社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

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2017年10月02日

昨年のこの時期に菊が高かったのは、イベントの種類と数の違いだった


 心地よい季節になり、土日はイベントのかけもちで忙しくなってきた。自ら企画したものもあるが、行事や展覧会で参加しているものもある。モノ消費からコト消費へと支出が移っていることが、自分の行動を見ていても分かる。

 モノが売れないと言うが、2016年の1世帯あたりの家計支出は一ヶ月約30万円余りと、バブルのピークであった1988年と同水準だ。例えば、子どもたちが巣立って行き、家内と二人暮らしの我が家の支出を見ていると、携帯やパソコン、他にも旅行が好きだから交通費の支出も、88年と比べると圧倒的に多い。さらに、二人とも高齢になり、病院へ行ったり、薬やサプリメントを飲んだりする支出が非常に多くなった。一方で、私は昔からスキーや山登りなどの運動をするので、そのモノとコトへの支出は変わらないが、衣料品への支出は減った。スーツ一着とってみても、昔、何故あの値段で買っていたのか不思議なほど、お手頃価格のスーツが沢山あってビックリする。物を身に着ける時、見栄で消費をすることが本当になくなったので、スーツにしても、車にしても、花にしても、「自分や相手にとって何が必要か」ということが大切なのだ。そうなると、昔と比べて安上がりで、心を通わせる物、繋がり消費としてのイベントの支出が多くなる。ついでに、10月1日から値上がりした宅配便代の支出が増える。

 東京・名古屋・大阪を中心にした三大都市圏では、秋はイベントシーズンである。結婚式も春より多くなり、今月末はハロウィンもある。文化の日や七五三、新嘗祭や勤労感謝の日と、秋を楽しむイベントが目白押しだ。それぞれのイベントで使用される花の需要も多い。一方、地方のこの時期は、まさに農村地帯の秋で、稲刈りから始まり、実りの秋の収穫、収穫後の整理、来年の準備等で大忙しだ。しかも、北海道なら札幌、東北であれば仙台、中国であれば広島、九州であれば福岡に、団塊ジュニア以降の若い人々が職を求めて移り住んでしまっているから、地方ほど手が足りない。65歳以上を中心にした花の需要はなんだろう。この、猫の手も借りたい位忙しい時に必要な花はなんだろう。忙しいから出来るだけイベントも余計なことをしたくないだろう。はっきり行事としてあるのは、葬儀と、月二回の仏花、榊の献上が中心になる。

 これらの需要は、都市部と地方の共通のものでありそうだが、三大都市圏では、特に一番若者が多い首都圏では、秋に存在感を発揮する菊も、切花であればディスバッド菊の洋風なものが人気だし、鉢物であれば懸崖菊から始まって、厚物のもの等、江戸時代から続くものがリバイバルして人気になっている。それ以外の普通に出回っている菊は、比較の問題だが、この時期、地方よりも需要は少ない。一方、菊の需要がある地方での花の生産は、生産者の高齢化で生産をする人が減り、少ないハウスの花き農家が頑張っている。しかし、「せっかくコストをかけてハウス栽培しているから、今の時代に注目される花を作りたい」と、菊類ではなく、トルコや草花、枝物を作ったりする。その結果、地方ほどこの時期菊が中心の需要なのに、その供給が少ないということが起こっている。

 昨年のように天候不順で、菊の生育に大きなダメージがあると、10月・11月はバカ高い相場となる。今年も当然、その傾向はベースにある。しかし、昨年よりも天候は順調で、紅葉もまあまあ見れそうだ。そうなると、地方においての菊の高値が大都市にも飛び火して、日本全国が高くなるという、昨年の二の舞はなさそうだ。

 秋は地方都市の需要と都市部の需要が、イベントの種類によって大きく異なっていることを確認しておきたい。一方には農業の収穫期、そして、来年への準備で大忙しの中での、花に関わる行事の需要。一方には都市生活者として、秋の日本の伝統的な行事、そして、国際化したために海外の行事に関わる花の需要。このように、需要の種類や量において、地域間格差がはっきりしているのが、10月からクリスマスまでの間である。  

 これは、日本が理想とする姿ではない。第一次産業と第三次の観光業で、産業政策を行っていくのか。第一次プラスの第六次産業化で行くのか、地方の活性化を図りたい所である。因みに、花き業界では、いい夫婦の日にお父さんからお母さんへ花をプレゼントしてもらいたい。そして、翌日の勤労感謝の日には、お父さんに感謝の花や、すきやきのご馳走やら、晩酌のお銚子をもう一本余分につけたりする日にしてもらいたい。これを日本全体で取り組んで行きたいと思っているのである。




投稿者 磯村信夫 : 15:34