社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

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2020年05月18日

アフターコロナ、品種数を思い切って絞り込む時


 3月決算の企業は、先週までに決算発表を行い、同時に2020年度の売上・利益見通しを公表する。大田花きの売上前年比は、上半期80%、下半期90%と楽観的な見通しだが、1990年9月に大田花きが大田市場花き部の卸として営業を始めてから初めて、約3億5千万円弱の赤字決算を見込んでいる。これは、2020年度の売上予測の通り、期間中は従来まで回復出来ずに、コールドチェーン施設「大田花ステーション」の固定費等を吸収出来ないと見込んでいるからだ。なお、手元流動性に問題が生じる恐れは無いと判断している。
 
 さて、日本は第四次産業革命に乗り遅れているが、「ICT等を活用したデジタル社会」へ仕事も私生活も舵を切り、より効率的な生活の実現が目指されている。その影響は花き業界にも当然及んでおり、ホームユース以外の需要が深刻な花き業界だが、ホームユースにおいても、ネットやサブスクリプション等の受発注形態の販売が伸びている。消費者からすれば、買い物時間が節約出来る点や、24時間受け付けてくれる便利さがある。ECサイトで受発注が行われるが、それぞれのサイトごとに決まった花束やアレンジメント、鉢物が販売される。サブスクリプションの場合もプランは数種類だ。これらのネット生花店、サブスクリプション等の販売シェアが高まるということは、その商品に使用される品目・品種に需要が集中する傾向があるということだ。
 
 冠婚葬祭の仕事花に使用される花の需要が減り、ホームユース需要が本格化している。これはアフターコロナの世界でも続くだろう。これまでの店頭販売では、お客様が来店し、「誕生日の花束をお願いしたい」と店員に声をかける。店員は誕生日の方の属性や好み、そして、予算等、お客様の要望を聞きながら、世界で一つしかない花束を手作りする。世界で最も素晴らしいユーザーオリエンテッド(顧客第一主義)のサービスではないだろうか。ケーキ屋さんでバースデーケーキを注文しても、こちらの好みをきいてくれて、その場で手作りをしてくれるだろうか。マフラーや手袋も、その場で自分好みにカスタマイズしてもらえるだろうか。あらゆる花を上手に使い、消費者一人ひとりの為に、世界でたった一つの花を作る。この大変素晴らしいサービスは今でもあるが、この形態だけでは、生活者の「デジタル化」という生活様式に合わないことになる。ネットやサブスクリプション販売では、配達料も消費者が払わなければならないから、花材代も下がる。その単価水準に、切花も鉢物も合わせなければならない。したがって、生産側としては、四季が感じられる季節の花は非常に大切だが、周年出回る花々や、シーズンの長い花々を、シーズンごとに花の形や色を変えながら、極力品種を絞り、ホームユースの価格帯でも利益が出るように生産を効率化させてやっていくことが必要になる。つまり、季節の花や鉢物、枝物は、一定の品種をホームユースに合わせた規格で大量生産する。一部、業務需要のものについては、市場で特別注文の形にする。このような形態になっていく。また、出荷形態は、園芸鉢物は縦箱の輸送、切花は鮮度保持対策を万全にして横箱で輸送する。そして、商品コードは情報を電子化して、生産から小売まで統一したものにする。QRコードであれば、消費者も使えるようにする。このように一気通貫してやっていかないと業界が赤字になる。もうこの時代に入ってきている。
 
 最後に、小売店での差別化・ブランド化には、今まで花のデザイナー、あるいは、いけばなの先生といった装飾技術を持った人が必要だった。多品目多品種である花きは、使用する花材や使い方でも差別化が図れたからだ。しかしこれからは、花きはユニバーサルな商品なので、差別化するにはICT関連のプロも必要だ。さらに、生活者の新しい習慣の中で、どのように花を買ってもらうか、TPOを考慮した花やみどりを置き方等、マーケティング出来るデザイナーやクリエイティブな人が、生花店にも必要になってくる。市場での目利きにこだわり、従来通りのプロの生花店の仕事のやり方と、ICTまで含めたトータルのデザインでブランド化していくやり方、この2つが花きの小売業界を引っ張っていくことになるだろう。
 
 
投稿者 磯村信夫 18:28