社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

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2020年06月15日

花の文化産業復活の道しるべ


 「日曜日に、政治は作られる」と言われるが、この週末も、コロナ禍で困っている人たちに対する救済や、地域活性化のための「Go Toキャンペーン」等、どのように国は補助を行い、我々も経済活動再稼働に向けて、どう心構えを以って取組むべきか、一定の指針が示された。
 
 花の場合、首都圏では目黒のホテル雅叙園東京等が早くからブライダルフェアを再開し、withコロナにおける結婚式や披露宴の規模、金額等の提案を初めて示した。冠婚葬祭が縮小気味なのは、新型コロナワクチンが出来るまでは、当面仕方がない。これを来年の秋までとみると、花き業界全体でどうにかペイさせていかなければならない。まず、冠婚葬祭需要が減少した分、個人需要を地域密着型の店舗、専門店、スーパーマーケットの売り場等で伸ばすことだろう。業界が推進している「ENJOY HOME with FLOWERS」で、ホームセンターも人気のお買い場となっている。鉢物や苗物が多いイメージのホームセンターでも、切花も強調して販売していただきたい。そして、ネット販売や宅配を強化することも必要だ。例えば、花の取組みが殆ど無い生協の宅配等でも、既に家庭への配送ルートが出来あがっているので、取り扱ってもらう余地は十分にあるだろう。
 
 個人需要を伸ばす一方で、結婚式の披露宴、ホテルや高級レストランなどの生け込み、お葬式での花づかいの需要をどのように復活させていくかも、検討が必要だ。たとえ一輪挿しでも良いから、ちょっとしたレストランに、居心地よく変わる花を置いてもらう。別業態と連携して花の販促を行う等、今までとは違う取組みが花き業界で期待される。
 
 コロナ禍においては、資金力と経営力が必要だ。資金力は、それぞれの状況があるだろうが、経営力についてはどうだろうか。花き業界の場合、前提として殆どが中小、零細企業だ。その中でも取扱い金額や利益に差はあるが、仕事のやり方に大きな差はないのではないかと思う。あるのは、需要ごとの棲み分けだ。例えば、大田花きの前進である大森園芸の時代から、私と深い関わりを持っている㈱神奈川県園芸市場では、年間3億円強の取扱いがある。地元の生活者に密着し、主として店売りでのホームユース向けの生花店と取引がある。この分野に特化し、㈱神奈川県園芸市場よりも大きな規模の県内外の卸売会社や、あるいは、他市場の有力仲卸との競合にも、棲み分けして安定した花きの供給と収支が成り立っている。地元の生花店と協力してサプライチェーン全体をマネッジし、地元の生活者の負託に応えているのだ。大企業と中小零細企業では、資本力や社員数にはじまり、利益や立地条件も違う。最も違うのは、活躍の土俵が違う点だろう。だが、これらが違うだけで、経営力に差はないのだ。㈱神奈川県園芸市場は、きちんと社会的な役割を果たして、その地域でサプライチェーンを明確にして生活者からお金をもらい、最終的に生産者へお金をパスしている。従って、コロナ禍においても、売上を大きく落としていない。昨年、実績を落としたのは、古くからの大切な供給先である千葉県の生産者が、台風15号で出荷出来なくなったためだ。しかし、生花店には必要な花をきちんと供給出来ているので、利益は落としたが前年と遜色ないところまで来ている。このように、小さくても良い会社は日本に多い。  

 繰り返しになるが、花き業界全体では、殆どが小企業、零細企業だ。大企業であれば、自分で作って自分で売ることが出来る。いわゆる“SPA”だ。しかし、小さい企業の多い花き業界では、作る人、運ぶ人、卸で販売する人、小売で販売する人、このように多数の会社がサプライチェーンでチームを組みながら、生活者に花を届けている実態がある。それぞれ大変なところを助け合いながら、各自が利益の出るようなしくみを構築するのが「経営力」というものだろう。  

 まずは2021年2月のフラワーバレンタインの頃まで、花の事業者はここまで我慢し、知恵を出し合ってトライアンドエラーで試行錯誤する時期だ。新型コロナ禍が始まった2020年バレンタインデーの時期から1年が経つので、2021年3月末の決算で赤字だったとしても、今後良い方向性の見通しを立てる期間だ。そしてその後、東京オリンピック・パラリンピックがある。選手はもちろん、観客もどこまで海外から来てくれるだろうか。まだ、目途が立っていない。今年の3、4月のようなことが無いよう気を付けながらも、何とかオリパラを迎えたい。そして2021年9月、現在の需要減の中でも収支を合わせようする努力が実を結ぶのが、このオリパラが終わった時期だ。さらに、人口減・高齢化社会だが、「人生100年」時代だ。元気に進もう。子供たちは社会で育てよう。そういった前向きな状態と、売れ筋やお金の使い方が変わったが、「コロナ禍の前に戻ったな」と実感出来る経済状態になるのは、2024年だという人が多い。しかし、大田花きの取締役会は2025年になるだろうと、今年の2月位から警鐘を鳴らしている。まだまだ長期戦になりそうだ。その間に我々は、すっかり仕事のやり方を時代に合わせたものに変化させているだろう。  

投稿者 磯村信夫 16:26