社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

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2022年05月02日

花き業界の「働き甲斐」改革


 4月28日(木)、金子農林水産大臣は恒例の記者会見で、「母の日」、及び「母の月」について言及された。この機会にお花をお渡しいただき、花のある暮らしを体感してもらいたいと、花の消費拡大を大臣自ら発言してくださったのだ。これは大変ありがたいことである。

 日本農業新聞一面の右下に、切り花の単価水準が前年と比べてどうだったのか、単価比較をした表が掲載されているのをご存じだろうか。昨年の7月頃から絶えず前年を上回っており、果物と同様、需要に対して供給が不足していることが分かる。これには人手不足の面が大きい。特に、生産段階での人手不足が目立つ。また、小売でも、個人消費に向けて元気に頑張ってくれている店もあり、新しい生花店も出てきているが、ここでも物日等には人手不足感があるのは否めない。

 このような状況において、花き業界には「働き甲斐改革」が必要だと思う。大田花きでも、「1on1(ワンオンワン)」ミーティングを行ったり、少人数の班で行動したり、働き甲斐を見出してもらいながら仕事をするようにしている。その中で、花き業界では、物日以外の月で、残業時間を45時間以内に、有給休暇を取りやすくすること。売上純利益人件費率60%を超えないようにすること。設備投資が出来るよう、売上高営業利益率を1%は確保出来るようにしていきたいとしている。さて、ここで話題にしたいのは、どうしてもチャレンジしたい花き業界のサプライチェーン上における「働き甲斐改革」の難しさだ。大手企業であれば一気通貫で製造から小売までを担うことで、それぞれの過程で意思疎通を円滑にし、気持ちよく仕事が出来るようにして「働き甲斐改革」を前進させている。一方の花き業界、これは生鮮食料品花き業界と広く捉えても良いが、この業界は中小規模の会社や個人経営の業態が多い為、生産者・系統農協・運送店・卸売市場(卸/仲卸)・小売店、ここまでがチームを組んで生活者に花を買ってもらい、喜んでもらおうとしている。従って、組織が違う人たちでチームを組んでいるため、それぞれの段階での「働き甲斐」には見えづらい部分がある。特に重要なのは生産者、そして、生活者と直に接する小売で、この方たちに「働き甲斐」を感じて仕事をしてもらわないと、最終的には花き業界全体が成長の勢いがなくなり、萎んでしまう。

 花きの輸入品まで含めた生産量が増えて来ないのは、コロナ禍で難しい問題もあろうが、卸売市場が生産者や出荷者(輸入商)に「働き甲斐」を伝え、また、消費者や小売商の声を代弁し、感謝の気持ちを生産者に伝えることが出来ていないからではないかという反省の気持ちを、私は強く持っている。私が昔、(大田花きの前進である)大森園芸時代にセリをしていた時から変わらないことがある。ある小売店がカーネーションの鉢を買う時、いつも買い付けしている決まった産地のものを買う。小売店は、自分が売るカーネーションの鉢は、誰が作ったか分かっているのだ。従って、その小売店に買いに来た生活者は、自分がどこの誰が作ったカーネーションを買うのか、知ることも出来る筈だ。小売商は忙しすぎて説明や紹介ができないのなら、そういった産地情報を生活者が知ることが出来るようにしたい。そして、近い将来には、ポスシステムに近い仕組みで、売れた「真実の瞬間」を生産者にフィードバック出来るようにしたい。さらに、それらが蓄積されたビックデータを生産者と共有して来年の作付に繋げたい。今後、大田花きではその仕組みづくりを検討していきたいと思っている。この仕組みで、ただ単のサプライチェーンではない、いわば「バリューチェーン」を構築したい。特定のサプライチェーンでどこよりもその地域の生活者に、文化的背景に合った花を供給出来るようにし、生活者に喜んでもらう「バリューチェーン」化させるのだ。そして、それをぐるぐる時代と共に回す「バリューサイクル」にしたい。この循環が出来ることで、生産者や小売店の皆様にやりがいや働き甲斐をお金と同様感じてもらえるのではないか。後継者も増えるのではないかと考えるからである。

 我々花き業界の「働き甲斐改革」には、いくつもの困難がある。個人商店で経営しているところ、会社組織の人たちそれぞれでも違うだろう。花き業界で一番肝心な生産・小売の方に「働き甲斐」を持ってもらえるよう、そして、良い働きをしてもらえるよう、卸売市場としてお手伝いしていきたい。少子高齢の日本で一人が占有する生活スペースは増える。だから、花みどりの消費は増やせるのだ。花き業界の活性化は日本農業にとって絶対必要だ。





投稿者 磯村信夫 15:17