社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

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2017年04月10日

公益資本主義の中での企業として


 暖かくなってきた今月の5日から、大田花きでは定温庫の稼働を始めた。鮮度保持は、取り扱っている花きの体力を消耗させない為に欠かせないものである。特に、産地で出荷体制が整ってから市場に到着するまでの「温度×時間」、それと、鉢物・苗物の場合は「光」が、花持ちに決定的な影響を及ぼしている。フラワーウォッチ・ジャパン(株)の指導を受けないと、的確なことは言えないが、花き生産者から中間流通、小売まで、この温度時間の考え方をしっかり持っていないと、消費者を失望させてしまう。卸売市場にしても、小売にしても、そして、運送会社にしても、設備投資は大変だろうが、花き業界人の一つの責任として行っていかなければならないと考えている。

 さて、新年度が始まり、いよいよ、今国会でも農業競争力関連の審議が始まった。農業系統団体も農業の未来をつくるべく、機構改革や商取引改革の方針を発表している。会社は寄付を当てにするボランティアとは違い、利益を生み出して自分で動いていく。また、税金を納めたり協賛したりして、社会に役立ちながら仕事をすることで、その会社をはじめ、社会を良くしていく。こういった「公益資本主義」の有り様を、小売も卸、仲卸も、体現させていくべきではないか。そして、農業事業体、系統団体は最もこの「公益資本主義」のイメージにふさわしく、花や緑の持つ人間の心の問題を解決する力を、具体的に大脳生理学やホルモンの作用を研究したエビデンスから、きちんとそれを裏付けて、生活者に届けることが必要だ。生活者の立場に立った供給を行っていくべきなのだ。

 それぞれの立場で取り組むべき課題があるだろう。それを、中・長期的な視点で採算が合うよう、やっていくべき時となっている。例えば、全農は生産者から買い取り、実需者や生活者に販売することが決まっている。そのパーセンテージや年度別進捗具合はこれからの課題となっている。そして、青果の場合、考え方を同じくする、そして、販売力のある卸売会社をパートナーに選び、販売しようとしている。そうなると、運転手不足の中、選ばれなかった卸売会社を利用する仲卸、また、小売店はどうしたら良いのだろう。このような問題をも解決していく責任が、その地域の卸売市場にはある。今までと違った方針を、全農は農業改革の中で打ち出さざるを得なかった。青果であれば、カット野菜で使用する野菜、花きであれば菊等、需要のある定番商品は、買付販売も可能かもしれない。しかし、それ以外の多種多様な品目を、どのようにすれば過不足なく、地域の生活者に質的に選べるよう、選択肢を与えながら届けることが出来るだろうか。今、方針が出されたのは青果物のことだが、「次は花きに」ということになるだろう。この四月から方針が変わった段階で、花き業界も検討していかなければならない。

 花き業界の今までの最重点顧客であった団塊世代が、多方面へ関心を持つようになり、切花やガーデニング等で期待したような需要が増えなかった。もう一度、消費の実態を見据え、本当にお金を出しても欲しいと思ってもらえる商品を販売しなければならない。生産者が直接、多岐にわたる小売りチャネルで販売出来れば、今、消費者が欲しがっている花や緑も把握しやすい。場合によっては、ウォンツまで想定出来るかもしれない。しかし、夫婦でも回る仕事、市場でも、小規模で運営が可能な仕事等、少人数の事業体で構成されている園芸生産流通業界は、やはり情報共有を行いながら、業界全体で消費者の気持ちに焦点をあてなければいけないだろう。

 それでは、生産者は誰と組むかだが、中央卸売市場は差別的取り扱いの禁止と受託拒否をしない点に公共性がある。その卸を利用する特定の仲卸、小売店と生産者は協力し、消費の実態を良く知り、パレートの法則通り、売れ筋8割、残りの2割は新規の提案をしていく。ここに商品群を絞って生産していって欲しい。そして、花き産業の一企業体は、社員、取引先だけでなく、地域社会や地球環境の問題を含めて、全てに関わっているのであるという、「公益資本主義」の意識を持って仕事をして欲しい。

 東芝も、きっかけは株主資本主義に毒され、大変なことになってしまった。今や、会社の大きさに大も小もない。小であっても、自分の影響範囲の中で、公共性・社会性を考え、儲かる経営をするために仕事の視点を変えて欲しい。それが今期中にやりだすことだ。


投稿者 磯村信夫 : 17:29