社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

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2017年07月03日

花のある素敵な生活をしたいと思っているのに、素敵な花を供給出来ないでいるのではないか


 7月、東京・神奈川はお盆の所が多い。全国的な菊の安値も手伝ってか、東京・神奈川に菊や小菊が集中して出荷されている。

 お釈迦様による「慈悲の心を持ちなさい」との教えから、仏教国では月二回、花を飾る。特に日本では、奈良時代より高貴な花として菊があったし、「仏様、ご先祖様の声を聞く(=キク)」の語呂合わせから、菊を仏様の花として飾り、いけばなの立花で菊を使用してきた。従って、いつのまにか仏事関連の菊が切花生産額の3割を占めるようになったのだ。しかし、フォークソングやビートルズの世代の団塊世代は、ジーンズとTシャツの世代であり、どうしても菊を飾りたいとは考えない人が多く、この世代の人たちより若い「バブル世代」が、葬儀の花や仏花の需要層となった現在、日本中で菊の相場が低迷している。安くすれば量が多く売れる成長品目ではなく、一定量を超えたら「安くても要らない」、価格弾力性が硬直化している花の代表が、白の一輪菊なのである。

 従来型の菊がこういう構造になっているので、菊がメインの地方市場や都市部でも、中小規模の卸売市場で廃業する所が出てきている。関東の一都六県でも、今年に入り三つの卸売市場が廃業している。これは、生産者や小売店と同様、後継者がいない、また、収益の見通しが立たない、そういった理由での廃業だ。

 花の需要はどうだろうか。35歳以上の団塊ジュニアを中心とした人たちは花や緑を買っている。都市部のチェーン店では、既存店でもホームユースで前年の売上を超えている。雑貨店や家具店に行けば、観葉植物やミニ盆栽が売られている。また、複合ビルや、少し街中に出ただけでも緑がお金をかけてデザインされたものだと分かる。需要はあるのに卸売市場の廃業が出てきているのは、既存のサプライチェーンで流通している商品と、消費者の求める物のミスマッチが起こっているからではないか。eコマースを含め、チャネルごとにもっと的確に消費者に花や緑をお届け出来ないものだろうか。そうでないと、生活者に花や緑をもっと沢山供給することが出来ないのではと思われる。

 農林水産省の「第6次産業化総合調査」によると、直売所において、花きの金額シェアは、取扱品目全体の7.7%を占める。また、花き単体で見ても、前年比105%の売上金額の増加となっている。(一社)日本花き卸売市場協会の会合では、地方市場は物日になると、「ライバルは直売所だ。小売店は本当に困っている」と言う。しかし、農家の庭先で売るのと違い、直売所は卸売市場やeコマースの商店と同様、一つのプラットフォームだ。従って、小売店で直売所の物を売れたら売り上げが発生するようなしくみを市場が取り持ったり、市場そのものが直売所を設けても良いのではないだろうか。直売所の手数料は15%だから、普通の花市場の手数料よりも5%高い。産地は、直売所に出荷する人と農協に出荷する人に分かれているようだが、消費者から見て楽しく便利なサプライチェーンをどうつくるか、業界全体のパイを広げることを目的に、自社を通るか通らないとかは関係なく考えるべきである。

 切花では菊が安くなって、余った荷を別の市場へ委託出荷している市場や、“投げ師”や“転送屋”と言われる仲卸もいる。足元では菊類を中心にした転送は、既にリスクが大きすぎて効かないと考えた方が良い。消費者に買って貰えないものは安値となり生産が減り、買って貰える花は増える。この構造を早く作らなければならない。現在、起こっていることは、消費者から買って貰えないから、仏様の花を中心に余り、それが全体の相場を崩している。早く、本来の消費者に買って貰えるものに合わせた、TPOに合わせたサプライチェーンを、売上げが例え減っても収支を合わせながら、業界再編、取り扱い品目再編をしていくことが必要だ。

 

投稿者 磯村信夫 : 16:39