社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

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2021年03月22日

2030年の理想の一姿


 個人需要が盛んになってきている昨今、黄色や、オレンジ色等の花が人気になっているように思う。データを取っていないので明確な数値でお伝えは出来ないが、この桜の時期になっても、黄色やオレンジ色を多く取り入れ、アクセントとして反対色のブルーを使う。そういった色使いのアレンジやブーケが大変多い。卒業式や年度末の送別用で花束需要が盛んだが、そこでも、国産・台湾産のオンシジュームが多用されている。コロナ禍で沈んだ気持ちになってはいけない。明るく元気になるような黄色やオレンジが多いのは、大変良いように思う。  

 コロナ禍で、堅い本と漫画がよく売れているのが目に付く。例えば、昨日私が読んだ『晩年のカント(中島義道著/(株)講談社/2021年1月)』という本もそうだ(※純粋理性批判に代表される「啓蒙主義の理性」について、再び考える大変良いチャンスがコロナ禍で巡ってきたと思い、読書に多くの時間を費やしている)。カントからは多くのことを学んでいる。カントは自分自身がコンティニュイティ(持続性)であることを自覚し、毎日同じ時間に何をし続けるか計画を立て、意思でそれらを行う。また、ゴールを逆算してやるべきことを埋めていく。理性はまさに啓蒙主義で、数式で解ける科学と同様、普遍的なものだ。決して恣意的なもの、あるいは、個人による偏りがない。しかし、日頃生活している中においては、「智に働けば角が立つ」で、情に合わせて行動することがある。しかし、情だけに走ってしまうと、どうしても忖度したり、個人的な繋がりを優先したり、自分自身を保身したりすることに繋がる。このバランスが、生きる上で大切だと教えてくれている。

 中間流通である卸売市場のバランスはどうだろう。相場を生み出さなければならないから「理」が必要だ。そして、公共インフラとしての「無私」も必要だ。市場でのDX化は、生産状況、出荷量や内容、仲卸や一般買参が購入する量、一般買参の店頭での売れ具合をデータ化し、AIを使って相場を決めていく。これらをプログラミングする際、どこまで正確かを精査し、産地の天候、消費地の天候を加味してアルゴリズムを作る必要がある。

 この仕組みを、可能であれば2030年までに創り上げたい。途中の25年には、産地も花市場も、市場外流通業者も、小売店も数の調整が進み、今より限られたものになっているだろう。そこでPCネットワークをサプライチェーンごとに結び、データを取っていく。小売店で売られている花の値札の横にあるQRコードで、誰が生産したか、どのような流通経路で小売店まで来たかが分かるようにする。また、販売データを(秘密保持の観点からデータの利用が許されていれば)産地や市場でも共有する。このような流通を目指す。また、流通現場も同様に、トラックやパレット、台車に、何がどのような順番で積まれており、それが、トラックのどこにあるか。RFID※を使い処理していく。指定の卸売会社が次の作業でやりやすいような順になった積み込み配置にする。小売店で仕分けしやすいような順で降りてくるようにする。その結果、消費者に物流コスト負担をしてもらわなくて良いようにする。こういった合理化が効いた市場流通サプライチェーンを作っていく、また、卸売市場が関与した市場外流通を作っていくことが必要である。そうしなければ、日本で農業を行うリスクが高過ぎるし、農業がやりがい・生きがいのある仕事と言えなくなる可能性がある。小売店も同様だ。売るに天候、作るに天候の難しさがあるので、ロスが出やすい。情報によって無駄を無くしつつ、もし、売れないものが出た時にも、無駄にならないように、福祉関係の団体に食べ物と一緒に花を渡す等、そういった流れを作る必要がある。その結果、理想的な流通と、それぞれの生鮮食料品花きに関わる仕事を、より社会的価値の高いものにしていける筈だ。科学と理性、そしてデータ、しかし、生産性が低いからといって、決して、切ることをしない業界。これを、2030年に向けて作っていくイメージを、皆様と共有したい。


 ※RFID:Radio Frequency Identification
    ICタグを使い、電波等を用いた通信によってモノを識別・管理するシステム


投稿者 磯村信夫 18:50