社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

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2021年12月27日

ビクトリーブーケが生み出した花き業界一本化


 2021年の締めくくりとして、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会(以下、「東京2020大会」)のビクトリーブーケと、日本花き振興協議会のお話をしたい。

 ビクトリーブーケは2014年ソチ冬季五輪以来、3大会ぶりの復活となった。ソチ以降の2016年リオデジャネイロ五輪、2018年平昌冬季五輪では採用されてこなかったのだ。しかし、今回の東京2020大会は、東日本大震災からの復興を後押しする「復興の記念大会」として位置づけられた。花き業界としては、何としてもビクトリーブーケを復活させたいという強い気持ちがあった。何故なら、東日本大震災で東北3県は甚大な被害を受け、特に福島原発の事故により農産物は科学的に身体に危険なセシウムが問題視され、殆どの食べるものは風評被害に遭い、その年は売れずじまいだった。しかし、花きだけは唯一、科学的根拠を持って問題がないことを示し、他産地との価格差も無く、その年からお金になった。こうして3県の農業は花きから復興していったのだ。そして3県は今も、地元民の努力と政府や国民の応援で、力強く立ち上がろうとしている。このような背景から、また、世界に冠たる「花の国」である日本での東京2020大会では、「世界からご援助いただいてここまで復興しました」というメッセージを、世界の皆さんにどうしても送りたい。また、東北3県は、夏でもこんなに素晴らしい花を作っているのだと、世界の皆さんに見ていただきたい。この想いがあった。そこで、日本の花き産業・文化団体が一つになった「日本花き振興協議会」を設立し、業界全体で自由民主党フラワー産業議員連盟の先生方や大会組織委員会の方々にIOC・IPCへ説得に説得を重ねていただき、当初から採用は難しいとされたビクトリーブーケを復活させることに成功したのだ。

 ビクトリーブーケには、日本原産のリンドウやナルコラン、日本が素晴らしい育種技術を持つヒマワリやトルコギキョウ、そしてバラが使用された。また、ステム部分には開催地である東京都産のハランが巻かれた。中には鮮度保持剤が入っており、選手の下に渡っても数日間はもつよう工夫されていた。更に、産地から表彰式会場までの温度管理も徹底して行われ、花の品質を保つ万全の体制が敷かれた。これらはいずれもオリンピックを機に全員で力を合わせようと、日本の花き産業、文化団体が一つになったからここまで完璧なものに出来たのだ。更に、日本花き振興協議会の中でも、ブーケ担当の(一社)JFTD、(公社)NFD、そして、物流関係を担当した(一社)日本花き卸売市場協会、また、全体の構成プランや折衝業務を行った(一社)花の国日本協議会からなるタスクフォースチームのメンバーが、日夜努力してくれたおかげだ。また、忘れてはならないのが、呼びかけに応じてくれた花き業界の仲間だ。ブーケ作成、表彰式会場での管理等、多数の方にボランティアとして活躍いただいた。その方々の善意はきっとビクトリーブーケを通じてメダリストへ、大会関係者へ伝わっていっただろう。

 実は、日本花き振興協議会が東京2020大会で担ったのは、ビクトリーブーケだけではない。2021年3月、福島県で開催された聖火リレー出発式の会場におけるいけばな装飾、そして、大会期間中に世界のメディアの方々が集まる報道センターとなった東京ビッグサイトでのいけばな展示。これを日本花き振興協議会に加盟する(公財)日本いけばな芸術協会が担当し、各流派の家元が共同作戦で一つのものを作り上げてくれた。違いがあるので流派がある。それぞれが素晴らしいのだが、それを乗り越えて一体化した展示を、どこまで海外のテレビの視聴者に分かってもらえたか分からないが、少なくとも、日本人としては目を見張る偉業と言えるのではないだろうか。

   最後に、東京2020大会はコロナ禍により1年延期となったが、突然のコロナパンデミックで花き業界は一時需要低迷に苦しんだ。その時、花き産業・文化業界が一本化した日本花き振興協議会があったので、早速対策を練ることが出来た。農林水産省の補助金を活用し、かなりスピーディーにロスフラワーにしない施策や、新しい需要の喚起等を日本花き振興協議会の会員団体を通じ実行した。同時期、農林水産省でもはインターネットで広報活動も積極的に行い始め、花の需要喚起も行ってくれた。これが人気サイトになり、花を生活に取り入れてみようかと思う若い人たちが増えていった。業界が一本化して取り組み、国と協力しながら行動出来たおかげである。

 2020年、2021年はコロナ禍で色々なことが変化したが、花き業界がバラバラでは駄目だと改めて感じた。一本化してやっていこうとする強い力が芽生えたことが収穫であり、これを具体的な花き業界の繁栄に繋げていけるものと確信した次第である。


投稿者 磯村信夫 12:47