社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

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2017年10月30日

EUとのEPA大枠合意


 今年の10月は花のベントも多数計画されていたが、台風で残念な週末が続いた。例えば先週、池袋サンシャインシティではバラ切花営利栽培百周年記念イベントが開催された。会場は屋内なので、雨でも人手はそれなりにあったが、雨風の中持ち帰ることを考えると、鉢も切花も中々売れない。そんな勿体なさが残ったのが、今年の10月であった。

 来月は「11月6日(いいマムの日)」があり、様々な菊の祭典がある。外人観光客と同じ感覚なのだろう、35歳以下の若い人達の「和風なものがカッコイイ」とする新しい和風ブームが、いいマムの日を中心に展開されれば良いと思っている。このディスカバー・ジャパンならぬ新しい和風ブームと、シャンペトルの自然調な花のあしらいは、現代日本の生活の中に、“日本の美しさ”を提案していっている。“和の美しさ”というのは、縄文の血を騒がす岡本太郎のような美意識もあるが、裏地や素材にこだわった美しさでもある。陰徳を積んだ、内から出る爆発した美しさ、粋な美しさであって、それを花やファッションに求めるものである。別の見方では、グローカルな価値を追求していったものである。これも、世の中が変化し確実に良くなっていこうとする証なのであろう。

 さて、卸売市場法についての議論が盛んになっているが、現在、検討中なので、議論が煮詰まった12月にお話しするとしよう。今回は、EUとのEPA※大枠合意について申し上げたい。

 現在、日本はEU各国に花を輸出している。花きの関税率は現在8%、ないし、10%。植木や盆栽類は、昨年実績で6億6千万、切花が1千7百万円で、合計6億8千万円である。関税が撤廃されるので、切花の輸出も伸ばせるかもしれない。有望なのは、“特殊な切花”と、そして、切枝だろう。“特殊な切花”とは、例えば、日本にしかないミヤコワスレだったり、山のものを地元で品種改良した大分県の宿根アスター等だ。大品目になっているリンドウもそうだろう。山野草なら、センブリ等、品種改良したものまで含め沢山ある。

 海外原産であり、海外でも育種されるもので、切花として輸出競争力のあるものは稀だ。例えば、ラナンキュラス。昔から品種改良はイタリアが有名だ。そして現在では、イタリアに加え、アメリカとアフリカ勢の品種改良力は中々のものだ。もちろん、日本の宮崎県のラナンキュラスも、欧州は違った角度で選抜されており人気である。しかしながら、「ラナンキュラスは日本」という訳にはいかない。一方、トルコギキョウは、原産地は北アメリカだが、日本で品種改良が盛んに行われてきたので、日本の品種と言って良いくらい、他国にはマネが出来ない。生産技術もそうで、一般的な品種なら、日本の種苗会社が他国に売って、生産指導すれば、そこそこのものが出来る。「そこそこ」とは、下代でバラの価格位だ。それ以上の高価なものは、きっと階級社会のカソリックやイスラムの国々、あるいは、世界には相続税の無い国が圧倒的に多いから、そういった国のお金持ち向けなら可能だろう。EUにおいて、直接オランダに送るとなると、オランダは花の国際価格を決める、ニューヨークの証券取引所のような役割をしているから、ビジネスとして流通させる経済行為の範囲内での価格となる。そうすると、日本円の感覚で下代が300円以上のものというのは、本当に特別なものだけになる。これを念頭に、命に限りがある切花を、国別にマーケティングをしっかり行い、買ってくれる卸か仲卸を捕まえなければならない。

 盆栽や植木は違った観点で、高級品需要と、日本が得意な種類の木々、花付花木、実付花木等を輸出することが出来るだろう。ただ、甘く見てはならない。オランダ、ベルギー、ドイツ、デンマークのヨーロッパにおける園芸流通業界の力は、中小が殆どの日本の園芸業界とは訳が違う。世界を睨み合わせてやっているので、懐が広く、大きいだけでなく、厳しさもひとしおだ。そこを覚悟し、EUに向けて、輸出して稼ぐことを、花の分野でも行っていかなければならないのだ。

※EPA:経済連携協定(Economic Partnership Agreement)


投稿者 磯村信夫 : 17:15