社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

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2020年10月05日

今期の需給バランスと気を付ける点


 10/4(日)、台場のホテル内にあるスポーツクラブへ向かった。一汗流した後にホテルのホールへ出ると、久しぶりに結婚式が行われているのを見た。検証した訳ではないので大体の感じとして聞いていただきたいが、結婚式需要を主として扱っている仲卸さんの情報では、この10月は前年の3割近くの需要のようだ (件数は5~7割に回復しているかもしれないが、規模自体が小さくなっていると予想する)。10月からGo Toトラベルに東京が追加され、注意しながら集まったり、観光スポットへ行っても良いような雰囲気である。昨日の結婚式もその1つだろう。  

 本年3月、国は危機感をおぼえ、農水省は公共施設や人が多く出入りする場所に行場を失った花を飾ることで、販売業者の仕事の創出にも繋げる補助事業を行ったり、youtubeチャンネル「BUZZ MAFF(ばずまふ)」にて、花のホームユースを訴えるキャンペーン動画を配信する等、生産者に生産を続けてもらうため、販売業者に花の仕事を続けてもらうための支援を行った。喚起する需要は個人需要、家庭需要である。この事業は地方にも波及し、各県でも同様の事業が展開されている。これらの国や地方行政の支援もあり、「身近なところに花や緑を」は定着してきている。10月4日付の日本経済新聞の日曜朝刊「NIKKEI The STYLE」では、花や植物が我々の生活の中に欠かせないことを訴えてくれているし、隔週発行の雑誌「pen」では、ワークアットホーム特集の中で鉢物や花束のインテリアを掲載している。しかし、「身近なところに花や緑を」は定着してきているが、供給量が足りない。本年2月下旬からの新型コロナによる花き業界の大ダメージを受けて、今秋出荷分の作付けが少ないのだ。特に品目的にいえば、ファレノの鉢や小菊の供給量が圧倒的に足りない。それは、年配の方の意欲がなくなってやめたり、苗を購入しなかったり減らしたり、他の作物に転作したり等の結果である。国内生産の縮小状況は2020年度中続くだろう。

 Go Toトラベルに東京が追加されて移動が出来る雰囲気になってきたが、生産者の皆様方は、まだまだ産地へ来てもらうのは大歓迎という訳では無い。しかし、我々花き市場人からすると、まず直接お会いして、個人需要、家庭需要の根強さ等の現状について、そして、今後の方向性について話を聞いてもらいたい。そして、一度お会いして理解してもらえれば、次からはリモートでも十分に意思疎通が図れるはずだ。品目選定や規格等も含め、ターゲットを明確にした生産出荷計画を共有することが出来る。これを出来ればこの10月、取り組んで参りたい。

 花き業界人と消費者の認識には、ズレが生じているように感じる。先週後半のスーパーマーケットの花を例にとろう。GO TOトラベルで外に出て、ステイホームしていなかったから花が売れなかったのではない。相場が高かった為に花束のボリュームがなくなって、場所によっては単価が高い、また、魅力ある花が少ない、季節を感じさせない等、どうも上代の価格に比べて割高感があるのだ。家庭需要は一つの流れになってきているので、ワインと同じような感覚でイメージしてもらいたい。1週間で家庭に赤ワイン・白ワインがそれぞれ1本ずつ、値段は1本800円から2,500円くらいまで。こんな調子だ。家庭によってはこれが2週間に1束になるかもしれない。この価格帯でどう売り上げていけるかだ。ちょうど、ユニクロが展開しているように「小束3つで1,000円」という、分かりやすい会計と値頃感のある価格帯の展開方法もあろう。現状は、「9月末から生活防衛に動いている消費者」と、「9月から花の単価が一段高くなった花き業界」。消費者の気持ちからすると「値頃感を求めているのに割高になった家庭用の花」、このように感じられるのではないだろうか。我々はこのズレが生じないようにするために、ブーケメーカーやチェーン展開している小売店等、主として家庭需要に特化した店と、魅力ある商品づくりを検討していかなければならない。鉢物であれば、寄せ植えまでは出来なければ鉢カバーを変える等、何らかの手間をかけてやっていくことだ。切花であれば、やり方はいくらでもある。季節の枝物を入れたりハモノを多く入れてボリュームを出していく等だ。  

 8月中旬のNHK世論調査によると、70%の人がこのコロナ下においても所得が減っていなかった(所得が減った人は24%だった)。しかし、国もこれだけ大盤振る舞いしているからお金が無くなる。企業も同様だ。この下半期、10月から今後の予測出来る需要に合わせて社内の人員整理や所得下げをせざるを得ない企業も出てきている。従って、この10月からの生活者の支出に対する考え方はこれまでと違う。これを前提に、商品構成や小売での販売方法を検討する必要がある。家庭需要といえども、浮ついた考えでは消費者の期待を裏切ってしまう。神経を使って新しいものを生み出していくことを、また、用途に合わせた規格変更、商品づくりを生産者、小売の皆様と行って参りたい。農水省は、2030年までに国産花き産出額4,500億円を目指している。特に新品種や新品目を導入する仕事は、2、3年後をめどに卸売市場全体で実作業を進めていきたいものである。


投稿者 磯村信夫 17:12