社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

[]

2017年07月17日

資金繰りがもう一度重要な課題となっている


 7月の盆、迎え火の13日は平日であったので、儀式を執り行わない人も多かった。その代り、土曜日の15日、盂蘭盆会で家族が集まり儀式を行った所、それを日曜日に行った所もあったようだ。「馬に乗って早く来て、牛に乗ってゆっくり帰る」。マコモのゴザの上に牛馬を飾る等の盆慣習が、どこまで引き継がれているのかは分からない。しかし、決して盆の行事が完全に廃れた訳では無く、一定数はしっかり執り行っていた。ただ、団塊世代より若い人たちに、この迎え火や盂蘭盆会、送り火の話をすると、花き業界にいても彼岸と混同している人が多い。盆の入りとか明けとかいっている人が何人もいる。花の市場の役目として、このような伝統文化をきちんと伝えていくことも、欠かせない役目だと思った次第である。

 さて、盆の花が売れたか売れないか、商売の話になると、例年通りに街の花屋さんで買った人が多く、仮に、そこが前年比-10%の売上だったとすると、近隣のスーパーが+10%であった。また、週末に盆の集いを行った家が多く、その前日か当日に花を購入している。これが今年の特徴であった。先週のコラムで書いたように、日本は直系家族で、家長である戦中・戦後生まれの人達の家に仏壇がある。団塊ジュニアのご子息は、平日働いているから、共働きでない場合は奥さんが迎え火に来るだろう。しかし、現代は共稼ぎが主だから、2人そろって、孫と一緒に土日に実家に行った人が多かったという訳だ。

 盆のように花を使う行事が継続されていないことは、花き業界でも問題になっている。現代社会の需要のメイン層である団塊ジュニアの人達は、1991年、バブル経済崩壊後に社会に出て、運良く正社員になった人でも、昇格・昇給がままならず、所得があまり増えなかった人が多かった。更に、正社員になれず、今でも非正規雇用のまま生活をしている人も大変多い。その結果、前向きに伝統を受け入れるという姿勢の人が少なく、向上心等に欠けている人たちを多く輩出してしまっている。だから、7月盆もぱっとしなくなっているのだ。この傾向は、続く8月盆においても言えるということを念頭に置かなければならない。

 さて、本日は、現在花き業界が直面している深刻な問題をお話ししたい。大田花きは、地方の卸売市場だった時代から、仲卸が場内にいる、あるいは、場外で問屋業を営む買参人がいる花市場であった。花市場といっても、昭和7年、日本で最初に出来た植物市場から始まった。その後、大東亜戦争中の統制経済で、「花を作ることは非国民」であった為、唯一生産・流通を許された物故者の為の花、いけばな用の花、切花だけの花市場となったのだ。その後、父が戦地から帰って来た。時代は復興に向かい、鉢物・苗物生産も復活した。そして、豊かになりつつあったので、場内に仲卸のある花市場として、大田市場開場前の1989年には、90億円手前まで取扱金額が伸びていった。大田市場開場後も、差別的取り扱いをしない、産地に顔を向けた卸売会社として、特定の顧客、特定の花きを扱う仲卸と一心同体で仕事を進めてきた。

 農業競争力強化支援法で、卸売市場法が存続して欲しいが、無くなる可能性がある。大田花きは、大森園芸から続くこの仲卸と地方の市場、ないし、問屋さんと共に歩む卸売市場としてやっていくつもりである。“地方の”とつけたのは、昔の話だが、大森園芸で冬場の荷を担当し、夏場は地元の荷で十分間に合う市場や、夏場は産地が地元にあるので、珍しいものや多いものをこちらに頂く一方、一年を通じて不足のものをこちらで調達してもらう市場等、こういう互換関係が地方の市場とあった為だ。従って、今でも、地方市場も欠かせないパートナーとなっている。その大田花きのパートナーである仲卸各社や地方市場の販売先の小売店さん等で、昨年から支払の遅延が多く見られるのだ。

 リーマンショック後の2009年12月、銀行からの借金返済の猶予措置である「中小企業金融円滑化法」が施行された。政府の保証協会等が後ろ盾となり、融資する銀行にリスクがないようにしながら、借金返済の長期化を図ったり、中には、借金の棒引きも起きたと聞く。しかし、地銀の数の調整で、もう新規に貸し出しは出来ないと言ってきたり、あるいは、返済の期日を厳しく守るようにしてきたりしている。この結果、昨年までは経営状態の悪い会社も倒産しないできたが、借換えが出来ない、資金繰りに窮する所が出てきた。それが、花き業界の新たな問題である。

 特にここ5、6年、どこの会社の営業マンも、販売する相手先の与信をとらなくてもそれなりに販売出来た。しかし、それはもう許されない。今後、農業競争力強化支援法で、生産者は直接、実需者に販売するだろう。全農県本部も買取販売することもあるだろう。その時、与信をどのようにするのか。ここで宣伝だが、大田花きは卸売市場のプラットフォーム業務を、後述する4つの流通に分けた。すなわち、商流、物流、情報流、「決済」の資金流である。このどれか一つでもご利用頂こうとしている。この「決済」について、気を付けなければならない時代となっているのだ。

 ベースには就職氷河期であった団塊ジュニアの人たちが、社会の需要を握るメイン層になり、この人達の花の消費動向がなかなか掴みにくいことがある。団塊ジュニアの人たちの好む傾向だけだったら良いが、花の消費そのものをしない人たちもいる。しかし、働き方改革や人手不足は、生活に安定を与え、この人たちを花のお客様にするかもしれない。花の素晴らしさを伝達する、宣伝することを積極的にやっていこうと思う次第である。
 

投稿者 磯村信夫 : 13:35