社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

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2018年07月30日

業界の幸せは家族の幸せから


 夏になると、私はいつも学術的な課題を一つ勉強し、ライフワークである小林秀雄の研究をしている。今夏の学術的な課題は、京都大学総長の山極寿一氏による「霊長類(類人猿、ヒト)の家族と組織」についてである※。貧富の差がこれだけ激しくなったが、一方にはシェアリングビジネス等が盛んになった現代、「分かち合う」ということについて、「暴力(軍事力)」について、あるいは、そこでの幸せについての考察である。勉強したばかりなので自分の思索が煮詰まっておらず、真実を突き止めたというところまでは達していない。しかし、人の生活と組織の枠組みについて考え、仕事をする上で役に立ち、面白いと感じたことを報告したい。

 人は「家族」を組織体の第一単位とし、家族の構成メンバーが生きていく為にメリットを受ける目的で、より大きな組織体である「会社」等に属している。この二つの集団で生きていくことが基本であることが分った。その会社等の組織体において、安定して組織運営が出来ていく人数は、①小さい組織ならばフットサルやバスケットボールの人数(5~9人)、②中組織は、サッカーやラグビー等の人数(10~15人)。③もう少し大きい学校のクラスの人数(30人~50人)、④それ以上は、お互いが顔や個性を認知していなければならないから、多くとも150人が限度とされているそうだ。150人以上の組織体ならば、ホールディングスのような形でぶら下げて運営するか、分社制・事業部制等の方策が必要だろう。

 人は、言葉を操るはるか前から、「音楽」によって結束力を強め、心と心を通わせてきたと山極氏は考えている。今の人間にとっても、そのように出来ているように感じる。例えば、赤ちゃんの泣き声が、お兄さん・お姉さんになる小さな子供にも、耳が遠いお年寄りにも、もちろん働き盛りの男性にも、「どうしたのだろう、あやしてあげなければならない」という気にさせる。また、子守唄や、リズムを取りながら赤ちゃんを「ぽんぽん」とあやすこと等も、心を通わせる「音楽」だ。さらに、みんなで集まってサッカー観戦しながら応援歌を歌う。あるいは、独特の挨拶の仕方をする等で心を通わせて、そして、音楽と言葉を合わせコミュニケーションに繋げていく。ビジネスも同様だ。心が通わないまま言葉だけで仕事をしても実行されない。心を通わせる「音楽」があって上手くいく。こういうことであろう。

 この人数の枠やコミュニケーション、そして「家族」という一番小さな構成単位を念頭に置き、組織運営をしていくことが重要だ。「家族」があって「個人」がある。「家族」が不安定だと、メリットを求める組織の中の仕事も不安定になってしまう。即ち、組織で働く本人だけでなく、その「家族」にも満足してもらう組織であれば、非常に良い仕事が出来る。他人のためにも、組織のためにも尽くせるのだ。

 我々がモノを買うということは、自分の問題を解決するということだ。花や緑を買う時、精神的な、あるいは潜在意識下の課題を解決することである。我々は業界人として組織体を作り、生産組織から花き市場へ、最終的に小売の組織体が、生活者に花を届ける。問題は各組織の構成メンバーである個人が、その組織体に属していることを“良し”としているか、また、家族も“良し”としているかだ。各組織の経営者や運営者は、そこによく目配りして運営していく必要があるだろう。そうでないと、サステイナブルにならないのだ。経営者や運営管理者は、「家族」の幸せを支援すべく社員と接して、個人がやりがいを持って働けるようにするべきだ。山極寿一先生は仰っている。「家族は人間のもっとも古い文化的な装置である」と。

※参考文献
『暴力はどこからきたか~人間性の起源を探る~』山極寿一著、(2007年、NHK出版)
『人類の社会性の進化(上)(下)』山極寿一・本郷峻著 (2017年、詩想舎)

投稿者 磯村信夫 16:35