社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

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2018年12月10日

今年最大のニュースは温度時間


 8日未明、外国人労働者の受け入れを拡大する出入国管理法改正案が参議院で採決されたが、手不足感は業種によってかなりのところまできている。「きちんと制度化し、『共に生活する仲間』として外国人を雇うことが必要だ」。そう花き生産者や園芸農業者の方も仰っていた。コストだけで雇うことは、もう既に出来ない状況となっている。

 日本には従来型の農業生産(戦後の農地改革の結果、狭い農地面積で生産する農業)と、欧米型の農業生産(工場化や大規模な生産)がある。どちらも、ICT技術等を使っても、苗作り、選別、出荷調整、物流等で人手は必要だ。また、周年栽培した時に一番の問題になるのが、クーラー(ヒートポンプ)の電気代である。場所によって夏は休む、あるいは作物を変える必要がある。すなわち、日本の縦長の地形を生かした品目のリレー出荷が必要で、その方が効率的である。その際、人を入れたとしても農閑期があるから、外国人労働者にも移動してもらいたいという要望が出てくるだろう。そのようなことも可能な仕組み作りが、とりわけ一次産業、あるいは、建設業に必要なのではないだろうか。

 現在、天候の影響により、特に秋から冬にかけて生鮮食料品花きの生産量が足りないことがままある。それを補っているのが輸入品だ。国内生産が少ない分だけ、輸入品の手当がされる。今年は暖秋・暖冬で国産ものの相場が安くなっているが、それよりも安く輸入品が出回っている。しかし、日本人も”メイド・イン・ジャパン“が大好きだ。花の場合も国内生産を増やしていく必要がある。その為の仕組み作りを、人手不足の中でも行っていこうとしている代表的なものが、年末の松や千両だろう。松や千両の生産を日本人だけでやっているというのは大間違いだ。もちろん農場によっても違うが、アジアからの出稼ぎ労働者で大半を回しているところも決して少なくない。それ以外の花も同様の傾向である。
 
 さて、今年ナンバーワンの重大ニュースは、花もちに関する話題だ。花もちには諸条件があるが、単純に言って切花収穫後の温度×時間で決まる。日本の場合、1,000温度時間位で卸売市場から小売店に届けられれば、消費者の家庭で一週間花をもたせることが出来る。この時、目標の1,000温度時間であれば、湿式輸送でも乾式輸送でも花もちに影響しないことが分かったのだ。更に温度×時間が大きい時、すなわち高温の時は、乾式輸送よりもむしろ湿式輸送の方が花もちが悪くなるという研究結果もある。
 
 定温管理された乾式輸送方式の方向性に、世界の花き業界は舵を切っている。例えばオランダでは、日本より更に厳しい500温度時間クリアを目安に、乾式輸送のものを後処理して咲ききるようにしている。日本ではまだ湿式輸送の方が「花もちが良い」という印象があるが、世界から遅れをとっているのだ。今必要とされているのは、定温環境の中でのサプライチェーンである。定温庫、定温作業場、定温トラック等だ。そして、(一社)日本花き卸売市場協会が勧める規格箱を使った積載効率化、軽労働化を考えたパレチゼーションも必要だ。
 
 温度×時間を適切にすることによって、消費者の花もちへの期待を裏切ることなく、各生産者、運送業者、卸・仲卸、そして小売店の手取りを上げることが出来ることが分った。定温庫設置等のイニシャルコストはかかるが、今まで用意してきた余分なスペースや人件費を削減し、是非とも、流通の合理化に業界を上げて取り組んでいきたい。
 
投稿者 磯村信夫 16:50