社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

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2020年11月16日

内部からトップを作る


 七五三のお祝いだった昨日15日、RCEP(アールセップ:東アジア地域包括的経済連携)が署名された。中国と韓国に輸出しやすくなるはずだが、例えば、TPPを結んでいても、受け入れ側のベトナムでは、TPPで採用されている自己申告の原産地証明を税関が拒否し、未だ従来のEPAに基づく日本商工会議所の原産地証明が必要とされる。このように、新しい協定が徹底されるまでには時間がかかるが、現地投資型の日本としては、自由貿易協定は必要だし、好ましい。  

 花の輸出は今後とも伸ばしていく必要がある。大田花きでは、仲卸数社が行っている輸出事業に協力している。ボタンや芍薬等の大きく存在感のある花は、元来、中国・韓国は大好きだが、それと同様に、繊細な花や茶花、そして、枝物等、まさにいけばなの材料になるものが輸出の対象になっている。足元では香港への輸出が激減したが、中国では盛り返しており、コンスタントに仲卸さん達は輸出している。花を一つの窓口に、日本人や日本の持っている良さを伝えていければと思う。

 さて、コロナ禍でつくづく感じたことは、卸売市場業界、もっと広く、農業・農産物流通業界は、トップとなる人材を内部で育成しなければならないということだ。加工食品なら、他業界から経営者を連れてきて上手くいくことも多い。例えば、カルビーでは、前職J&Jの松本氏が就任すると業績も右肩上がりに。松本氏が退任された後も、北海道のジャガイモについて系統農協とも協業していく体制を取る等、会社の方針も消費者がイメージするカルビーの生きざまになったのではないか。このように、加工食品のメーカーや卸は、他業界から優秀な人に来てもらえれば、良い成果が出せるかもしれない。

 しかし、生鮮食料品花き流通業界では、外部から人に来てもらっても、上手くいかないのではないか。それは、生鮮食料品花きは「作るに天候、売るに天候」で天候(日射量や雨量、温湿度、自然災害等)に需給が大きく影響されるからだ。この感覚が身についていなければならない。更に、魚なら”地魚”、青果や花なら”地の野菜””地の果物””地の花”を見極める目がなければならない。その地の文化を知り、愛することも必要だ。従って、基本的には業界内で育った人がトップとなることが必要ではないかと強く感じている。業界内のどんな仕事も出来る位の経験と知識、そして見識を持ち、上に行くにつれ業界外、あるいは、社会のあらゆることを勉強しながら成長する。そして、農業や生鮮食料品花き流通業の仕事が好きな、あるいは、楽しんで出来るような人材を、業界は育てていかなければならない。即ち、上司は部下を育てなければならない。

 現在、農業、生鮮品のサプライチェーンに関し課題は多くあり、人材不足は特に深刻だ。今も卸売市場では、天候異変で出荷量が減少すると相場高で売上も上がる。そうすると、今までの不安や不満が吹っ飛んで喜ぶ。相場が安くなると、不安や不満が残る。このような仕事をしている人がいる。気分で仕事をするのではなく、取引所の業務である相場の高低以外のところにも、生活者に“美味しさ”と健康な生活、花のある生活を届けるためになすべき仕事がある。業界で人を育て、生鮮食料品花きで日本人を幸せにしよう。

投稿者 磯村信夫 14:40