社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

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2018年03月12日

シェア拡大中のSP菊他


 いよいよ、年間最大の需要期の一つに突入してきた。卒業式、謝恩会、新しい門出を前にしたお別れパーティー、ホワイトデー、お彼岸、結婚式等々、需要を挙げだしたらキリがない。それに合わせて、切花も鉢物も、苗物も、活発に荷動きしてきた。

 今朝の市況を見てみると、SP菊が少し重い。それは、需要が薄い訳では無い。需要はしっかりあるのだが、それ以上に、日本の全国レベルで見て入荷が多いのだ。毎年、秋になると天候の影響でSP菊の絶対量が不足し、高値になる。それを受けて、輸入商の方々は1月からの新年度(海外では1~12月が決算年度が殆どだ)に輸入量を増やす。これが、2016年から引き続き行われているため、入荷が多くなる。

 菊というと、SP菊の他に一輪菊と小菊があるが、一般消費者には、これらが「仏花専門の花」と映ることが多い。一方、SP菊なら花束のアレンジに入れる等、他の需要にも使える。従って、消費の主体がすっかり団塊ジュニア層に移った2017年から、SP菊の割合が増えた。保守的な花屋さんは、まだSP菊を使わず、一輪と小菊に業者としてこだわる。しかし、消費者は、仏花でもそこまでこだわらない。消費段階の需給バランスではなく、業界の中での需給バランスの問題で、SP菊は今、難渋しているのだ。ディスバッドのように、印象がまるっきり違う菊であれば、差別化はしやすい。しかし、慣れ親しんだSP菊は、菊類の中でシェアを拡大する為に、卸売価格の問題で苦労している。

 今、SP菊は菊類の中でシェアを拡大しようとしている。マレーシアのモーガン社、ダイドーグループ、ノートルダム社等の、優秀なSP菊の農場が、SP菊のステータスを上げてきた。丁度、コロンビアのいくつもの優秀なカーネーション農場が、日本のカーネーション生産者と激しく競争しながらも、消費者の支持を得て、需要を拡大したように。先述した3つの農場より、品質が下のグレードを狙っても良い。しかし、それ以下の品質のものは、消費者を失望させ、SP菊離れが起きてしまう。ここに輸出入商社の皆様と、国内生産者の方々は気を付けて、生産・出荷を行って欲しい。

 そして、本日はもう一つ、東日本大震災からもう7年も経った。エピソードは沢山あるが、その中から3つ話をしたい。一つは(株)盛岡生花地方卸売市場さんの話だ。7年前の震災の際、被災された花屋さんもいたが、「こういう時こそ、店を開けて花を届けなければ」と思った花屋さんに、ほんの数個、たった一個でも、花を配達して届けた。食べる物も、もちろん、ガソリンもないというのに、市場として行った。

 二つ目は、㈱石巻花卉園芸さんだ。石巻花卉さんに施設被害は殆ど無かったが、社長のご自宅は津波の被害を受けた。しかし、市場の仕事が出来る悦びに安堵した。荷が来ない、お客さんも来ない。ガソリンも食べる物もない。そんな中で、とにかく荷を手当して、花屋さんに花を届けた。また、沿岸地域の街は無くなってしまい、避難所に人はいたが、花屋がない。だから、ご自身でも花束を作り、写真も何も無くなった、痕跡の無くなってしまった故人に対し、手を合わせる為の花を届けた。色々なことで花を必要としている人、茫然自失としている人、花にしか心を開かなくなった、残された人に対して、花を届けた。市場が花屋さんを飛び越して、そんなことをするというのは、花屋さんを敵に回すことになりかねない。しかし、「もっと大切なことがある」と考えた石巻さんは、花束を届けることにしたのだ。

 最後に、(株)ブルーミストの蓑口社長の話だ。東日本大震災が起こり、全ての人が、今迄やってきたこの仕事が「本当に価値のあるものなのか、このまま続けて良いものなのか」、苦悩したことと思う。蓑口社長は、当時、売れ残った花を被災地・いわきへ配りに行くことを繰り返した。彼は、花屋をさせてもらって、こんなに有り難い仕事は無いと実感した。花は人を幸せに出来る。あるがままを受け止める勇気と心を、持ってもらうことが出来る。

 阪神・淡路大震災でも、熊本地震でも、東日本大震災でも、尊敬する業界人の行動があったことと思う。花き業界のそれぞれの分野で、何気なく過ごせる一日を、より噛みしめて生活していきたいと思う。


投稿者 磯村信夫 16:31