社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

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2020年08月31日

卸売会社のパラダイムシフト※1


 月・水・金の週3回、夜勤と昼勤の人が入れ替わるタイミングの時間に、マネジメント バイ ウォーキング アラウンド(MBWA)を行っている。品物や現場の状態を見たり、社員へ挨拶をしたり、色々なことを聞いたりするためだ。今年の夏も暑い。現場を見るにつけ、熱中症が出ないよう、夜勤の現場環境改善を行うだけでなく、花の鮮度保持も欠かせない。  

 セリ前取引の返品やセリ品のクレームが多いのも、夏の特徴で困ったことだ。特に、多いのは輸入品である。今、日本国で花の輸入オペレーションが機能しているのは成田空港だけだ。しかも、海外からの運賃は、例年よりも二、三割高い。なにしろ人が移動しないから、便数が極端に少ないのだ。また、品物によってはチャーター便を使って日本に来ることもある。そうなるとますます運賃が高いから、一度に大量に輸入して、低温貯蔵したものを週3回に振り分ける。貯蔵の期間、市場まで持ってくる輸送の温度帯、輸送状況、市場での鮮度保持体制等々が上手くいけば、こんなにクレームは多くないのだが、そこまでまだ整ってないのが現状だ。従って、輸入商社はどこの運送会社、卸売会社にそのような体制が整っているかをチェックする必要がある。まだまだ整備が進んでいないが、この辺りを業界は加味していかなければならない。

 今、他の物品を扱っているネット販売業者が「花も扱いたい」と参入するケースが増えている。その中で、大手プラットフォームを利用している業者は、手数料率が4、5割と高くなってしまう。卸売市場を使えば、卸・仲卸で25%以下の手数料で済むだろうし、注文品の欠品の際も、代替産地や、最悪の場合も代替品を手当て出来るので、信用が傷つかないで済む。そんなことから、「D to C」※2の今日、卸売市場を利用しようとする市場外流通業者が多くなってきている。改正された卸売市場法では、卸売市場は自ら市場外流通を取り込んでいくことも出来るようになった。また、生産者に対しては、温室や草刈り機や色々な設備投資の案件等、種苗会社が行っているような商社的な活動が出来るようになっている。さらに小売店に対しても、ソフトなプロモーション活動への案件や、花瓶・関連資材の卸等のサポート業務を行うことが出来る。花き消費拡大の為には、このような生産者サポート、リテールサポートが必要になっているのだ。先週のこのコラムで、大田花きは、というより、卸売会社は「専門商社の視点を持って商売をしなければならない」とお話した。花だけでなく、卸売市場全体が、様々な角度からもう一度、自分の仕事、また、消費者の立場に立って種苗から生産・運送・卸売市場・小売店を見て、良いものが多く提供出来るようにするための問題解決をしなければならない。

 今、「手数料」についての新しい動きが、証券業界、また、銀行業界において出てきている。それは、手数料率0%の動きだ。ネットを使えば分かる通り、皆さんはgoogleにどのようにお金を払っているだろうか。Lineはどうだろうか。この手の話は挙げればキリがない。普段使っている便利なものが全てタダなのだ。ネット証券は取次手数料0円。「振込手数料もネットは無料。店に来て人を介したらお金を一定にいただく」という銀行が出てくるのは普通の流れあろう。では、委託販売手数料を本業の儲けとする我々卸売会社はどうしたら良いだろうか。大田花きは今、委託品の販売手数料だけは8%にしている(一定以上の売上がある産地については、出荷奨励金を加味すれば、販売手数料は7.5~7.7%に換算される)。これ以外には物流費を1ケースに対し50円、ないし、100円いただいている。卸売市場の販売手数料は自由化されたが、今のところ大田花きだけが変更している。花市場なら9.5%と10%、青果は8.5%と7%と手数料率を変動させていない。今後、この取次業務、ないし、委託販売手数料が限りなく安くなることが考えられる。従って、どこで利益を確保するかと言えば、それは周辺ビジネスしかないだろう。オランダならバケツ貸し賃、台車貸し賃、分荷手数料等々、それに付随する細かいものの貸し借りや利用料等である。そして、決済の約定を守れない人のファクタリング、ネット利用料等も重要になってくる。他の業界では普通になっている収益源の多角化を進め、利益を得ていく。  

 今まで“本業”だと思っている収入が、証券会社や銀行等と同じように、ますます手数料が下がり、立ちいかなくなっていくというのが、これからの世の中だ。ニュービジネスがどのような形になるかまだ分からないが、無料サービス、有料サービス、そのあたりの境目はどこなのか、花市場、あるいは、卸売市場業界はきちんと考えておかなければならない。コロナ禍のニューノーマルで、どこに利益の源泉を求めていくか。これがこの夏、8月までの課題発見であった。  


※1:パラダイムシフト  今までの考え方や価値観が180度変わること。

※2:D to C Direct-to-Consumerの略。自社で製造した商品を、自社のECサイトで直接顧客へ販売するビジネスモデルのことを指す。





投稿者 磯村信夫 16:17