花の名前のように読んだラベルはインクの色を示すものだったのですね。
底にきちんとこのように穴を空けて栽培用に使っているのです。これらの穴も佐藤さんが一つ一つ丁寧に手作業で開けていらっしゃいます。
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でもなぜゆえにインクのバケツを?

「メリットはたくさんある。
なにより管理がしやすい。万が一、病気が入ったとしても、そのバケツだけを処分すればいい。
直植えでは病気が入ると圃場全体に蔓延してしまうリスクがあるけど、バケツなら部分で対処できる。
生長過程に合わせて移動もしやすい。
これらの利便性を兼ね備えている上に、何よりバケツが安価で済む。段ボールなどを印刷してもらう取引先から譲ってもらうんだ」

ハウスの中ではバケツ栽培が基本。
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そのほかにビニールシートがかかっているのがありますが、これは何でしょうか。
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↑佐藤さんの写真2.5枚目。お顔が映っていないので、特別に使わせてもらいましょう。

「ハウスは無加温だからね。このように、ハウスの中にハウスを作って発根や生長を促進する。
また、挿し木で苗木を作っている場合もある」

ウン探ではこれを“ハウスin ハウス”と呼ぶことにいたしました。
ハウスinハウスは温度も湿度も一段高く保たれますから、ハウスの中よりも成長、開花は促進されます。

中を拝見すると・・・
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こちらにはギョリュウと穂先ナナカマドが。
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発根して苗ができたら露地に定植します。
露地、ハウス、ハウスinハウスの3段階の環境を使い分け、周年栽培、あるいは少しでも長い期間の出荷を実現しているのです。

露地栽培はこちら。
柳をはじめとした花木や球根類を育てています。 露地品目は今はシーズンオフなので、畑を拝見した限りでは何の植物かわかりにくいものもありますが・・・
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↓ノバラはよく見ると実が残っていました。
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取材時には市場で見るような植物の姿はありませんでしたが、春から秋にはここから多くの花きが市場出荷されるのです。


★お客様へメッセージ

佐藤さんから注文してくださるみなさまにメッセージです。
佐藤さんの3枚目にして無償利用可能な最後の写真↓
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「少量多品種栽培だし、今年は災害も多かったから、迷惑をかけてしまうことがあったらごめんなさい。

また、今年は航空運賃の高騰など諸事情により、陸送に切り替えた。販売日に対して出荷のタイミングが早まったので、注文はこれまでより早くいただけると嬉しいです」

例えば月曜日販売分の注文は金曜日までに、
水曜日販売分の注文は月曜日の午前中までに、
金曜日販売分の注文は水曜日の午前中までに、お願いしたいと思いますm(_ _)m


★中庄農園さまの格言!

●物事の本質を知ろうとすべし!
 一部ではなく、根本から知ろうとする学びに意義がある。

●土地の性質を知り植物を見極め、無加温で露地・ハウス・ハウスinハウスを使い分けて周年出荷を実現すべし!

●栽培品目は、販売する人の先にいる使う人の声を聴くべし!

中庄農園様からは、1年を通して他産地にはないユニークなものが出荷されていますので、是非ご注目くださいませ♪illust1772

中庄農園様の旬な情報はこちらからご覧いただけます(facebook)。

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写真・文責:ikuko naito@大田花き花の生活研究所