社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

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2020年09月14日

サプライチェーンの可視化~持続可能な発展に向けて~


「SDGs※1」や「ESG※2」が注目されている。これらを企業で推進することが、世界中で期待されているのだ。  

 環境問題まで含め、「SDGsへの取組みはEU諸国が盛んだ」と思われる人もいるが、アメリカでも、オバマ大統領の頃からかなり熱心に取り組まれている。スターバックスもそうだし、ウォールマートが社員に大学へ行く援助金を出したりするのもそうだ。代表的な企業が、まさにSDGs、ESG経営を行ってきている。また、そうしなければ、社会から会社が評価されなくなっているのだ。一方、日本の場合には、リーマンショックや2011.3.11問題、続くデフレに気を取られて、世界中が問題視していることへの対応が遅れてしまった。それを今、取組もうとしているのだ。どこの国でも真剣に取り組まなければならないことについて、本日は、その主だったものを取り上げたい。そして、日本の花き業界全ての組織が真剣に取り組むことを期待したい。

 一つ目は気候変動についてだ。企業は気候変動に対しても、自社が持続的に発展出来るようにする。そして、これ以上、大きな気候変動が無いように、それぞれが対策を始める必要がある。例えば、化石燃料を使用したレジ袋の使用を控えることは、一般社会で行われている。花の場合も、かなり多くのプラスチックフィルムを使っている。段ボールは殆ど再生されているから良いが、他のものは植物由来のものになっているか否か。花に関連する資材に対する取り組みが、まだ欠けている。

 二つ目は農業についての取り組みだ。カロリーベースでの自給率の問題もあるが、日本はOECDの中でも、窒素の使用量を削減出来ていない。特に、花の場合、冷暖房の効率化、肥料・農薬・水の効率化を、目標を持って取組まなければならない。卸売会社の当社は、そのような取り組みを積極的に行っているグローバルGAP、MPS取得企業と取引しようとしているだろうか。世界はリジェネラティブ・オーガニック・アグリカルチャー(環境再生型有機農業)の方向性に舵を切っている。これらへの取り組みを行っている生産者を応援しているだろうか。今後我々も、真剣に考え、実行可能なプランを持ち、取り組む必要がある。  

 三つ目が森林についてだ。私は山登りをするが、いつもカリフォルニアの山火事はどうなっているのだろうと考えてしまう。また、その前の、オーストラリアでコアラが焼け死んでしまった山火事はどうなのだろう。小麦畑を増やすために、アマゾンの森を無くして農業生産を行っていることは一体全体どうなのか。スターバックスでは、森林を保全するための取組みが行われている。化粧品世界大手の英The Body Shopもそうだ。海を豊かにするのも森林あってのものだ。大雨が降るたびに崖が崩れて人が巻き込まれる。道路が封鎖される。この保水性はいかがか。日本でも、森林保全へ向けての取り組みを増やしていかなければならない。山採りの枝物を切り出した時、植林など、生態系を保つような手の入れ方が出来ているだろうか。このようなことが求められる社会が来ていることを認識しなければならない。  

 四つ目が水産だ。家で食べたサンマの値段は600円だった。気の利いた店で休みの日に食べたのは1,200円。これがサンマの値段だから驚きだ。一体全体どうなっているのか。いくつかの国際協定も必要だろう。海のマイクロプラスチック問題から始まって、天候、資源確保等々、やらなければならないこと、企業が出来ることは多くある。  

 五つ目が水の問題だ。日本は水が豊富だから、外国から水源地をきちんと守れば大丈夫かというと、決してそうではない。小麦の輸入を例にとろう。小麦はアメリカやカナダ、オーストラリアやアルゼンチン、ブラジルといった国々から輸入されている。その地で生産に使われた水も、日本は消費をしていることになる。向こうの資源を使って、小麦という果実を輸入しているのだ。牛肉も同様だ。海外での家畜の餌の小麦、その小麦が作られるまでの水や肥料等、それらを消費した成果を輸入している。従って、水に換算すると、日本は水について十二分に自立出来ているとはいえない。サントリーが“水を大切にしている会社”であるとアピールしている。サントリーは社会的に素晴らしい会社だ。市場も花き小売店も水を大切に使っているか。水もSDGsやESGの重要な観点なのだ。

 六つ目は感染症の問題だ。コロナ下でも事業を継続出来るようにする。そして、感染症対策をしっかり行うことだ。当社は公共インフラの「卸売市場」を運営しているから、休みなく開場している。また、東京都と協力し感染症への対策を打ってきている。感染症だけでなく、BCP※3対策も重要だ。ここを今後とも念頭に経営していく必要がある。

 七つ目がパワーシフトについて。大田花きでは、営業本部でもロジスティック本部でも、全ての部署で女性が活躍している。家庭での花や緑、あるいは、ギフトに、様々なシーンで使いたいと選んでくれるのは、圧倒的に女性が多い。従って、その花きを扱う会社でも、女性がもっと活躍出来るようにしなければならない。しかし、当社にはまだ女性の役員はいない。これは、ESG経営の時代にふさわしくないことになってしまっている。日本企業の2020年3月期決算上場企業の女性役員比率は、6%ほどだという。生活者目線でサービスや品物を供給する企業であればあるほど、女性だけでなく、ご年配も、人種も問わず、色々な人が、会社の中でも社会の中でも力を持ってもらい、指導してもらう必要がある。

 最後に、日本での労働や人権問題を挙げたい。日本はこれからより一層、労働力が足りなくなる。今でも外国人研修生を受け入れて、農家では収穫が行われている。しかし、将来はそれだけで済むだろうか。移住してもらう必要もあるのではないか。また、日本文化を反映した「4月入社」、「65歳定年」、「同一労働同一賃金ではないしくみ」。これらはある意味では障害になるところも出てきている。日本の労働慣行の良さを保ちながらも、職能別に能力を発揮してもらう等のしくみが必要に思う。さらにもう一つ、日本でも繊維産業が盛んなところは、「メイドインジャパン」というだけで、実際には外国人が衣服を作っているところが目に付く。そこでの労働環境が良いものかどうかも重要だ。もう一度、こうした労働問題・人権問題にきちんとした意識を持って、会社も社会も取り組む必要がある。

 では、どうすればこれらの問題を解決し、よりよい社会に出来るかだが、サプライチェーンの可視化により、各生産段階、流通段階、販売段階でこれらの問題に真剣に取り組んでいるかどうかを“見える化”し、生活者に選んでもらう。取引先に選んでもらう。社会に選んでもらう。これは差別的取扱いではない。わがまま放題の自由主義、自己本位の資本主義の“つけ”の後に来る新しい資本主義、民主主義社会の企業経営なのである。まず可視化し、ICTで生活者に、社会にこのサプライチェーンを知ってもらう。買うか買わないか判断してもらう。こういうことが必要な世の中になってきている。花き業界はまだこれから始めようとしている会社も多い。サプライチェーンを、誰と、どの会社と取り組み、一緒になってSDGs、あるいは、少なくともこの8つの要件に向けて努力していくのか、サプライチェーンをB2Bで開示する。各企業でこうした取り組みに真剣にならなければ、世界から取り残されることを意味する。今まで市場法の「差別的取扱いの禁止」、「受託拒否の禁止」により、何でもで受け入れてきた。しかし、それでは、この時代の、社会の大きな課題を解決することに繋がらない。サプライチェーンをもう一度考え、それぞれ社会の中で責任を負っていることを明確に意識し、仕事を行う。ここからまず始めよう。農産物流通業者は自分が「地球環境に問題意識を持っている」と思いがちだが、課題は山積みだ。

SDGs※1  Sustainable Development Goals 持続可能な開発目標  世界が抱える共通の課題を解決していこうとする17の目標のこと。

ESG※2  環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の三つの要素のこと。

BCP※3  Business Continuity Plan(事業継続計画)  不測の事態が起こった際、被害を最小限にするため、緊急時での事業継続の方法を予め策定すること。



投稿者 磯村信夫 16:50