社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

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2021年02月15日

花き業界の新しい形になりつつある


 先週の12日(金)、当社は2020年度第3四半期決算と業績予想修正の見通しを開示した。昨年5月に予想したよりも、売上・利益とも上振れである。ステイホームでの個人需要が予想以上に活発化したことが、大きく影響した。  

 大田花きのように、都心部に最も近い大きな卸売市場では、業務需要の取り扱いが多く、業務需要に根差した高級品が全体の相場を引っ張り、その結果、個人需要も相対的に品質は高くなり、品揃えも豊富になるというのが特徴だった。しかし、昨年からのコロナ禍により、歳時イベント、冠婚葬祭、そして、謝恩会や各種集会用の花の需要が激減した。その為、活発化している個人需要に合わせてどうやっていくかを、産地、仲卸、地方市場、小売店と連携を取りながら、変えていかざるを得なかった。

 個人需要の消費には、個人の経済的豊かさも影響する。東京のような大都市は、一見、収入では高く見えるが、家賃や駐車場代等も高い。また、所得間格差が出やすい産業が集積している。貧困にあえぐ人から、ダブルインカムで、二人で合わせるとかなり高額になるカップルも増えている。タワーマンションの供給が都内では足りないと言われているくらいだ。何か、ニューヨークの話を聞いているようだ。しかし、これが現実である。こういった中で地域差があるのは、若い人たちがどのくらいその地で働き、住まいしているかであろう。そして、花使いは若い人たちの好みが強く反映されている。例えば、観葉植物が真冬でも必要だったり、2月に入って、初節句で桃かと思えば、枝物であればもうミモザが足りないという。これが地方に伝播するのは今まで通りだ。さらに、都市部でも若い人から上の年代に伝播して、その結果、一輪菊が売れないという傾向を如実に生み出してきている。人生は、これまでの自分が積み重なる“年輪”のようなものだ。幼児期の自分も青春時代の自分も、中年になった自分も全部抱えながら、老年を生きるのだ。ご年配は若い頃に好きだった花も買うし、流行の花も買う。

 (一社)JFTDは、全国各地にネットワークを持つ、日本を代表する花き小売団体だ。今まで冠婚葬祭や物日の需要をメインに頑張っていたフローリストも、地域の生活者へ「普段使いの花」を提案してやっていこうとしている。同様に“ENJOY HOME with FLOWERS”、花き卸売市場も、もちろん、生産者もここに注力しようと決意し、仕事の内容を変えてきた。その結果、個人需要が当初予測したよりも健闘したということであろう。しかしながら、業務需要のウェイトが大きかったフローリストは、なかなか金額的なマイナスを補うことは出来ない。卸売市場もそれに連動して、まだマイナスが続いている。

 しかし、個人需要を拡大させていく努力は、本来の花き産業の目的である、花のある暮らしを通して、生活者に上質な生活を感じてもらうことに繋がっているではないか。今後とも、個人需要にプラスして、冠婚葬祭をはじめ、イベント、業務需要、そして輸出需要がその上に載る。こうして花き産業自体を大きくしていく。この姿に大きく舵を切り、実効性が出つつあるのが、今期の第3四半期からである。第4四半期の今も、個人需要開拓の実効性がかなり出てきて、個人需要を基礎に成り立つ花き産業という形を、全体で作りつつあるように感じる。すなわち、時代に合わせた新しい花き産業の形が、業界全体で見えてきているのである。


投稿者 磯村信夫 16:31