社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

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2022年06月06日

卸売市場の仕事はそんなに狭くない、もっと幅広い


 先週の土曜日、市場流通ビジョンを考える会の2022年度若手研修会が、大田市場花き部で開催された。座学の前に、各市場の見学があり、豊洲市場水産部を水産経済新聞の八田さんが、豊洲市場青果部・大田市場青果部を農経新聞の宮澤社長がご案内説明した。大田花きでは平野ロジスティック副本部長が場内を案内して、座学となった。若手社員への期待と注文と題して、東京青果の川田専務と全国水産卸協会の網野会長、そして花は、私から、卸売市場は、どのように社会的に役立っているか、漁業者・農業者の繁栄を期して仕事をしているか、また市場の意義について、訓示に近く説明した。

 その後の質問で、産地から生産費がかかるので値上げを言われ、その価格で仕切って卸せざるを得ないと質問があった。卸売市場での価格決定はあくまでも相場であり、赤字を出させてしまうような相場が続くことは、なんとしても起こしてはならない。しかし、一定の幅内で相場が上下するということは、作るに天候売るに天候の生鮮食料品花きの場合、自然であり、サスティナブルである。産地には、諸物価が上がった分だけ、それを抑えられるような情報提供を行い、小売商には、小売りから値上げできるようにロスを少なくする為の情報提供や新しい商品提案、新しい組み合わせによるセット販売など、具体的な支援を行う。それによって、生産者の再生産に繋がる所得を確保できるように卸売市場は努力する。卸売市場の価格はあくまでも経済学でいうところの需給一致価格※1であり、それ以外のところで、生産者支援、小売支援をするのが卸売市場であることを話した。

 もうひとつ、食文化と装飾文化、華道でわかるように、文化の継続と発展の場が卸売市場にあることを強調した。網野会長から、はっきりしたデータを農林水産省は公表していないが、国内で捕れた魚の8割は市場流通している。このことを我々はもっと強調していかないと、特に若い社員のためにならない。魚食の文化、これは刺身だけでなく、日本が世界に誇る文化であり、もう一度、近海でたくさんのいろいろな魚が捕れるようにし、後世に伝えていくのも卸売市場の役割だと感じた。

 その後、東京聖栄大学の藤島教授や農林水産省市場企画の薄井班長、さらに全農青果センターを経て、現在仙台でHS経営コンサルティングをしている本田社長から、簡潔に言えば、卸売市場の人たちは、最初から荷が来て買参人が買いに来てくれるものだと思っている。特に、小売店に、足を運んで提案をしたり、この時期にこの品物をこういう用途で買ってもらおうなどと企画営業をしたことが、どの程度あるだろうか。言うなれば、市場に行けば仕事があって、仕事になったのが卸売市場の営業だ。市場外流通業者がこれだけの量を取り扱うようになっている今、もっと積極的に外に出ていくべきであるとお話があった。研修後のアンケートでも、本田社長が特別にコンセプト整理シートの雛形を作ってくれたこともあり、企画提案や営業上の考え方等、より具体的にもっと学びたかったという意見が多かった。

 私磯村が、若手研修プログラムの最初の挨拶で言ったのは、卸売市場の卸が、市場外流通業者のように仕事をする必要があること。市場法改正で、市場外流通を市場の中に取り入れることができる法整備になっている。それは、卸売市場が、オークション機能とマッチング機能との2つを発揮できる場だからだ。(1999年の法改正により、相対がせりと同等の取引となって主流になってきている。しかし相場を出すオークションは変わらない。) 捕る・作るに天候、売るに天候の魚・青果は、人が生きている限り総需要量は一定で、国産、輸入品、加工食まで含めると毎日の供給量はほぼ一定だが、その内容の品目は絶えず変化している。しかし、その内のいくつかは、一定の需要があり、出荷者も安定価格を求めている。そのために、市場外流通業者が活躍できる余地がある。また、変動をより平らにするために保冷技術があり、設備として保冷庫があったり、貯蔵業務があったりするわけだが、商品特性上、鮮度が命の品物であることは変わりない。卸売市場が、市場外流通を取り込む、少なくとも今の既存の業者と協業して、物流や情報や決済も含め、卸売市場と共にやっていくことが、消費者のため、小売店、出荷者、生産者のために、一番安定する振れ幅が少ない流通である。卸売市場は、経済学で言うとオークション理論※2 に基づいている。同時に、マッチング理論にも基づいており、非常にフレキシブルな理論に基づいた運営がなされている。ぜひとも、自信をもって、卸売市場流通を今、市場外流通で行われているサプライチェーンをも市場流通とすることによって、透明感の強い、納得力のある、すなわち説明できる価格や数量さらに、そういう生鮮食料品花き流通にしていってほしい。流通はブラックボックスであってはならない。このようなことを土曜日の研修を終えて思った次第である。


※1 需給一致価格
買いたい量と、売られる量が一致している価格。すなわち相場。

※2 オークション理論
ウィリアム・ビックリー:1961年オークション理論の論文を発表。1996年ノーベル経済学賞受賞。周辺の経済理論としてマッチング理論があり、現在このアルゴリズムは広くユーザーインのマーケティングで使われている。




投稿者 磯村信夫 17:48