社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

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2019年05月20日

小さな幸せで“トキ”を過ごす。共有化する。ここに消費の鍵がある。


 18日(土)、横浜港の大さん橋ホールで開催『ばらフェスタ2019(当日券1,500円)』へ足を運んだ。マーケティング上、大変勉強になったのでここにお知らせしたい。

 当日の天候が良かったのはラッキーだったが、このことを除外して実態を見てみる。関内の横浜球場の横から大さん橋に向かう道すがらに、このイベントの展示や即売、飲食店等も出店していた。今年からメットライフドームの「国際バラとガーデニングショウ」は開催されなくなったが、このバラ展と同様、バラの苗木や切花を買っていく人たちも多かった。年齢は60歳以上の夫婦と、40歳以上の子連れの人たちが多かったように思う。今の夫婦は「ツートップ」でお互いを個として認め合っている関係の人たちが多い。女性も働いている人が多く、75歳以上になると流石に社会との関わりは薄れていくが、基本的に男性も女性も社会の一員としてリタイアしない。職場はリタイアしてもボランティアに参加する人もいる。もちろんそのまま職場で働いている人もいる。頼らず自立してやっていく。今は働いている奥さんの方が専業主婦世帯の約倍もいるのだ。そして、全国の平均年収は一世帯約540万円と、20世紀後半よりも落ちている。従って、よく言われるように消費に消極的で、それがもう普通のことになっている。しかし、若い団塊ジュニアの世帯と同様、75歳未満の高齢者世帯は、イベントやワークショップ等に積極的に参加して楽しむ。よく若者が海外旅行をしなくなったと言うが、これは日本のあらゆる世帯で共通することで、海外旅行よりも国内旅行であり、もっと近くにある楽しいイベント等に参加していくという風に日本人自体がなっているのだ。そして、駅からかなり歩く大さん橋の展示場まで向かい、1,500円を払ってでもバラ展を見に行くのは、バラの季節だからだけではない。バラ好きが集まって一緒に時を過ごし、中で行われているショータイムを共有している訳だ。
 
 時代は今、モノ消費からコト消費、そして、コト消費から博報堂生活総研が言っている「トキ消費」へ変化している。1980年代から既に言われていた「Having」から「Doing」へ、そして「Doing」から「Being」への、この「Being」がトキ消費そのものではないか。ここに成功の秘訣があると思うのだ。ニューヨークのカウントダウンや、ウィーンのワルツの祭典、渋谷のハローウィンだとかも全て「トキ消費」だ。「ばらフェスタ2019」でもそうだ。イベントの冊子も販売されていたが、あまり売れていないようだった。これはモノを購入しに来ている訳ではないからだ。写真なら自分の気に入るように自分で撮影しSNSで“共有”出来る。また、その場の雰囲気をバラ好きな人と“共有”する。そして一緒にムードを盛り立てて喜ぶ。SNSの「いいね」である。これが「トキの共有化」だ。このような熱気を感じた。
 
  我々が花の消費拡大でマーケティングをする時、60歳から74歳未満の人達を再度見直す必要がある。この世代の夫婦は、先述した通り、今の若い夫婦と同じようにツートップで個を認め合い、それぞれのお小遣いで洋服を支払うようになってきている。また、伝統的な「家」は崩壊しても、「家庭」は崩壊していない。個と個がきちんとチームを組んで家族との関係を保っている。そして、全世帯の平均年収が約540万円で消費意欲は低位のままだが、手短な幸せを求め、かなり堅実にお金も時間も使っている。その中で花消費をしてもらおうとすると、トキ消費であるワークショップ等のイベント、あるいは、積極的にそのものを楽しもうとする味わい。それがキーになるのではないか。我々はまだまだモノだけを売ろうとしがちだが、モノからコトへ、コトからトキの消費へ目を向けなければならない。そこに花を使ってくれる重要な要素があるのではないだろうか。現在、現実的に所得が上がらないから人はお金の重要さを知っている。従って、「鑑賞コスト1日いくら」等、お金に換算したものも必要に思う。そのようなことを勉強し、大さん橋から関内に戻ってきた。


  投稿者 磯村信夫 11:16