社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

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2022年05月23日

花の上手な値上げ方法


 本年4月の賃金アップは、定期昇給や昇格による賃金アップまで含めて、2%以上、3%弱だったそうだ。生産人口の約半分の日本人が昇給アリ、半分が昇給ナシだったそうだから、上がった人は5~6%上がった計算になる。そして、物価はと言えば、アメリカの消費者物価指数が8%強、イギリスは7%、EU全体でも7.5%上昇等に比べて、日本は3月時点で0.6%の上昇だった。0.6%というこの数字も、注意深く見ないといけない。この内1.5%の物価下落が、菅総理時代の携帯料金の値下げ実行によるものだから、実際は約2%以上のインフレになるのだ。その後も複合的なインフレが続き、最後のダメ押しがロシアのウクライナ侵攻だ。石油、小麦、そして、農業関係で忘れてはならない、ロシアが世界最大輸出国となる肥料、これらの値上げ、供給不足によるインフレが起きている。為替の問題だけでなく、複合的なインフレ圧力が高まっている今日、消費者の懐具合を考えると、今後とも日本が賃金アップを定期的に図れれば良いインフレとなるが、日銀が発表している通り、今は悪いインフレの段階だ。花き業界では、卸売価格は需給バランスから値段が上がっているが、生産者手取りからすると、2割上がってようやく前年並みとなる。これでは、まだ増産や新規生産のモチベーションが働く訳ではない。花や緑を生産するのは、一般的に青果や果物よりリスクが高い。規格外のものがお金になりにくいからだ。野菜ならカット野菜や規格外のものとして販売することが出来る。曲がったキュウリもカット野菜、カットフルーツも同じように美味しい。

 花き生産者の手取りをせめて減らさないようにするには、小売価格も上がるようにしていかなければならない。ユニクロの花売り場のように、「ここがチャンス」と見て小売価格を値上げせず、シェアを取りながらスケールメリットを出して花売り場を定着化させようとしているところもある。一般的に、良いものでも値段を上げると割高に映る。花好きの人は逃げるとは言わないが、同じ店でも注意深く花や緑を選んでいる。では、どのように小売価格を上げていけば良いだろうか。一つの策として、トレンドを捉えることだ。例えば、今のトレンドである昭和時代の花をリミックスしたもの。リミックスについては、以前もコラムで紹介したと思うが、リミックスして付加価値をつけて小売価格に転嫁する。また、新品種であることを説明したり、花もちを保証することで価値を高め価格を上げる。そして、これも何度もお伝えしているが、どこでどんな生産者がどんな苦労をかけて作っているかを説明することで、価格競争に陥らないようにする。こういった工夫で、小売価格を上げることが必要だ。今回の「母の日」のカーネーション鉢の販売でも、生産者情報をしっかり説明しながら購入してもらった産地は、「母の日」直前の市場の安値相場にも影響されず、適正価格で販売することが出来たと。これをあらゆる品目で行い、小売価格を適正に上げていくことが必要だ。

 もう一つ、花屋さんにお願いしたいのだが、価格ではなく、まずその花や緑を前面に出す売り方をして欲しい。日本の花屋さんは、接客する際、すぐ「予算はいくらですか?」と聞く。予算は後からでいい。まず、どんな目的で誰に贈りたいのかを伺う。そして、お客さんの好みを聞きながらボリュームが出るように、長持ちする花も足しながらアレンジを作る。これが、世界でたった一つの、ご希望にお答えした花束やアレンジを作る花屋さんの仕事だ。ヨーロッパやアメリカで花束をオーダーした時と、日本の花屋さんの違いはそこだ。洋服を買うときに、まず素敵かどうかで手に取り、タグを後で見て「これだったら買える」、「買えない」と判断するだろう。この方が、客単価も上がる。日本のお花屋さんは親切だが商売っ気がない。これが結局、生産者の手取り減にも繋がってしまうことを理解して欲しい。

 これまで、花や緑の生産が減少してきたのは、リスクの割に生産者手取りが少ないからだ。今回インフレは複合的なもので、今後とも続く。花や緑の上代価格だけが横ばいだと、生産減・供給減になってしまう。これを意識して、小売価格の調整をお願いしたい。



投稿者 磯村信夫 16:34