社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

[]

2021年02月08日

ゴールベース・アプローチ


 本を読んでいたら、俳句を詠む人たちにとって「生憎(あいにく)」ということは無いと知った。例えば中秋の名月の日、「生憎(あいにく)」月が見られないとする。残念がってそれで終わりの人が多い中で、歌人は見えない月の現実を俳句にして歌う。端的に言ってこういうことだ。「生憎(あいにく)」というのは、こちらの都合だ。俳句は、その時の心情まで含めた真実を切り取る。その人にとっては「生憎(あいにく)」の月だったとしても、客体の月そのものは、「生憎(あいにく)」でも何でもない。ここをどう読み込むかである。これは、私たちが生きることにも通じる。例え「生憎(あいにく)」な局面にあったとしても、受け入れようが受け入れまいが、取り巻く状況は変わらない。そうであるならば現状を受け入れて、具体的な対応をとらなければならない。今のコロナ禍も、科学的視点、経済的な視点をはじめ、いくつかの視点から現在の状況を受け入れ、今後の行動の指針に繋げていく。こういうことであろう。  

 年を重ねるごとに、命がどういうものであるか分かってきた。命の本質は「時間」だ。自分の命は自分の時間。しかし、存続するだけでは意味がない。命を自分の為に使うことは勿論、当たり前のことだが、人のためにどのくらい自分の時間を使うかに、生きている証を見出そうとする。そんな難しいことではない。現に一人では生きていけないから感謝するのだろう。時間を人のために使うと、こちらが元気になる。辛くてもなんでも、人のために役立とうと頑張って疲れた時、それは良い疲れの筈だ。そうすることで結局、充実した命を全う出来ることに繋がる。

 法人の場合も同様だ。個人の時間が途絶えた後も、法人である会社は存続して欲しい。優秀な若者に入社してもらいたいし、社内でも教育は欠かせない。具体的に対応することで、会社は存続していく。しかし、対応するだけでは、ただ存続しているだけだ。存在を意義あるものにするためには、「ゴールベース・アプローチ」、これが欠かせないと思うのだ。「どういう会社になりたいか」、「仕事を通して、どんな社会にしたいか」。経営理念だけでなく、会社のもっと具体的な将来像。このようなゴールを明確に定めることが必要なのだ。そして、そのゴールを逆算して、今何をやっておかねばならないかの計画を立てるのである。反対に、現時点から出発して来期の計画を立てたらどうなるだろうか。東京は今自粛中で、とにかく集まってはいけないし、結婚式も全くと言ってよいほどないし、葬儀も家族葬で一日葬が増えた。こんな現況で来年度の見通しを立てろといっても、結局、2020年度よりも少しは良いかもしれないが、あまり変わらない。そんなことになってしまうのではないか。「ゴールベース・アプローチ」で立てた計画と、今ある現実から見た計画ではかなり違ったものになってしまう。

先日、夕張市のスキー場が倒産した。再生を願い、「ゴールベース・アプローチ」で頑張っていたところ大変残念だ。本日申し上げたいことは、現時点での状況から来年度の目標を立てると、今年とあまり変えられず、同じことを繰り返し、それでおしまいになってしまうのではないか。社員は会社の経営理念すら頭に浮かべられない。社長は「そこに向かっていこう」と言うが、社長こそ「それは無理だ」と思い発言の機会も少なくなる。そんな風になってしまうのではないだろうか。今の状況、実態は十分参考になるが、「ゴールベース・アプローチ」から逆算し、立てた2021年度の計画、即ち目標は、高いと感じる目標になるだろう。私たち、いけばなやフラワーデザインまで含めた花き業界での目標づくりにも、この考え方を取り入れてもらいたいと思う。人は目標を達成しないと、何か気持ちが悪い。どうにか達成しようとする動物が人間というものだ。


投稿者 磯村信夫 16:35