社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

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2017年08月28日

良い物の方が高い。その為には目利きが必要


 スマートフォンでセリ前取引をしている人がいる。卸売会社のHPからセリ前情報を見て仕入れている人と、電話で卸売会社の社員と話し、社員がPC上の画面を見ながら要望に応える形で仕入れている人がいる。また、セリにおいても、実際にセリ場で買っている人と、自分の事務所からインターネットでセリに参加している人がいる。そのセリ場でも、大田花きではまだごく一部だが、現物を保冷庫に保管したままにしておき、写真のみで販売する画像ゼリを行っている。このように、リアルとネットを交えながら、セリ前取引もセリ取引も行っている。

 オランダの花市場では、事務所から(在宅で)セリに参加してもらう。そして、そのセリは全て画像ゼリである。この方式に全て変え、セリ室を無くしている。画像ゼリにした場合、荷は定温管理が行き届き、しかも、移動の回数を少なくさせることで商品も傷みにくく、コストもカットできる。しかもセリ場のスペースを必要としない。今後の卸売市場を考えると、定温管理が行き届いた集出荷所と、取引のプラットフォームを別にしても良いかもしれない。ただ、条件としては、花の評価が出来る“目利き”をサステイナブルに揃えることが必要だ。花の場合、魚と同じように外観を見て中身の品質まで見極めなければならない。その為には、現物をよく見て、そして、使ってみてという経験を積み上げていくしかない。そんな人を多く集めることが必要なので、もともと目利きの経験を持った人がいる現物取引からネット取引に移行することは出来ても、ネット取引で目利きを育てるのは大変だ。

 卸売市場ではないが、中古車のネットオークション会社が花き部門を立ち上げている。商物分離でやっているので、写真だけでは動きまでは確認できない。既に評価を得ている成熟した産地を上場しないと、クレームが出る可能性がある。そして花を買う人は、実際の小売店であれば、現物の花を扱っているので目利きになれる。買い手の方は心配いらない目利きだ。しかし、ネットオークションでシステムを操作する人や相対販売をする側は、卸売市場等で経験した人を範とする。そうやって運営しているのだが、ここからはそれ以上目利きが育ちにくい。実際に品質を確かめることが出来ないから、花の評価を出来る“目利き”が育たないのだ。こうなると、アマゾンの実店舗の例ではないが、eコマースのプラットフォーム、もう少し枠を拡大して、商物分離のプラットフォームだけでなく、リアルに現物を扱うプラットフォームを持つことが必要になってくる。

 手段として、インターネットや他の通信機器を使い、コミュニケーションをしている。写真も良いだろう。しかし、リアルに目利き、感性を磨く機会がどうしても必要だ。そしてそれは、あらゆるプラットフォームビジネスの根幹をなすものである。ネットタクシーのプラットフォーム、ネット宿泊所等も、いずれも安心できて約束通り、しかも、心地よい。これらも、経済力、ルール作り、そして、その会社のフィロソフィー等以外にも、運営する側が確かな“目利き”であることが必要なのだ。リアルな目利きがない限り、プラットフォームビジネスは出来ない。成功するために必要な要件があるが、バーチャルに出来るものほど、本物を知って判断する。そうでないと、どうなるか。それは価格競争しかなくなる。それでは、その会社がもたないだろう。

 

投稿者 磯村信夫 : 11:08