社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

[]

2018年12月17日

セリ取引中心だった大田花きの千両市


 首都圏の花き市場は、昨日の16日が千両市だった。大田市場では苔松・苔梅市と同時開催だ。苔松・苔梅は取扱い量が多く、若松等の筋物が中心の松市とは一緒に開催出来ないからだ。

 その千両市での千両入荷数は、過去5年で最も少ないものとなった。裏年であることと併せて天候による災害もあり、土作りを十分に行っていたプロの千両農家でも数量は減少した。「切り出してみたら、三割以上も少ないんですよ」との生産者の情報は事前に入っていたが、過去2年、塩害はあったものの豊作だったので、情報の受け取り方にも油断があった。一緒に畑に入って精査するところまでしなかったのは反省すべき点である。

 「差別的取扱いの禁止」が定められている現在の卸売市場法では、買参権を持つ者はセリ取引もセリ前取引にも参加出来る。先週の松市では昨年のセリ相場が影響し、どこの市場もセリ前が高く、セリはセリ前価格に比べて安くなった。千両市はその逆だ。昨年は豊作だったり、実付きは良いが塩害で葉が痛んだりしていたのでセリ取引は安かった。それを引きずった値段で本年のセリ前取引に臨んだ花き市場は多い。しかし、首都圏の千両市の前日に取引を行った関西市場の入荷量と高値を知って、買参人は「首都圏も高いかもしれないし、希望通りに手に入らないかもしれない」という不安があったのだろう。結果的に駆け込むようにセリ前取引の依頼があった。
 
 大田花きには現在の実勢価格を生み出し、日本中、あるいは海外に発信する“花の取引所”としての役割がある。東京証券取引所等と同じ役目だ。大田市場の公平な分配ルールとセリ取引で日本の千両相場を発見する為、大田花きでは本年、セリ取引中心の千両市となった。昨年に比べ大幅に入荷数量が少ない為、セリ前取引を制限した。その結果、他市場での手配に切り替えた買参人もいらっしゃった。卸売市場の社会的な役割とは、また「差別的取扱い禁止」とは、そして「公正な取引による分配」とはどういうことなのか、つくづく考えさせられる千両市であった。
 
 花は「見るもの」であるから、多種多様な花が出回る。平常時でも、品目の中にもいくつもの品種があり、同じ美しさでも等階級が異なったりするので、大田花きでは日量1万5千以上のアイテムを集分荷し、値決めをしている。また、花は「より綺麗なもの」、「選抜されてきたもの」だ。そして日本の農家の皆様方は技術的に優れている上、手をかけることを厭わない。生産性よりも消費者に求められる商品を追求し、いつの間にか弱いもの、天候異変の中では影響を受けやすく作りにくいものを、生産出荷してもらうことが多くなった。
 
 昨日の千両・苔松苔梅大市では、普通の商売とは異なる、社会インフラとしての卸売市場の存在意義と機能が発揮された。来年の日本の千両の相場は、大田花きの昨日のセリ相場が指標になり、それぞれ展開されていくことであろう。
 
投稿者 磯村信夫 17:37