社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

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2021年05月10日

K字回復での決断


 「母の日」当日、店頭でよく売れたための疲れ休みか、本日の仲卸通りとセリ場は、例年通り普段の月曜日の10~15%減くらいの人出であった。  

 今年の「母の日」は、量販店でも一部外食チェーンやアパレル店等でも生花が取り扱われた。しかし、ギフトとなると、やはり技術のある専門店だ。緊急事態宣言により、商業施設に入店している生花店が商業施設ごとお休みなり、大変だった生花店もあるだろうが、その分ネット販売で活躍し、ネット専門の生花店と同様、大変活況であった。例えば、(一社)JFTDさんの関係会社で受注を受け、近隣の生花店に受注を分配するシステムは本当に素晴らしいし、また、日比谷花壇さんも多くの生花店が加盟するネット関係会社を持っている。やはりネットはこれからギフトの主流になるし、特に信頼の置けるお店のギフトは、「母の日」では今後とも人気であるだろう。

 「母の日」ギフトの需要は、特に花の場合、今後、5年は大盛況が続くと見ている。何故なら、人口ボリュームゾーンである団塊世代、団塊ジュニア、そして、その子どもたち、主としてこの三世代の人たちが「母の日」で花をお母さんへ贈る構造があるからだ。団塊ジュニアから団塊世代のお母さんへ、そして、団塊ジュニアの子どもであるZ世代以下の若い人たちが、お小遣いで、無ければお父さんと一緒に生花店へ行き、お母さんへ感謝のメッセージを添えたカーネーションを購入する。従って、12月の年末や3月のお彼岸の頃よりも「母の日」の方が忙しい生花店もある。今後も花き業界は、お母さんに「素晴らしい花だった」と言ってもらえる間違いのない商品を届け続けなければならない。  

 さて、このような現況の中で、花き業界全ての会社の業績が良いかというと、決してそうではない。コロナ禍で「K字回復」が言われるようになった通り、2019年並みに復活したV字回復のところと、そのまま下がりっぱなしのL字回復のところと、明暗が別れているのだ。フロー経済では、政府による国民への給付金や、売上減になった個人や会社への支援が行われ、失業者は出たものの倒産は増えず、その支援が一定水準まで行き届いてきた。今回のコロナ第四波でも、フロー面は政府が面倒を見てくれている。しかし、問題はストック面である。会社の売上が落ちて資本金を取り崩したところや、昨年、無利子の借入を行った企業も多かった。また、コロナ禍の間に、花き業界であれば鮮度保持のための投資、DX投資、働き方改革、物流改革をしなければならなかったところ、出来ない企業が多くあった。そして、コロナ禍においても、生活者に必要不可欠な花を生産し、購入して使ってもらうことが必要だ。エンジョイホームで家に花を飾るようになり、間近に花を見ることが多くなったため、輪の大きい花が、今までよりも珍重されなくなった。むしろ、家のサイズに合った小ぶりの花の方が人気だ。また、家にいて元気になるような明るい色の花も人気だ。反対に、残念ながら仏花類の需要は減った。この需要の変化から、花き生産の品目や品種の入れ替え、増産や削減を行わなければならない。これらの投資や取組みの変更を、花き業界全般、ホテルや結婚式場から始まって、そこに納品する生花店、運送会社、建物が30年以上経った卸売市場や仲卸、産地において行わなければならないし、着手しなければならなかった。  

 今回のコロナ第四波や、最大の需要期である「母の日」でも、K字回復の分かれ道を示唆していた。コロナ禍でみんなが2019年並みに戻ることはあり得ない。いよいよM&Aや新規参入、撤退、そして業界再編等が進むだろう。先延ばしはしない方が良い。花き業界は上半期の中で決断し、実行していかなければならない。


投稿者 磯村信夫 16:01