社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

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2021年04月19日

ウォッチ、中国輸出


 私個人の趣味として、文楽鑑賞がある。東京三宅坂に国立小劇場が開場して以来なので、中学3年生か、高校1年生くらいからの趣味だ。特に人形遣い・吉田簑助が出演する時には、同じ出し物でも必ず2回は見ていた。3代目吉田簑助が師匠である2代目桐竹紋十郎から主遣いを許されやり始める前からの大ファンだ。その吉田簑助が、現在公演中の大阪・国立文楽劇場「4月文楽公演」をもって引退されるとのことで、前から大変楽しみにしていた。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大により、行くのを断念。出し物をイメージし、陰ながら彼の今後の健康を祈っている。  

 文楽には、義太夫の語りに乗せて、三人の人形遣いたちの呼吸や所作の合わせ方がある。これを、卸売市場でも意識していた。セリの荷出しやセリ人、セリ落としたものの荷捌き係の呼吸や所作、間合いを、私自身がセリをしていた時から、文楽鑑賞で習ったものを演じたいと競っていた。自分の「演技」に繋げていたように思う。他にも、歌舞伎や江戸落語の間合いの一部も身体の中に染みついていたが、やはり好きだったのは、文楽の、特に人形遣いたちの芸術性である。3代目吉田簑助を尊敬しているのは、てっきり桐竹紋十郎を襲名するものと思っていたが、最後まで吉田簑助で通した、己に対する厳しさであった。惚れ惚れとした女形の主遣いは人形を大きく見せる。一流は舞台映えすると言うが、何とも言えない美しさ、大きくせまったものが感じられるのは、彼が突き詰めた技、芸術というものなのだろう。

 さて、毎朝、現場を巡回しているが、仲卸さんで中国行きの航空便のスペースが取れずに、今日か明日に回している荷物が置いてある。大田市場の仲卸さんの今一番の輸出先は中国本土で、定番のアセビを中心に、今はドーダンツツジの輸出が始まっている。輸出している仲卸さんたちと話しているのだが、いつ日本製品が中国でボイコットになってもおかしくない状況が、菅総理の訪米、また、菅総理とバイデン大統領の共同声明でも伺える。声明では、台湾海峡の平和や人権問題、日本の防衛力強化が明確に打ち出されており、中国の出方が懸念される。

 中国は共産党が統治している。市場経済を導入してはいるが、政治が経済を統制しており、党指導部は今なお、実質的に中国のあらゆるセクションのトップとして君臨している。従って、対外行動は地方自治体においても、様々な部局においても、原則として共産党が決める潮流と同じ方向を向かなければならない。学校や自治体、国有企業では、組織上層部の政治学習が実質的に義務とされており、国有企業ほどではないが、民間企業も例外ではない。このような体制のため、野田政権の時に日本が尖閣諸島を国有化した際、輸出が禁止されたり、輸出しても通関が出来ずに品物が腐ったり、日本から出店しているスーパーや衣料品チェーン店等で不買運動が起こった。今回の菅総理とバイデン大統領の共同声明は、アメリカを中心とした連帯同盟関係を打ち出しているため、パワーバランスが今までと違う。中国がどう判断するかは分からないが、輸出を考えている方は、輸出出来なくなることも考慮する必要がある。私自身、中国の文化を尊敬し、お付き合いしている中国の文化人もいる。中国人は花や緑を愛し、今後も花きの輸出先となる。しかし、この情勢を前提に、枝物や草花、中国の好きなグロリオサ、芍薬等を輸出していくことになるだろう。まだ、具体的な反応の芽は出ていない。アジアの中でも国ごとに分けて輸出戦略を練らない等、難しい点がある。これを心に留め置き、2025年、また、2030年に向け、輸出増を図って計画をしていきたい。  


投稿者 磯村信夫 16:33