社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

[]

2017年06月26日

岩盤規制というが、習慣は第二の天性ではないか


 都議会議員選挙がいよいよ始まる。小池旋風が吹き荒れる中、都内の花き市場関係者として、「多様な農林水産花き類が出荷され、様々な需要を持った人が集まる中、生鮮食料品花きの価値と需給バランスから時価を決め、取引、物流させる」。これが市場の役目だと強く認識している。従って、豊洲移転問題において、「豊洲にも築地にも」という判断には反対である。一カ所にすべきだ。同業者の中には、豊洲移転問題を政治的取引にされたことに憤る人もいる。また、市場を運営していくには、やはり現・与党の考え方しかないのでは、と考える人も多い。しかしながら、小池知事の豊洲移転問題から、卸売市場の重要度が、何となくだが一般の方々にも浸透してきたことは有り難い。

 生鮮食料品花きは、天候によって取れ高も需要も左右される。卸売市場は、プロの目で評価する“目利き”、すなわち、外観から中身の価値まですっかり見抜き、真の価値が分かる者が、そんな生鮮食料品花きを一カ所に集めるから、取引回数を減少させる。ソフトのハブ機能を持つ。また、産地から多種多様なものを集め、小売店レベルまで小分けする。小売店では、消費者が買えるロットまで小分けしたり、加工調整をする。この「小売店レベルまで小分けする」のが市場で、物流のハブ機能も担っている。

 差別的取扱いの禁止、受託拒否の禁止、速やかな代金決済機能。高速道路や鉄道網と同等の社会インフラとして、行政府が土地を用意し、出荷者・消費者の為に卸売市場が生鮮食料品花きの流通を司ることは、変わらぬ普遍的な価値を持つと思う。しかし、少子高齢化の中、また、食生活や生活文化が変化する中で、今迄のように数の多い卸売市場が必要だという訳では無い。時代に合わせて廃業や合併が必要だ。この数の調整を、新規参入者や代替品の参入により、競争によって行っていくことは、卸売市場で働いている卸・仲卸からすると甚だ不服だ。数が多い分、安売り競争になっていくからだ。(一社)日本花き卸売市場協会として、自分たちの近未来像をどう描くか。経営力の優れた卸や仲卸はいる。売上だけを見ていると分からないが、買付比率や産地からの指値委託、また、残品相対や事故処理の項目を見ればすぐに分かる。

 大田花きでは、韓国の青果卸売市場やドイツ・オランダの花市場と同様、委託出荷されたものは、「今いくらで誰が買ったか」を出荷者が24時間インターネットで分かるようになっている。セリでは、はじめは50円だったものが、40円、最後には30円になることがあるが、これと同様に、セリ前取引でも同じ商品が何段階かの値段になることがある。その時、出荷者は何故そうなっているのかチェックすることが出来る。共選共販の場合、「一括いくらの平均単価だったか」ではなく、段階的な仕切り金額も見えるようにしている。

 農林水産省のホームページにて、各取引所の“見える化サービス”が始まったが、今後、売上高手数料や物流費の掲載だけでなく、定温庫やMPS(花のGAP)の有無等、鮮度保持対策や取引現場の見える化まで含め、分かるようにしていく必要がある。ただし、今のネット社会では、現代人は何かと忙しい。結局、社風が気に入って、価値観が共有出来ると思った卸売会社に出荷する。農業競争力強化支援法で、仲卸や問屋も、自分が特別にこだわるものは直接産地から荷を引く場合もあれば、以前から仕入れている卸売会社から買うこともあるだろう。専門店も、量販店だろうが、小規模だろうが、地理的経済的に合い、自分と価値観を共有し、取引していて気持ちの良い所から仕入れる筈だ。こうやって、商売上でも、習慣的で信義のサプライチェーンが今迄通り行われていくのが多いと予測している。腐りやすく、「売るに天候、作るに天候」の生鮮品は、信用できる組織でサプライチェーンを作る。結局、今迄とあまり変わりばえがないが、こうなっていくことが人間社会の有り様ではないだろうか。

 日本は縦長で、地域によって文化も違う為、地産・地消の生配販同盟によるサプライチェーンと、全国規模、場合によっては、世界規模のハブ機能を持つ卸と仲卸の、従来の二段階方式の卸売市場との二つを存在させ、機能させることが、この国の発展と安寧秩序に繋がると思う。人間社会だから難しいことを考えない。経済合理性と信頼、価値観を共有する横の連帯、縦の連帯が、生鮮食料品花き流通業界で重要なことは言うまでもない。しかしながら、今迄はBtoBの業者として、細かく、小さくなり過ぎた。『山椒は小粒でもぴりりと辛い』ではなくても生きていけるようにし過ぎたことが、卸売市場の発展を阻害しているのである。共倒れの危機から早く脱し、自らの廃業や合併で市場数を減らし地域の食文化や花飾り文化を維持・発展できる一定規模の卸売市場にして、生産者と消費者、また、地域の小売店の役に立つ。これが、卸売市場の今後のありようである。卸売市場として今からやるべきは数の調整であり、地域の文化を担えるだけの規模を持った卸売市場を作り上げることだ。この近未来像はそう今までとあまり変らないのである。

 

投稿者 磯村信夫 : 16:17