社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

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2022年02月21日

家庭で作ったものは「民芸品」


 2月前半は雪が多く、太平洋側は「雪が降るかもしれない」という予報で結局雨だったりしたが、週末の度に個人消費の期待を裏切られた。コロナのオミクロン株の影響で、(気にせず人出の多い場所もあるが)少なくとも年配の人たちの人出がめっきり少なくなった。寒くて天気は悪いし、ガソリンも高くなって、色々な物も値上がってくるというし、オミクロンだしと。生花店も、生活者も、上り坂も下り坂もま坂もある。色々なことがあっても元気で行こう。コロナも「正しく恐れる」のだ。相場は2月に入って20日までは低調だったが、ようやく今日から徐々に浮上して、3月の需要期に向かう上げ相場となってきた。天候だけでも、ちょっと雪の予報が出ただけで、これだけ東京では需要が冷え込むのだから、今年は特に雪が多い日本海側の人たちは本当に大変だろうと思う。日配品の買い物をする場所に自分の店があれば良いが、あるいは、スーパーの中に花売り場があって、自分が納品していれば良いが、お店によって優劣がはっきりしてしまったことだろう。ネット花店やサブスク花店は悪くなかったと聞いている。

 さて、月に1回、広報のアドバイスをいただいている方から、新しい出来事や社会の状況等を教えていただく機会がある。その中の一つなのだが、料理研究家の土井善晴先生が、家庭料理のことを「民芸品」とおっしゃっていたそうだ。この概念はとても重要だ。家によって味がちょっと違ったり、中に入れるものも違ったりする。そして、コンテナガーデンやハンギングバスケットを作ることや、花を家で生けることもまた、手料理と同じように「民芸品」ではないかと思うのだ。これは私がまだ大学生の時のことだが、スウェーデンの友人の家に行ったところ、お母さんが娘にお料理と同じように花を教えていた。花瓶もおばあさんのものを使い、「この時にはこんな風だ」とか教えていたのだ。また、これはもう40歳を過ぎてからだが、イギリスの友人を訪ねた際、友人は息子にペンキ塗りやガーデニングを教えていた。イギリス人は家の裏に自分のちょっとした庭を持つことが夢で、ロンドンの中央駅で帰りにビールを一杯ひっかけて、30分~1時間弱かけて家に着く。郊外の方が、ガーデニングが出来るからだ(因みにその友人は、「40歳を過ぎたら経済関係の本だけでなく、小説を読むように」と私に助言してくれた友人だ。大切なのは感情であり、生きていく人々のことだ。経済のみでは、どうしても「人」が仕事をするということを忘れてしまうからなのだろうか)。 

 そんな訳で、代々繋がるその家流の料理の味と同様、花生けの仕方も「民芸品」だ。そして危惧されるのは、この家独特の料理や花生けの仕方というものが、無くなってきてやしないかということだ。時間の節約で出来合いのお惣菜を買う。栄養のためにサプリメントを飲む等、何か大切なものを置き忘れてしまっているように思う。食も花飾りも文化だから、何か受け継いでいくようなものがあってしかるべきだ。お父さんお母さんから何を花飾りで教わったか。「この掛け軸の時にはこの花を」と決まっているものはないか。あるいは、お雛様を出して、「花桃と菜花とアイリスをこの花瓶で生けるのよ」といったものはないか。食にせよ花にせよ、家代々で繋がる、あるいは地域のお祭りのような時、神社の祭事の時、何か独特のものがある筈だ。そのようなものを受け継いでいくことが、生きていく上で欠かせないと思うが如何だろうか。そして生花店でもこの「民芸品」の大切さを、来てくれたお客さんにちょっと気づいてもらえるような会話が出来れば良いと思う。



投稿者 磯村信夫 16:00