社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

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2021年09月27日

脳はネットワークで、気分を良くするために存在する。


 先週、「プレートテクトニクス理論」で地表が動いているのを知った時と同じくらいショックなことを、脳科学者のバレット博士の著書から学んだので、ここでお話したい。

 人類の脳の進化には、おおよそ次のような道筋があると今まで考えられていた。今から5億年ほど前のカンブリア紀と呼ばれる時代、初めて捕食者が現れ、狩りが行われた。生物は身の危険を感じ、まず自分が生き残ること、次いで、自分の血縁の種族が生き残り繁栄すること、この2つを目的に身体が特化され、脳が発達していった。そして今から3億年ほど前に爬虫類が登場するが、「爬虫類脳」は基本的な食物摂取や闘争、交尾などのために配線されていた。そして、一億年前に哺乳類が出てきて、人間の情動をつかさどる大脳辺縁系が出来上がった。最後に、猿の一部や人類に大脳新皮質が出来て、理性で判断するようになる。クールヘッドが1番、ウォームハートが2番。この2つを大切にしながら人の生活が成り立っていった。今まで、このような「進化の過程で脳の機能が追加され、進化していった」という説を私自身、習い、そして考えてきた。しかし、1990年頃から、大脳生理学者はこの説を「間違いだ」と誰もが言うようになっていたそうだ。人類の脳に新たに付け加えられた部位があるのではない。人類の脳のニューロンが、他の哺乳類や脊椎動物にも見出すことが出来ると証明されているのだ。

 脳とは、いくつかの部位が相互に作用しあう、いわばネットワークで一体化されている。その役割は、生存本能と気分よく暮らすためだ。生存本能とは、敵か味方かを大脳辺縁系が判断したり、喧嘩をしたら交感神経が高ぶって切られても多量の出血になるのを防ぐようにする等々、脳が指令していくつもの神経ホルモンが作用する。二つ目の気分よく暮らすため、というのは「アロスタシス」という概念が関係する。我々がよく知るホメオスタシス(恒常性)とは別に、脳は身体的な予算管理(アロスタシス)を行っている。辛いことがあった時に、それを忘れるようにしたり、他人のために行動した時、βエンドルフィンを出して気分を良くしたりする。この身体の予算管理が出来ていないとうつ病になったり、統合失調症になったりする。例えばドーパミンは体の中に既にあるもので、陸上競技等のスポーツをした時にドーパミンを使うのは、予算管理違反だということだろう。 

 いつも機嫌が良い人というと、ローマ時代のカエサルを挙げる人が多いのではないだろうか。人は猿やチンパンジーと殆ど変わらないが、チンパンジー種は自分の血の繋がった者に対しては尽くすが、全く血の繋がっていない者にはどんな大変でも助けない。一方、人は他人を助けることが出来る。それは、他人を助けることで気持ちの良くなる脳内ホルモンを出す仕組みがあるからだ。こういった脳を人類だけが持っているかと言うと、そうではない。ヒトは進化の過程で20歳までずっと脳を作り続けている訳だから、爬虫類脳、大脳辺縁系、大脳新皮質をここまで発達させているのだ。他の生物は未発達なのだけである。従って、生き物が人類と比べて下等なのではなくて、その必要が無かったり、あるいは、生死の新陳代謝が早く、新しい時代への順応を早くする必要があり、人間とは違うというだけなのだ。 

 人類の歴史は殆ど森やサバンナでの自然の生活だった。従って現代、花や緑を見るとストレスホルモンであるコレチゾールが下がったり、交感神経と副交感神経のバランスが取れる等の効果があるのは当たり前だ。この中で、後はどう文化性を出すかだ。これは恐らく、言葉の領域、物事を象徴的に捉えて言葉や絵にして整理整頓する、即ち「抽象化」なのではないだろうか。エッセンスを引き出して一つの短い言葉にすること、この領域が人類の脳は大変広いと言われている。先述したアロスタシスで気分が乗ったり、クリエイティブなものなど、この抽象化の力が働くからではないかと思われる。 

 今までの爬虫類脳、大脳辺縁系、そして大脳新皮質、この進化の順番だとヒトの脳の知識を得てきた人は、私だけではないだろう。今ここで、脳の仕組みを違ったものと捉えてもらえたら嬉しいと思う次第である。 

参考図書:
『バレット博士の脳科学教室(リサ・フェルドマン・バレット著/紀伊国屋書店/2021年6月)』 



投稿者 磯村信夫 17:08