社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

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2020年05月04日

大変な時こそ、不正が起こらないような組織の仕組みづくりを


 5月1日の江藤農林水産大臣の定例会見で、大臣からこのような発言があった。「花の市況が一部戻ってきたように見受けられるが、生産者が出荷調整した分しか出回りが無かったためで、厳しい状態は続いている」。業界の需要回復はまだまだで、もう少し先であるとのメッセージを投げかけてくださった。
 
 先週もお伝えしたが、生花店での三密や物流の混乱を回避するため、今年の母の日は、5月いっぱいを「母の月」として業界をあげて運動している。ご存じない方はぜひともお願いしたい。緊急事態宣言が5月末までに引き延ばされそうであるが、核家族化が進んだ現代、例え近所に住んでいるお母さんであっても、出来るだけ接しないよう控える方が多いだろう。普段ならお店で花を購入し、お手紙を添えて花を届けていた方々が、今年はどこまでやってもらえるだろうか。肺炎をうつしてはいけないと心配し、結局、宅配便に頼まなければならないのではないか。レストラン等は、特別措置でタクシーが配達を始めている。花もUber Eatsやタクシーに頼まなければならないのだろうか。その前に、まずは花キューピットや大手小売チェーン店、あるいは、地元のネット販売している生花店等に頼み、利用をお願いしたい。
 
 さて、ここまで売上が減ってくると、花市場で不祥事が起きないかと心配になる。青果でも水産でも、レストラン等におさめる高級素材が安くなっている。そこの取扱比率が高い仲卸・卸はどうだろうか。
 
 2017年~2019年度の三ヵ年をみると、仲卸の赤字が増え、卸の不正による不祥事が増えてきており、国や地方自治体の頭痛の種となっている。今、新型コロナの影響で売上が減り、国や地方自治体から緊急措置として、様々な形でご支援いただいている訳だが、それを卸売市場の業者側では「なんでもアリ」と捉えるところもあるのではないか。また、本年6月には、新しい卸売市場法が施行される。商法に則った、今までよりも自由度の高いものとなっており、この状況下では更なる不正が発生してしまう可能性が高い。
 
 「タイは頭から腐る」という言葉もある通り、不祥事の殆どは権限の大きい取締役等から起きている。取締役は、会社法355条で忠実義務を、330条で善管注意義務を課されている。具体的に想定される違反行為として①法令や定款等への違反、②不合理な経営判断で会社に損害を与えた、③他の取締役への業務執行に対する監視・監督義務違反等が挙げられる。取締役が会社に損害を与えた場合、その取締役に対して、会社は損害賠償の請求が出来る。日産がゴーン被告に対してそうしたように。卸売市場でもいくつもの例が、ここのところ起きている。一般論ではあるが、このような事例は同族会社や中堅以下の企業で起こりやすいので、部課長も十分取締役をチェックしてもらいたい。また、この場合、株主が会社を代表して直接、取締役に対して訴訟を起こす「株主代表訴訟」が会社法847条で認められている。
 
 一方、取締役が損失を出したとしても、経営判断や信頼の原則に適合している場合等で、違反行為に当たらない場合がある。今回の新型コロナ禍でもそうだ。ミスではなく、状況が一変してしまった。例えば農業の場合、収穫までは、種の準備まで含めると二年はかかる。予期出来ない時代の変化や天変地異の前では、どんなに誠実に経営判断を行っても、その収穫物はお金を生まない。この場合は取締役の違反行為には当たらない。
 
 もう一つ大切なことがある。社員が何か問題を抱えた時に相談出来るよう、信頼のおける第三者に繋がるホットラインを設置することだ。これは大変重要で、開かれた経営をするために欠かせない会社を良くするルールだと考えている。
 
 新型コロナ禍の苦しい状況は、花の場合、来年のバレンタインデーの前まで続くことも想定しないといけない。そこから、ようやく上を向いて階段を上がっていく。日本中の生鮮食料品花きの卸売市場は、社会インフラとして緊急事態宣言下の中でも営業をし続けている。苦しい現状を脱するまで、会社の不祥事で止まることが無いよう、コーポレートガバナンスの強化が必要だ。これは卸売市場だけではない。不祥事が起きるリスクが大変高まっていることを念頭に入れて、業界全体で事業を継続していきたい。


投稿者 磯村信夫 16:04