社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

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2020年12月07日

新型コロナ下の松市


 昨日6日(日)、都内の中央卸売市場で一斉に松市が開催された。事前の生産状況では、主産地の茨城方面は日射量不足等があるものの、台風被害のあった昨年と違いそれなりの生産量まで復活したと聞いていた。松に限らず花の場合も、作柄がどの程度なのかは、本当に間際にならないと正確なところは分からない。生産者数の多い農協で取りまとめたと言っても、天候異変等で出荷量がズレる。また、需要側も、選挙日のように、セリ前後の天候や社会の雰囲気で結果が変わる。これが生鮮食料品花きの一つの特徴でもある。今回の松市では、大田花きの入荷数量は一昨年の2018年並であった。これは予定していた通りだ。しかし、買い手側は、昨年の台風被害で生産量が激減したために、必要な数だけ入手できなかった苦い経験があり、本年は早めに手当てした人が一定数いた。  

 大田花きはセリを重視しているので、日頃も品揃えをしっかり行い、入荷量の20%程度はセリで取引を行う。大田花きのセリ値は、日本の花き業界にとって欠かせない指標と考えているからだ。昨日のセリ取引では、ほどほどの価格であったとみて良いと思う。一番、心配されたことは、スペイン風邪から100年あまり。同規模の新型コロナウイルスの第三波の猛威だった。

 本年の松市でこれまでと違うことは、新型コロナの他にもいくつかある。茨城県鹿島・波崎の生産現場で、人手の確保がいよいよ難しくなってきていること。出荷先に複数市場を持つ生産者は、従来のように要望された数だけ出荷すると、運賃が高くなり手取りが少なくなるため、セリ後の代金回収のことまで含め、大手市場への出荷集約を進めていること。買い手側においては、ブーケメーカーが契約取引を積極的に推進しようとしていることだ。これらのことを勘案すると、どの分野の需要に向けて取り組んでいる卸売市場かによって違うが、大田花きの場合、プロの技が生きるお稽古、活け込み、イベント需要が少ないことは、都心に最も近い花市場として大きな打撃だった。また、当初は、家庭需要がしっかりあったので、家庭用の若松等、手軽なものは量が多く必要だと思っていた。しかし実際は、新型コロナの第三波で、現在生花店、量販店の花が動いていない。売れていないので、積極的に小さな松を仕入れて販売する意欲のある業者が少なかった。トータルで見れば一昨年並みの単価となったが、昨年まで割高に推移していた、膝丈くらいの、短い家庭用の若松が安値に転じたことが、特徴的な松市であった。

 
投稿者 磯村信夫 13:32