社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

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2020年08月10日

地方の時代


 広島の慰霊祭で、ガーベラが使われていた。ガーベラというと、子どもたちが「花の絵」を描く時、ガーベラとチューリップを書くくらい、若い人たちに人気の花だ。今年の冬も単価が暴落せずに売れていた。花もちが良すぎて需給バランスが崩れやすい冬だが、コロナ禍でも、家庭用にどんどん消費されていた。一方、夏はガーベラの産毛で花瓶の中のバクテリアが繁殖しやすく、花もちが良くないため、本来なら単価が下がる季節だ。それが本年は、暑くなった今もずっと売れている。品種改良が進んで茎も強くなり、滅菌材や栄養剤を使うよう、生花店がお客さんに小袋で渡したりしているからだろう。それにしても、花との生活の主体が、ご高齢の方から団塊ジュニア、また、その子どもたちに移っていったのがよく分かる。ガーベラは今後とも有望だ。
 
 市場の取引を見ても、コロナ禍ではあるが家庭需要があるので、平時のように見える。しかし、それは、政府や地方自治体が国民に給付金を配布したり、事業者に融資や資金援助を行ったりしているからだ。実際は、今後もリモートワークは欠かせないし、産地や買参人の下へ出向き商談を行うこともままならない。戦時は言い過ぎだが、明らかに平時とは違う状況になっている。ブライダル業界やホテル業界、一流の飲食店業界もそうだ。そこに日本の高品質でこだわった花がいけられたり、隠し味の効いた庭も作られている。それが “からっきし”だ。また、葬儀も同様だ。弔問に行かず、不義理の気持ちを持ちながらも、供花や弔電で済ませてしまう。参列者も少ないだろうから、見栄あるいは体裁のための供花も減る。  

 この状況を一つの変革のきっかけと捉えるならば、「地方の時代」を創っていくきっかけになれば良いと考えている。19世紀の後半から20世紀にかけて、ヨーロッパでは「自然を守り、自然と共に暮らす」運動が起きた。フンボルトペンギンの命名で有名なドイツのフンボルト博士は、自然を守らなければならないとして、ドイツの首都を人口100万人以内に収める都市計画をとった。ドイツでは今でも、自然と共生出来るように、森の公園で散歩したり、人が歩くリズムで生活出来るような都市づくりを行っている。しかし、日本はヨーロッパの都市計画を学ばずして、アメリカに寄り過ぎた。地方に行くと、駅前や街の中心部の商店街がシャッター通りとなっている。郊外に行けば、アメリカのようにロードサイドに皆が良く知る大型店舗がある。これでは文化が無いというのは言い過ぎかもしれないが、地域独自の文化性ある街が無くなってしまうのではないか。この現況の中で、コロナ禍が地域の街づくりを行うきっかけになるのではないかと考えている。  

 今度のコロナ禍でも、国は地方の首長に権限を多く渡そうとしている。しかし、権限を渡しながらも国は協力し、例えば、地域に根差した百貨店が撤退してしまった後地をどうするか等、地域の仕事としてはもちろんのこと、日本国全体の仕事としても一緒に考えてもらいたい。江戸時代であれば、城と周辺の武家屋敷。そしてそこかあまり遠くない場所にある商家のお店や飲食街等、そういったものを、もう一度地域文化として作ってもらいたい。そして、若い人たちに生まれ育った地域で頑張ってもらい、「地方の時代」にふさわしい社会を作ってもらいたい。そうすれば格差は少なくなるし、健康でいられるし、幸せ度が高まるのではないだろうか。また、観光についても、日本は世界に誇れるものを持っている。コロナ禍後に更に観光文化を深めることは、そこに住んでいる人のみならず、世界の人が日本をより素晴らしい国だと認めてくれることに繋がる。花き文化も「地方の時代」こそ、活躍出来るところが多くあるのだ。  

投稿者 磯村信夫 16:29