社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

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2019年10月14日

都道府県で、卸売市場条例が固まる前に一言


 東日本を直撃し、猛威を振るった台風19号でお亡くなりになった方、また被害に遭われた方に謹んでお悔やみとお見舞い申し上げます。まだ、危険な状態が続いている地域もありますが、今日から花の被害や今後の対策等について、それぞれの農協部会や個人の生産者の方々と、話し合っていくつもりです。

 さて、先週は豊洲市場開場一年で、マスコミでも豊洲市場としての1年間の成果について、ニュース記事であったり、朝のラジオ番組やらで、東京聖栄大学の藤島先生がコメントするなどの番組が組まれていた。藤島先生は卸売市場の社会における役割・必要性を強く訴えており、開設者東京都に、もっと都民に豊洲市場の東京都の台所の役割、豊洲市場だけでない花でいえば都内に5つある中央卸売市場花き部と多摩地区の3つの地方卸売市場などの社会的意義を訴えてほしいと言っていたのが印象的だったし、ありがたかった。
 
 まず、国が市場法を改正し、施行する為に各地方自治体では条例や施行規則などを作り、来年6月の新市場法の下、卸売市場が運営されるわけだが、スケジュール的には今、地方自治体の条例などの詰めが行われている真っ最中である。市場関係者は、何やらまるっきり自由になるし、何か今までと様変わりし、競争が激化し、淘汰が進むことを恐れている。そして、一般の市民は、卸売市場について築地から豊洲の移転で話題になったものの卸売市場は昔からあるので、あって当然で卸売市場と卸売市場法についての関心はないようだ。むしろ、今の世の中、中間流通排除。排除すれば安くなると思っている人もいて、卸売市場無用論の考えの人もいる。そこで今日は、各県の条例などが固まる前に、卸売市場の必要性と卸売市場が活躍するフィールドが今までよりも広いものになって、ごく一部の規制しかなくなった点についてお話をし、卸売市場と取引するあるいは現在市場外で取引する業者の方々の理解を深めるとともに、各県の条例で間違った方向に進まぬように注意喚起をしたい。

  まず、中間流通についてだが、商社無用論や卸売市場無用論など、中間流通が世の中で不要なもので、卸がいるから高くなっているのかということについて、二つの点から否定をしたい。中間流通業者がいるから経済合理性があって安くなる。この事実を、経済理論で確認をしたい。1937年のロナルド・コースが「企業の本質」(※1)の中で述べている点である。ほとんどの人が、フリーランス・独立したかたちで仕事をしていない。会社に入って仕事をする。街でも、家族だけの小さな店舗から、会社に入ってチェーン店のひとつで働く。こういうふうになっているのは何故か。商社や市場が現在でも活躍しているのは何故か。それは、ロナルド・コースは①検索費用、②交渉費用、③契約費用、④監視費用の4つの費用を挙げ、会社に入ったり、特に中間流通があることによって、この4つの費用のトータルを安く、負担が軽減できると述べている。そしてもう1つ、1948年「マーガレット・ホール」の法則(※2)。中間流通の卸があることによる①取引数量最小化の原理と②不確実性プールの原理である。直接取引をする手間とコスト高を経済学は教えてくれている。

  そして、生鮮食料品は腐るもの故、現在、鮮度コントロールがかなり出来るようになった。しかし、魚や園芸産品は、その土地、その時期によって、プロの目から見たら品質は異なる。それを評価するためには、プロ集団で構成される生鮮食料品花きのプラットホームである卸売市場がどうしても必要だ。日本の卸売市場は、広く産地に対して窓を開けている部門の卸があり、卸から品物を仕入れて、各カテゴリーごとに特化して品物を卸す仲卸がいる。海外のように、仲卸だけだとすると小さすぎるので、量販店はそこに仕入れを任せることができない。何故か。扱う種類や量がその仲卸が集まっただけの卸売市場では調達できないからだ。日本のように卸がいれば、大きな規模の量販店も、一軒の仲卸を調達元にするだけで、その仲卸は卸売市場を通じて広く日本中の産地と取引きすることができる。だから日本では、大手も街の小売店でも、卸売市場で品物を調達することができる。世界の中で大手量販店の生鮮食料品花きの寡占率が低く小売段階において競争が激しいのは、また小売の分野で中小が大手に伍して戦うことが出来ているのは、日本に卸売市場があるからである。  
 
 そして次に、新市場法の構造だが、今まで農林水産省という一つの省庁で農漁村社会のインフラまで作ることが出来ていた。例えば、農道やら、ため池からはじまってダムに近いものやら、農村の生活を守るということで、農協ひとつ取ってみても、ひとつの省庁の中で、農山魚村の生活から色々な分野の仕事まで規定することが多かった。それを今度は、卸売市場は生鮮食料品花きのプラットホームとしてビジネスをしているわけだから、今まで市場法で規制してきた色々なものを取っ払って、基本的にはビジネス、売り買いを規定する商法がまずベースになる。「信用」これが商売をする上での財産となる。そして、人にとってなくてはならないもので、生もので腐りやすいものなので、卸売市場法の規定をはめている。このように構造が変わる。かつての市場法で自己完結する形から、商法をベースにした信用商売。会社の一番の財産であり、裏切らないようにしていけば、手法やフィールドは広がる。ただし、生鮮食料品花きは、特有のものであるので、そこでのプラットホームビジネスとして最小限のところだけを市場法で規制した。ということである。さらに、各地方自治体でしたいのであれば、独自で規制してもよい。もちろん、今までどおりの規制をしてもよいとしている。個人的には、現在の市場法で商物分離が出来なかったため、大田花きは九州大田花きという会社を作った。それは、大田市場での買参権を東京都が審査し小売店に付与するのだが、九州の大手小売店に東京都は買参権を付与した。地元九州の荷物を大田花きは上場している。地元のものだから、その荷を使いたい。そうすると、九州の産地は東京に運賃をかけて運び、その買参人はまた大田市場から九州福岡に運賃をかけて持ってこなければいけない。これは無駄だ。商物分離が出来ないので、大田花きの信用をバックに九州大田花きが九州の荷を直接受けて、九州の大手買参人に渡す。運賃は安くなるし、鮮度は良くなるし、商物分離をするとそんなに良いことがある。これが九州大田花きを作った目的のうちの一つで、きっかけであった市場外流通だ。
 
 このように、地方自治体でどのように規定するかは変わってくるが、市場業者は法律があるので、市場外でやらざるを得なかった事業を経済合理性から当たり前に市場業者ができるようにする。このように国は考え、地方自治体に独自の規定を作ることを委ねた。東京は、農林水産省と同じ考えのもとの規制になりそうである。そして豊洲の話にもどるが、市場の中の市場は、豊洲市場である。そこの卸、仲卸が、市場外流通の出荷者と買い手のサプライチェーンこれを取り込んでいけるように、規制をはずして欲しい。 プロを自認する我々は、消費者が支払う代金に見合った満足を与えることができる。だから、我々が考えられる無駄を排除し、いくつかのパターンの卸売市場流通で品物を流通させる。そのことが、出荷者と消費者にわたす様々な形態の小売店が消費者に支持され繁盛することになる。 今、卸売市場は合併し力をつけることは必要だ。しかし、新時代の日本に食生活・食文化、花のある生活・花き文化を届けるのは卸売市場であり、そこが活躍できる領域と可能性を追求できるようにしていくことが法律や条令を作っていく国や地方自治体の役割だと思っている。
 

pres20191014  
 


投稿者 磯村信夫 17:34