社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

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2021年08月09日

フロネシスDo it


  オリンピックの各種競技を見ていると、スポーツによってこうも理想的な体型が違うのかと、その道に特化すると、多様な体型になっていると感じる。ウェアも同じく特化しているので多様だ。

 このコロナ禍の中で選手を送り出すということは、世界全体が豊かになってきている証ではないだろうか。確かに難民選手団のように、国際紛争で被害にあっている国民も多いが、しかし、オリンピックの理念を貫き通して、200以上の国や地域から集まってこられているのは、20世紀の戦争の時代とは違う。一定に安全で、飛行機で来ているから便利で、コロナ禍で選手村滞在中の不自由はあったかもしれないが、それなりに快適な状況を提供出来ていると思う。申し上げたいことは、南アメリカも、アフリカも、アジアも、確かに、まだまだ物質的に不足の部分もあるが、しかし、満たされてきているのではないか。ナイル川の源流近くのエチオピアが大きなダムを建設し、ナイル川の水利権についてエジプトとの間で紛争が起きているが、これもエチオピアがダムを建設することで電気を供給し、国民に快適な生活を提供しようとしているからだ。今までより急速に、世界が物質的に満たされつつあると感じる。一方で、モノが満たされるのと同時に、生きがいややりがい、自分が働く意味、生きている意味を見失いがちになる人が多くなっている。WHOは、21世紀最大の病は「鬱」だとしている。物質的に満たされることと、精神的に満たされることは異なる。マズローの欲求5段階説が提唱されて久しいが、一定の所得になりモノが満たされると、法人から個人まで、存在の意味的価値を絶えず確認していかなければ、精神がブレてしまうのだろう。  

 世界ではGDPの伸び率が相変わらず注目されているが、ここまで物が満たされてくると、GDPの伸び率で経済成長を図るものではないのではないか。経済成長率よりもむしろ、サステイナブル、持続的発展の方が大事になってきているのではないか。ESG経営をせよと社会が企業に云っているのは、こういう意味ではないのか。今後の発展の指標をGDPの成長率ではなく、サステイナブルの実現だとすると、花き業界はどうすれば良いだろうか。  

 人が幸せになるために、前回のコラムでお伝えした4つを体感するには、日々の生活を送る上で、心身の健康、お金、そして、自然と文化的な日常が必要だ。「衣食住」も文化的な生活に含まれる。ただ単に食べるだけでは意味がない。食文化に触れること、作った生産者との繋がりを確認できること、あるいは、その農産物やお肉・魚が持っている文化的な背景を知ること等、文化を大切にすることが必要なのだ。同様に、花きは自然と文化そのものである。生活者には、花や緑を身近に置いて日常生活を送って欲しい。そのためには、日本は地域によって花の装飾文化が違い、植物そのものも違う。従って、地域文化や風土に合わせた花きを生花店が生活者に届けることが必要だ。それ以外にはスーパーやらホームセンター、ネット販売、あるいは、サブスクリプションで届けてくれる小売店もある。これらの人たちに花きを供給するのは地元をよく知り、地元を愛す市場の役目である。

 現在、日本には100以上の花市場があるが、県内の同業者同士で競争し合うと、結局、安売り競争になってしまう。これでは地域文化を守っていけないので、花き市場は取扱い金額で15億円規模を確保し、20億円を目指そう。そうしなければ、物流上の効率が図れず、生産者の手取りが減ってしまったり、運賃を市場が負担したとしても、物流費で市場の利益が飛んでしまう。世界の花の生産量がそんなに増えると思えないので、取り合えば足りず、分け合えば余るかどうか分からないが、少なくても、同業者同士でも譲り合えるようにしなければならない。卸で方面別にチームを組む。そのことは即ち、産地ともサプライチェーン上でチームを組むということになる。その地域に合った花を産地から出荷してもらい、地元の文化を良く知る地元を愛す小売店に販売してもらうのだ。これを、今まで出来ていたし、これからもやっていかなければならない。

 花の小売業は、小さくても成り立つ仕事だ。小料理屋と一緒で、夫婦2人でも十二分にやっていけるし、繁盛させることが出来る。農業もそうだが、時代と共に地域の人たちと変わりゆく価値観を共有できる小売店、この人たちが花き業界の最終アンカーでいてくれることが、生産・種苗まで含めた花き業界の仕事をする有様である。その目的は地元の生活者にこの地に生まれて死んで良かったと思ってもらう為の一助になることだ。これが花き業界が存在する意義だ。この地元の小売業の人たちが繁盛するように、即ち、消費者に受け入れてもらえるようにすることを、市場の立場でも願って実行するのだ。繰り返すが、日本はゆるキャラやB級グルメなど、地域の風土、文化にあった産物がある。私たちの生きがいは、その地の風土、文化にあった花きを作って流通させ人に幸せになってもらうである。地域の生活者からすると、花を買いたいと思って買って、幸せになることだ。それが花き業界の生きがいとやりがいだ。従って、今後とも「仕事をしている意味が無くなる」、「意味を見出せなくなる」ことは無いと断言出来る。

※フロネシス:古代ギリシアの哲学者・アリストテレスが提唱した概念で、「実践的な知」を意味する。



投稿者 磯村信夫 15:19